伏見 直江 [Fushimi Naoe]

Fushimi Naoe (1908 – 1982)

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女優を止めれば何百萬圓かの遺産を相續させるといふ棚牡丹式のウマイ話を弊履のやうにかなぐり捨てゝ斷つた彼は、どこまでも變り種である。まだ築地小劇場に居た頃の挿話だが橋の上に女乞食がブルブルふるへてゐたのを見て貧弱な財布の底を叩いて十圓紙幣一枚を惜氣もなくポント投げて遣った具合なぞどう見ても女侠客らしいところがある。

築地小劇場から帝キネに入社して瞬く間に數本の映畫を撮つて一躍スターに納まつたが、『名劔入り亂れ』という映畫で相手役の百々之助と喧嘩して帝キネをおさらばを極めた。

間もなく日活に迎へられて第一囘作品『忠次御用篇』で愛妾お品に扮して持前の侠艶振りを発揮し續いて『阪本龍馬』に出演して小氣味のいゝ藝を見せてフアンを騒がせている。江戸辯のキビキビした胸のすくような女優である。

『玉麗佳集』(1928年)

伏見直江は映畫界の姉御である。而も鐵火に見える底に氣の弱い、無垢な魂を抱いてゐる女性である。伏見信子のよき姉として、彼女を今日まで育てて來たことでもわからう。一俳優の子として六歳から舞臺生活を送り、後築地小劇場おいて近代劇の眞髄に触れたことが、彼女の演技をどの位育てたか知らぬ。奔放自在な藝。妖艶無比な姿態。而も下品ならぬ所が直江の値打ちである。最近は映畫界から遠ざかってゐる。二十六歳。

『處女作・出世作・代表作 映画花形大寫眞帖』(大日本雄弁会講談社、1934年)