松井 千枝子 [Matsui Chieko]

Matsui Chieko (1899 – 1929)

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明治三十九年十二月四日東京浅草區駒形で生る。府立第一高女を卒へ舞臺教會に一寸加はり後東京シネマに走り『村の勇者』が処女映畫である。轉じて國活に移り松波美子と名乗り島田嘉七と共に人氣を博してゐた。大正十四年二月突如として妹潤子と松竹に入社し羽振りが好い國活では『延命院のせむし男』でお仙。松竹では『コスモス咲く頃』『受難華』『地下室』『海人』『俄か馭者』『濡衣』『海の勇者』の主演があり、最近では自分の原作脚色『哀愁の湖』で妹潤子と共に出演し、藝妓千春に扮してフアンを騒がしてゐる。純日本趣味の藝術的なシンミリしたものを好む。

『玉麗佳集』(1928年)

「春待たで惜しや散り行く名花一輪…」昭和四年四月二日、この日、蒲田の名眸松井千枝子が死んで行つた。年二十七才。フアンはしみじみとその死を悼んだ事であつた。彼女にはえてグウタラの多い所謂「活俳」仲間に珍しい教養があつた。繪も描けた。詩もよめた。字も上手なら、シナリオ一本位は樂々と物す事が出来た。そして外觀的には下町娘的に淋しみのある表情と容姿とがあつた。「甘い」フアンが無條件に引きつけられるのも無理もなかつたのである。なほ實妹松井潤子は健在で現在蒲田に働いてゐる。

『日本映画年鑑 昭和四年・五年版』(1930年4月、東京大阪朝日新聞社)