] 映画の郷 [

本名石井晴正。明治卅九年、神戸市に生る。大正四年市川九蔵の門に入って舞臺に立ち次で映画に現はれ、昭和三年八月、日活時代劇部に入社す。最近の重な作は「傘張剣法」「鬼鹿毛若衆」「怪盗夜叉王」等。近代的な二枚目が得意。身長五尺三寸、體重十四貫。趣味は讀書、乗馬。

『芝居と映画　名流花形大寫眞帖』
（1931年1月、冨士新年號附録）

時代劇俳優だが、現代劇の結城一郎と云ふところである。色若衆に扮して人氣がある。藝風はやゝ安易で甘い。が、これが彼の役柄から云つて、しかたのないところだらう。九歳にして舞臺を踏み、市川九蔵の門下である。『落花劔光錄』『鬼鹿毛若衆』はその當り藝だ。艶情を籠めた眼はフアンを惱殺せしむる。そこが彼の身上である。乗馬に長けて、殺陣に輕快さを見せる。むしろ小柄である彼は、自分の進むべき道を十分に會得してゐる。今や二十八歳（昭和八年）。いつまでも若衆でもなからう。聰明なる彼は、新しき演技にどう轉換するか、殊に女性フアンは氣を揉んでゐる。（日活）

『東西映畫 人氣花形寫眞大鑑』
（1933年1月、『冨士』昭和８年新年號附録）