仏トリブレ社と1920年代の文芸ソフトコア・ポルノ

9.5ミリ 成人向け動画 より

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c1930 - projecteur-pornographique
1920年代末~30年代に縁日で実使用されていた有料のポルノ動画閲覧機。 (内部にはカスタマイズされた市販の9.5ミリ映写機)

今からおよそ百年前の1920年代、フランスで「トリブレ映画社」が活動を行っていました。正式に登記された会社ではなく、違法のポルノ動画を製作して売りさばいていた闇業者の一つでした。こういった活動は摘発を避け匿名で行われるのが原則で、製作会社名がクレジットされる方が珍しい位です。フランスはその意味でやや特殊な環境にあり、トリブレ映画社の他にも「エレム映画社」「アストラ映画社」など幾つかの団体が自社の名前を出していました。

トリブレ社ロゴ

トリブレ(Triboulet)は16世紀初頭に宮廷に仕えていた実在の道化師の名で、奇抜な言動で宮廷の人々を楽しませた一方、王朝の権威を嘲る言動で物議を醸しています。何度か再評価の機運があり19世紀にはロマン主義によって異形のアンチヒーローとして認知されるようになりました。

トリブレ映画社は自社ロゴに道化師をあしらっています。権威への忖度を拒みながら、己の愚かさを自嘲する中世の道化師を自社の活動に重ねたと思われます。同社の個性的なポルノ作りを見ていきましょう。


『隙あらば』 (Indiscretion)

9.5mm、10m(約1分20秒)。登場人物は女性一人のみ。薄手のネグリジェ姿の女性が起床し、窓の鎧戸を開く場面で始まります。数歩戻ってくると体の向きを変え、鏡に映った自分の姿を見つめます。続いてカメラの位置が変わり、椅子に座った女性が下着をはいていく場面の描写となります。足元にストンと落ちるネグリジェ。

鏡台を前にパフで白粉をはたいている女性の後ろ姿。最初は胸元まで髪を下ろしていましたが、この時点では束ねられてすっきりまとめられています。下着姿の女性のバストショット。肩ひもがずり下がって乳房がむき出しとなっています。物思いにふけった表情。立ち上がって着替えを終わらせたところでフィルムが終了しました。

そこまで凝ったものではないにせよ鏡や椅子、鏡台など調度品がしっかりしていて安っぽさがありません。またレースカーテンやシースルーのネグリジェなど透過性の高い小物が含まれることで画面の装飾性が高まっています。露出度は低めながら字幕を上手く活用し、「着替えを見ている誰か」の存在を匂わせることで盗撮の感覚を演出しています。


『踊り子の楽屋』 (Loge d’une danseuse)

9.5mm、10m(約1分20秒)。壁の前に鏡台が置かれ、黒髪の踊り子が化粧をしています。女性スタッフが舞台用のドレスを手に登場、着替えを手伝い始めました。腰に回したドレスのフックをスタッフが留めている間に踊り子は私服を脱ぎ捨てます。場面が切り替わり踊り子のフアンと思しき男性が花束を手にドアをノック。女性スタッフが扉を開きます。踊り子は上半身裸のまま鏡の前に立っていて、男に向けて微笑みを送ります。ここで前半が終了。

後半は舞台に立っている二人の女性を映し出します。一人は先ほどの黒髪の踊り子で腰回りに長い布を巻いた姿でギリシャ風の柱を椅子代わりに座っています。もう一人は「ビリティス」と呼ばれていて、踊り子の周りを舞うように移動。黒髪の女が片手に握った手鏡を見つめたまま、もう一方の手で首飾りを揺らします。立ち去ろうとしていたビリティスを呼び止め、「御礼に」と暑い抱擁を交わすのです。

前半の控室は細やかな装飾を施した調度品が多く置かれていて『隙あらば』以上に凝ったセッティングとなっています。トリブレ社の他作品同様そこまで露出度が高い作品ではなく、首飾りと肌のコントラスト、体の曲線を意識させる窃視症的なアプローチが目立ちます。画像の解像度やアングルの付け方など『隙あらば』との共通点が多く見られます。


『妖精と女牧神』 (Nymphe et faunesse)

9.5mm、10m(約1分20秒)。ロブスター社から発売されてるDVD “Grivoiseries et autres joyeusetés” に3分のヴァージョン収録。

手にした花を空に掲げて、水浴びをしている全裸の女性。草むらに無造作に服をかけています。そこに現れたのが杖を手にした「法」と呼ばれる中年男。脱ぎ捨てられた服を見て腕組みをし何かを思案中。

視線の向きを変えると水辺の女。カメラを見つめ返してきます。「法」はバツの悪そうな表情を浮かべ、手にしていた書物に視線を落とす。体に服を巻きつけた女が不適な笑みを浮かべ、「打ち負かされた法は立ち去る」の説明があってそのまま終劇。

日本の羽衣伝説を思わせる出だしの一作。エロスが「法」を撃退する構図からある種の反骨精神を読み取ることもできます。


『パジャマ姿の少女』 (Le pyjama de Poupette)

9.5mm、10m(約1分20秒)。登場人物は女性一人のみ。冒頭は浴室で体を拭いている姿でバスローブを羽織って部屋に戻っていきます。大きなベッドには開いたままのトランクケース。壁には大きな楕円の鏡が掛かっていて花瓶の花が映っています。女性はバスローブを足元に落とし、カメラに背を向けたままパジャマに着替え始めます。腰ひもを結ぶと身を反転してカメラを直視。 手持ちのトリブレ社作品では唯一字幕が含まれておりません。鏡の使い方や、体のラインや肌の質感を強調する発想、照明のバランスなど同社他作品との点を多く見ることができます。


トリブレ社の製作として確定できているフィルムは以上の4本。登場している人物に重複はなく、室内撮影された3本の撮影場所もすべて異なっています。これらの動画からは同社の傾向や方向性を見て取ることができます。

(1)盗撮・窃視・覗き見趣味

4本いずれにも共通しているのがこの特徴です。実際に盗撮した訳ではないため「盗撮風」が正確でしょうか。女性が普段見えない形で行っている行為(着替えや水浴び、入浴)をあたかもカメラ越しにこっそり見ているような感覚を与えてくるものです。

(2)細部へのこだわりと高級指向

室内撮影の場面では調度品(鏡台、花瓶や化粧品の瓶、額縁入りの写真、カーテンなど)でデザインにそれなりの高級感を漂わせたセッティングが多用されています。例えば『踊り子の楽屋』では女性が化粧をしている鏡台前に象の置物が置かれています。同じ置物は角度を変えて『パジャマ姿の少女』にも登場。どちらも一瞬画面に入りこんでくるだけで作品展開に影響を与えるものではありませんが、偶然に置かれた訳ではなく作り手の意識が内装セッティングまで及んでいた証拠とみることができます。

(3)アングルや照明など技術的な配慮

『隙あらば』は窓から差しこむ自然光のみの撮影で、被写体が光に照らし出されるよう立ち位置が計算されています。『踊り子の楽屋』は二方向から光が当たっていて、やはり対象の女性が画面上で際立つよう配慮がされています。安上がりに製作されていた戦前のポルノ動画では、室内が暗く、カメラの露出が上手くいかずに被写体がよく見えていない作品も多く見られました。手ブレや低解像度と相まって戦前ポルノ独自のアングラ感につながっていたりするのですが、トリブレ社作品は技術面をしっかりしたメンバーが支えていたようです。

(4)字幕に見られる文学性

(1)から(3)までの特徴が揃うことで、フェティッシュな質感のソフトコア・ポルノという方向性が形作られていきます。しかしこの方向性は必ずしもトリブレ社専売ではありませんでした。

トリブレ社が同時期の他社作品と一線を画していた決定的な要素は「文学性」でした。『隙あらば』で使われていた字幕を二つ見ていくことにしましょう。

無声ポルノ動画としては異例と呼べる長さですが、どちらも脚韻を踏んだ韻文詩になっています。上の字幕では4行の末尾がABABで韻を踏み(-clos, -ore, -clos, -ore)、下の例ではABBAB(-aison, -ertes, -ertes, -aison, -ertes)の形になっています。

最初の字幕を訳してみると:

胸元が閉じ
床まで垂れた長い下着を
慎みなく舐めまわす
誘惑者の目

この下着姿には古に知られた女郎
ニノン・ド・ランクロも魅了されたものであった…
我々が今目を離せないのは
囲われの芝生(ランクロ・ド・リノン)であるが…

駄洒落を含んだ韻文作りが優先され深い意味はないのですが、それでも映像と連携させエロチックな想像力を掻きたてていきます。17世紀の文芸サロンで名を知られた作家・娼婦ニノン・ド・ランクロの名を枕詞に使い、体毛・陰毛の隠喩である「囲われの芝生(ランクロ・ド・リノン)」を導く形となっています。

右の例も同様です。

足元までひとつなぎの肌着は
指先巧みなる誘惑者たちに
大いなる期待を抱かせる…
この家に入りたいと思う者は?
どの扉も鍵はかかっていないのだ…

こちらでは「家」が二重の意味で使われています。字義通りに受け取るなら、この部屋はオープンで誰でも入ることができる、の意味になります。「家」を女性の身体の比喩とみるのであれば、誰もが彼女の体をまさぐることが許されている、のニュアンスになると思われます。

三点リーダー「…」や感嘆符「!」、疑問符「?」の多用はトリブレ社の字幕全般に共通している特徴です。単純に文章を描写、断定するのではなく余韻を含ませたり、感情を荒ぶらせていくような細工です。

これらは思いつきで書ける類ではなくそれなりの教養を積んできた人物の手によるものです。当時のフランスで一部インテリ層が違法ポルノ製作に関与していた様子を伺うことができます。

1920年代には局部アップと本番行為を中心とした生々しいハードコア作品も多く作られていました。ヴィンテージ・ポルノとしてデジタル化されている動画はこれらのハードコア作品が中心で、ソフトなニュアンスの作品はしばしば添え物の扱いをされています。しかしこれらの作品にもニーズがあり、個々の趣向に合わせたさらなる細分化も始まっていました。

9.5ミリ形式は16ミリや35ミリと比べ描写力に劣り、生々しい表現を伝えきれない弱点がありました。また1分〜3分で複雑な物語は語れません。ハードコア・ポルノの流通フォーマットに向いていなかったと言えます。しかし(例えば8ミリと比べて)微細な陰影を得意にしていたのでその特徴を生かした絵柄を作り、足りない部分は字幕の文芸色で補完していくことはできます。文芸ポルノやロマン派風ポルノの発想が含まれており、『エマニュエル夫人』シリーズや『ビリティス』など戦後ポルノ解禁後の高級志向の萌芽と見ることもできる流れだと思われます。


【研究書】

1976 – Dirty Movies: An Illustrated History of the Stag Film, 1915-1970 (Al Di Lauro & Gerald Rabkin)
1998 – いとしのブルーフィルム (長谷川卓也)
2007 – Black and White and Blue (Dave Thompson)
2008 – Screening Sex (Linda Williams)
2014 – Private Pornography in the Third Reich (Hans von Bockhain)

【市販作品 DVD】

2001 – 『ヴィンテージ・エロチカ 1930年代』Vintage Erotica Anno 1930 (Cult Epics)
2002 – 『ブルーフィルム 青の時代 1905-1930』Polissons et Galipettes
2004 – 『タブー:エロティック映画の始まり』Taboo : The Beginning of Erotic Cinema (Passport Video)
2004 – 『白黒美女集』 Black and White Beauties (Historic Erotica)
2005 – 『媚態の箱』La Boîte à coquineries. Les années folles (Lobster Films)
2006 – 『ヴィンテージ・エロチカ 1920年代』 Vintage Erotica Anno 1920 (Cult Epics)
2006 – 『フレイミング・フラッパー』Flaming Flappers : stag reels of the 1920s. (Unknown Video)
2008 – 『ヴィンテージ・ブルー・エロチカ』Vintage Blue Erotica (Vidway)
2008 – 『黄金時代 1935-1956』Goldene Jahre 1935-1956
2009 – 『ザトゥルン映画社 1906-10年の軌跡』Saturn-Filme 1906-1910 (Film Archiv Austria)
2010 – 『ヴィンテージ・レズビアン・エロチカ』Vintage Lesbian Erotica (Cult Epics)
2010 – 『爺ちゃんたちはエロかった』Nuestros Picaros Abuelos 1-6 (1990年代VHS作品のデジタル化)
2011-12 – 『古き良きエロの日々』The Good Ol’ Days Vol.15 (Pleasure Productions)
2013 – 『アダルト映画史』A History of the Blue Movie (Alex de Renzy, 1970年公開作品のDVD化)
2013 – 『禁じられた映画:無声期の古典アダルト映画』Forbidden Cinema: Classic Blue Movies of the Silent Era (Alpha Video) Vol.1-32

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