フリッツ・ラング [Fritz Lang] より
1930年中盤にフリッツ・ラングがドイツを離れ、ハリウッドに渡って第2のキャリアを築いた話は良く知られています。その際、直接アメリカに向かった訳ではなく一度フランスを経由したのは意外と知られておりません。パリでは同胞のプロデューサー、エーリヒ・ポマーと再会、提案を受けて映画を一本監督しています。それが異色作『リリオム』(1934年)でした。
同作は宗教色の濃い恋愛ファンタジーで、ドイツ時代のシャープな感覚やハリウッド期のヒューマニズムは希薄です。そのせいもあって一般からの評価は高くありません。しかしラング自身は大変気に入っており、晩年のインタビューでもお気に入りの一つに上げているほどでした。
『リリオム』で主演を務めたのが舞台出身のシャルル・ボワイエとマドレーヌ・オーズレーでした。ヒロインを務めたオーズレーさんとの交友はラングの亡命後、戦後も続いていました。ラングが折に触れて送ったメッセージをオーズレーさんが保管しており、その一部を手に入れることができました。
こちらがその電報です。日付が明記されていないものの、電報の様式から1960年代ではないかと思われます。
独仏米の映画史を横切って繰り広げられた二人のやりとり。ラングのこまめな気遣いが凄いのと、電報が届くたびに嬉しそうに読んでいるオーズレーさんの姿が目に浮かびそうです。