日本・男優より
諸口十九は「お坊ちゃん」「カラーボタン」の二本だけで當然記録に止めらるべき人である。
諸口十九が洋行して歸つて來た。仲々スサまじい気焔を揚げた。容易に撮影にかゝらないでフアンを焦らした。吾々は實際の所、どんな事になるのかとヒヤヒヤしたものであつた。所が、第一回作品たる「お坊ちゃん」は豫想以上に「良いもの」を多分に具へてゐた。明るい、輕い、フレツシユな味は矢張り彼の專賣だつたのかとさへフアンは思つた。つゞく「カラーボタン」は更に「良いもの」を持つてゐた。臆病で、膽玉が小さくて、そして家へ歸れば女房にも當り散らす愛すべきモダーン・ボーイ櫻井としての彼は長く長く忘れられないであらう。
『日本映画年鑑 大正十五年昭和二年 第三年版』
(朝日出版社、1927年4月)
明治二十四年二月福井に生れ、十六歳の時上京して成城中學に學んだ、後藤澤の俳優學校に入り十九歳の時牛込高等演藝場で初舞臺を踏み、後一座を組織して旅を稼ぐこと數年。大正九年五月に松竹に入り蒲田第一の幹部俳優となつた。初演映畫は『新生』主演は『笑へ若者』『なすな戀』『女殺油地獄』『赤坂心中』等、等。後米國及び佛國の映畫界を視察して歸朝後『お坊ちやん』『カラーボタン』『地下室』等の特作品を出し大に新らしい方面で活躍しやうとしたが容れられず筑波雪子と手を携えて脱退し、諸口十九社を起して大に活躍してゐる。一時人氣を氣支はれたが差したることもなく相變らず筑波雪子と共にフアンの人気を博している。
『玉麗佳集』(中央書院、1928年)
[JMDB]
諸口十九
[IMDB]
Tsuzuya Moroguchi
[出身]
日本(福井)
[誕生日]
2月3日
[サイズ]
8.4 × 13.4cm.