「9.5ミリ 劇映画」より
獨ウーフア映畫『フアウスト』
「最後の人」を發表したフランク・W・ムルナウ氏は又、昨年、この驚嘆すべき特作映畫を物した。
原作は文豪ゲーテの不朽の藝術たる事は人既に知る所。ムルナウは今、卓抜した才能を縦横に發揮して、この大作品を完成したのである。
キヤストは次の通り。ファウストに扮するのは北歐コペンハーゲンの名優ゲースタ・エクマン、フアウストを誘惑するメフイストフヱレスには有名なエミール・ヤニングスが扮し、可憐なグレチヘンは、新たに見出された年若き名花カルミラ・ホルンがつとめ、マルテ夫人をイヴエツト・ギルベルトが巧にこなしてゐる。とまれ、映畫「フアウスト」は万人を驚倒させるに足るだけの内容なり表現なりを具へてゐる事に間違はないのである。
『日本映画年鑑 第三年版』(1927年、朝日新聞社)
ムルナウ作品で唯一9.5ミリ化されたのが本作。4巻構成で上映時間は50分弱、オリジナルの半分ほどに切り詰められた短縮阪となります。第一巻はメフィストフェレスを召還した老学者ファウストが若さを手に入れるまで。第二巻はイタリア滞在を経て地元に戻ったファウストがグレッチェンと恋に落ちるまで。第三巻はファウストとグレッチェンの逢瀬が家族に見つかるまで。第四巻でその後の展開と最後の救済を描いています。
『日本映画年鑑』はグレッチェンの叔母マルテを演じるイヴェット・ギルベールに言及していました。

19世紀末~1900年代初頭のパリで活躍した歌手で、不倫などの背徳的なテーマや下品なコミックソングを得意としていました。独特の存在感があって当時ロートレックやピカソ等が彼女をモデルに絵を描いています。美術の授業で見た覚えがあるのではないでしょうか。

ホモセクシュアルだったムルナウは男女のピュアな恋愛(ファウストとグレッチェン)をどこか完全には信じていない節があります。メフィストフェレストとマルテの生々しい肉欲を楽し気に描いている件もそうで、キリスト教社会の「正しさ」に細部で抵抗していく姿勢は『サンライズ』から『タブウ』でも再登場してきます。最後に愛は勝つ風の美談は市場向けの綺麗事で、表現者ムルナウの本質はこういった場面にチラチラと見えているのかな、と。
[原題]
Faust – Eine Deutsch Volkssage
[公開年]
1926年
[IMDB]
Faust – Eine Deutsch Volkssage
[Movie Walker]
ファウスト
[メーカー]
英パテスコープ版
[メーカー記号]
SB740
[9.5ミリ版発売年]
1933年
[フォーマット]
9.5mm 無声 4リール(49分)