亡き父の旧友でもある鉱山王ゴルドンを訪ね、ボストンに向かっていたベル・ボイド嬢は汽車で親切な青年ランデルと知り合いになつた。話を聞くとその鉱山王の下で働いている技師とのことであつた。
道中二人が仲良く話しているその時、件の鉱山王は秘かな策略を張りめぐらせていた。ゴルドンとベルの父親、そしてもう一人の友人の3人がかつてインドで交わし、3つに割いてそれぞれに持ち帰った「契約書」を集め直そうとしていたのである。自宅に招待したベル嬢を息子と結婚させて懐柔しようとしたが、嬢は何としても首を縦には降らなかつた。
このやりとりを物陰で聴いていたのは女中ヒルダであつた。女はゴルドン家を離れると鉱山労働者たちの集う一角へ向かつた。外国人労働者が大半を占める中、一人白人の男がいた。彼こそがかつてゴルドン、ベルの父親と共に契約を交わした「虎の面」であった。男はヒルダとその仲間に命じてベル嬢の拉致を試みる。危難に陥った嬢を救おうとするのは青年ランデルただ一人であつた…
1910年代後半~20年代初頭のルース・ローランドは米パテ社連続活劇の稼ぎ頭としてパール・ホワイトに肉薄する勢いを見せていました。『覆面の呪』『幽霊騎手』『虎の足跡』『ルスの冒険』『森林女王』など多くの作品が日本でも公開されています。しかしその出演作はほとんどが断片でしか現存しておらず、映画祭などで上映される機会も少ないため評価されにくくなっているのが現状です。
『虎の足跡』のフランス語小説版はスチル写真を多く採録。蒸気機関車を絡めた追跡場面、谷間に張ったロープでスルスルと移動していく場面など活劇の「お約束」がきちんと守られているのが分かります。作品中盤では悪漢が丸太で扉を破っているシャイニング風の展開もありますね。
大手パテ社が配給を手掛け大々的に宣伝していただけあってセットや衣装もしっかりしています。猪俣勝人氏『世界映画名作全史 戦前編』では「名金」、「鉄の爪」と「虎の足跡」の3作が活劇枠で紹介されていましたが、日本の愛好家にも良い印象を残した作品だったようです。
Serial Squadronが公開している現存フィルム断片
[タイトル]
Le Tigre sacré
[出版年]
1920年
[出版者]
ルネサンス・ドュ・リーヴル
[叢書]
ロマン・シネマ
[ページ数]
240頁
[サイズ]
16.5 x 24.5 cm
[原題]
The Tiger’s Trail (1919)
[製作]
アストラ映画社
[配給]
パテ社