

チャップリン短編の8ミリ版は幾種類かあり、中でも大沢商会から発売されていたこのシリーズは比較的よく知られています。
元々は東和株式会社(現・東宝東和)の創業45周年を記念した「ビバ!チャップリン」という企画の一環で発売されたものです。東和商事合資会社としての創業は1928年にさかのぼりますのでフィルムの発売は1973年頃となるようです。「ビバ!チャップリン」は第一弾に『冒険』『拳闘』『移民』『勇敢』『消防夫』の5作を発売、その後ジャケットを変えて第二弾の『誘拐船』『大番頭』『活動屋』の3作が発表されています。
今回はその中から『勇敢(Easy Street)』の紹介です。ミューチャル社から公開された1917年作品で、チャップリンとヒロイン役のエドナ・パービアンス、悪漢役のエリック・キャンベルの絶妙なバランス感覚を楽しめる一作。







プリントは輸出用ネガ(Bネガ)ベース。戦後の比較的新しいプリントのため傷なども少なく、劣化も見られない良いコンディションでした。サンプル画像はHQカメラに差し替えた綺乃九五式でスキャンしたものです。
現在フリッカーアレイから発売されているブルーレイ盤/ストリーミング版の最新修復バージョンは基本Aネガを元にしています。AネガとBネガのアングルの違いを幾つか確認しておきます。

「オルガンを弾くエドナ」の場面で見てみるとAネガは右側のカメラから撮られており、座ってうたた寝している男性がエドナに隠れるアングルになっています。一方のBネガは左側のカメラから撮られていて、男性の姿がエドナの背後に見える角度になっています。
また同じBネガ由来でも東和版とパテ版を比べると、前者は左端をやや大きくトリミングしてエドナを中央に配している(結果として左端の女性が半分で見切れている)のに対して、パテ版は左端の女性が切れないよう右端を広めにトリミングしていて、その代りエドナが中央を外れて右に寄った構図になっています。
「チャップリンのバストショット」「エリック・キャンベルとの乱闘場面」も同様でAネガは右側のカメラで、Bネガは左側に置かれたカメラで撮影されています。キャンベルの背中にチャップリンが飛び乗る後者の場面は良く知られていますが、被写体と背景の位置関係がAネガとBネガで微かに違っており別カメラだと分かるのです。
唯一の例外は「エリック・キャンベルのクローズアップ」。トリミング幅は異なっているも両者は同じネガを元にしています。東和が持ちこんだネガにAネガ由来のプリントが紛れこんでいたのか、ブルーレイ用に修復した際にあえてBネガを選択したか(現存フィルムのコンディションに応じてブルーレイ版も一部Bネガを使用しているそうです)は不明。
先日紹介した仏コダック16ミリ版ともつながってくる話で、物語あるいは世界観で言うとAネガもBネガも同じ『勇敢』なのです。でもフィルム視点で見ると別作品なんですよね。近年のデジタル修復作業が画質重視でAネガとBネガを混ぜてしまっている状況は少し怖いな、とは思います。




[原題]
Easy Street
[公開年]
1917年
[IMDb]
Easy Street
[メーカー]
大沢商会/東宝/東和
[フォーマット]
Super8、600フィート、30分(24fps)、白黒、光学録音(サウンドテープ付)、定価12,800円