1929 – 9.5mm アニー・オンドラ主演『恐喝(ゆすり)/無声版』 (アルフレッド・ヒッチコック監督) UKパテスコープ版

9.5ミリ 劇映画より

Blackmail, early 1930s UK Pathescope 9.5mm print


戦前の英パテスコープ社からはヒッチコック初期作品の9.5ミリ版が4作発売されていました。

『リング』(1927年公開)… SB30029 (1933年1月発売)
『シャンパーニュ』(1928年)… SB30036 (1933年4月)
『マンクスマン』(1929年)… SB30070 (1934年6月)
『恐喝(ゆすり)』(1929年)… SB30027 (1932年10月)

サスペンス物ばかりではありませんがどの作品にも若きヒッチコック監督の野心や実験が含まれています。とりわけ無声映画として最後に撮られた(そしてトーキー第一作として公開された)『恐喝(ゆすり)』は後のサスペンス巨匠を予想させる一作として評価の高いものです。

『恐喝(ゆすり)』は無声映画として企画され1929年初頭に撮影が行われたのですが、途中でトーキー版の企画が持ち上がり同年夏に撮り直しを行っています。国内では劇場の仕様に応じ、無声版/トーキー版両方が公開されていました。

英パテスコープ社9.5ミリ版は80分強のオリジナルを120メートルリール2巻物の30分程度に縮約しています。画質やトリミングの傾向などを確認するため現行のDVD版と比較してみました。

9.5ミリ版
サイレント版DVD
トーキー版DVD
1)ヒロインがバレリーナ用衣装に着替える場面
2)青年画家のバストショット
3)ヒロインが絵を引き裂いた場面

1)は青年画家の部屋を訪れたヒロインが、バレリーナ用の衣装を見つけて着替える場面です。サイレント版では「背中のファスナーが閉まらない」と青年画家に手伝ってもらう展開となっていました。トーキー版は脚本を大きく変更。青年画家がピアノを弾き語りする隣で着替える構図となり、ファスナーも自力で閉めています。9.5ミリ版はサイレント版のプリントをそのまま使用。

ヒロインが服を着替え直そうとしている間に青年画家が女性の服を持っていってしまう場面が2)、襲われたヒロインがカーテンの陰から現れ、手にしたナイフを落とし、画家の描いた道化師の油絵を破いてしまう場面が3)です。

「サイレント版DVD」と「トーキー版DVD」の3)を比較してみると絵の破れ方が違っています。サイレント版では上辺と右辺が破れて穴が三角形になっているのに対し、トーキー版では左辺まで縦に裂けて台形の穴になっています。

2)でも同様のことが言えます。トーキー版ではつい立てにかかった洋服の袖口に細い切れ目が見えるのですがサイレント版にはそれがありません。洋服の向きが微妙に違っているのです。

『恐喝(ゆすり)』では登場人物の会話が発生している場面は後日撮り直したショットを使っています。会話のない場面はわざわざ撮り直す必要はなさそうですが、「ネガ」は一つしかないため「サイレント版」「トーキー版」両方に使い回すことはできません。そのため最初に撮影された場面の「別テイク」を流用しています。

以前にチャップリンのミューチャル期作品で触れた問題と似ています。チャップリン作品の場合は同じ場面を二台のカメラで撮影することで二通りのネガが発生していました。『恐喝(ゆすり)』の場合は別テイクを元に二通りの異なったネガが作り出されていたことになります。9.5ミリ版はこのうちサイレント版を縮約したものであることも確認できました。


[IMDb]
Blackmail

[Movie Walker]


[[公開年]
1929年

[メーカー]
英パテスコープ社

[メーカー記号]
SB30027

[9.5ミリ版発売年]
1932年10月

[フォーマット]
9.5mm 無声 120m×2巻 ノッチ無


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