「『ジゴマ』/ヴィクトラン・ジャッセ [Zigomar / Victorin-Hippolyte Jasset]」より
1992年、伊ポルデノーネ無声映画祭でエクレール社初期作の回顧上映会が開催されました。この企画にあわせフランスの映画史専門誌『1895』からエクレール社の特集号が公刊されています。内容は大きく1)経営状況の分析、2)主要俳優紹介、3)現存初期作(≒映画祭での上映作品)の粗筋、の三本立て。


1)に関しては1907年の設立時の定款、翌年の増資、収支報告などの一次資料をまとめたもの。資本金15万旧フランという小さな規模で誕生したエクレールがどのような運営を行っていたか見えてくる資料群です。
2)は1913年のフィルム・ルヴュ誌の俳優紹介企画を転載したもので『ジゴマ』『プロテア』で主演を務めたアルキリエール、アンドリオ以外にも『ジゴマ』で探偵役を務めたアンドレ・リアベル、『猿人バラウー』や『プロテア』で存在感を見せたリュシアン・バタイユなどジャッセ映画の常連俳優が紹介されています。
またあまり脚光を浴びてこなかった喜劇連作(「ゴントラン」「ガヴロッシュ」「リトル・ウィリー」)の主演役者にも紙数が割かれていて初期エクレール社の全体像が伝わってきます。
3)もフィルム・ルヴュ誌からの記事転載。モーリス・トゥールヌールの初監督作がエクレール社で、初期作『イヴリーの女羊飼』の粗筋も含まれていました。1913年5月にジャッセが亡くなって数か月後にトゥールヌールがデビューした形。画家を志した過去があり、構図や細部へのこだわりなど共通点のある両監督の接点、因縁を感じます。
全体としては当時物の記事や紙データに特化した内容で、国外(そしてフランスでもパリ以外)では入手の難しい情報が一冊に集約されています。ジャッセ作品の背景理解だけではなく普通に読み物として読んでも楽しめる特集号でした。
[出版年]
1992年10月
[出版者]
仏映画史研究協会(l’Association française de recherche sur l’histoire du cinéma/AFRHC)
[ページ数]
192
[サイズ]
14.5 × 21.5 cm