1929 – 『斬人斬馬剣』(松竹、月形龍之介主演、伊藤大輔監督) 瀧本時代堂 説明本

“Zanjin zanbaken” (1929, Shochiku, dir/Ito Daisuke)
Takimoto Jidaido Novelization

伊藤大輔監督の初期傑作の一つ。こちらは公開(1929年9月20日)の5日前に発売された16ページの小説版。

現在国立映画アーカイブが所有している『斬人斬馬剣』復原版は9.5ミリ縮約版をブローアップしたものとなっています。疾走感のある殺陣や追跡劇、構図の美しいモブシーンを重視した編集で作品の核は表現されていますが、前半を多く省略しているため人間関係がややつかみにくいのが難点でした。

此所にまた、殺された長曾根の弟に左源太と云ふのがあつたが兄の性質の良からぬことを知つてゐるので敢て悲しむ様子とてもなかつたが武士道の手前、其のまゝにも捨て置くことが出來ぬので來三郎を討ち取るために來三郎の許へと乗り込んで行つたが、來三郎の人格に惚れ込んで却つて來三郎に共鳴し[…]。(9~10頁)

左源太役の天野刄一(左)

冒頭、無一文の主人公・十時來三郎(月形龍之介)は空腹に耐えかね道になっていた柿を勝手に食べてしまいます。來三郎が農民たちに取り囲まれていたところに通りがかったのが悪代官の腹心の長曾根でした。この長曾根こそが來三郎の父の仇だったのですが事情を知った村人たちは來三郎に同情し、助勢に回り長曾根を叩き殺してしまいます。長曾根の弟・左源太(天野刄一)は兄の仇を討とうと來三郎に勝負を挑むも來三郎の人格、思想に共鳴し仲間となります。

9.5ミリ版では來三郎と左源太が最初から一緒に行動している設定ですが、本編ではそこに至るまでの曲折が描かれていたことになります。

一方で小説版は殺陣や追跡劇、結末部など重要な場面を丸々省略していて作品全体像は伝えていません。予告編的な形で読んでもらうことを想定し「盛り上がる場面は映画館で」の書き方になっています。読み物としては不完全燃焼ながら、デジタル復原版を補完するにはうってつけの内容になっていました。

[JMDb]
斬人斬馬剣

[IMDb]
Zanjin zanbaken

[編集兼発行者]
瀧本昇

[発行所]
瀧本時代堂

[出版年]
1929年

[フォーマット]
14.4 × 10.5 cm、16頁


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