フィルム館・齣フィルム より

“The Red Circle” (1915-16, Balboa/Pathe Exchange, dir/Sherwood MacDonald)
Chapter 11 “Seeds of Suspition” 35mm Nitrate Fragments
連続活劇『赤環(レッド・サークル)』に関しては2021年に一度記事としてまとめています。小説版を元に10枚の断片を並び替え物語を再構築したものです。2023年、新たに20枚以上の齣フィルムが追加されました。前回の入手時にはなかった場面や登場人物が含まれているため全体をスキャンし直し、解釈の誤りを修正したアップデート版を作成しました。

1915年11月27日付「ムービング・ピクチャー・ワールド」誌より 別作品の代打として1ヶ月公開が早められた旨も記されています
『赤輪』(The Red Circle)は1915年末から16年前半に公開された14章仕立ての連続活劇。興奮すると両手の甲が充血し「赤い輪」が現れて犯罪を犯してしまう…そんな遺伝的疾患の事件を追っていた医学者ラマー(フランク・マヨ)と、同症状の持ち主である若きヒロイン、ジューン・トラヴィス(ルース・ローランド)の出会い、駆け引き、そしてロマンスが描かれていきます。
カレム社の花形女優として恋愛劇から西部劇まで多彩な作品に出演していたルース・ローランドが初めて連続劇に出演した記念すべき一作で、短い予告編を除いて上映用フィルムは遺失したとされています。
齣フィルムは第11章「疑惑の種』後半部に対応するもので32枚中5コマが字幕、1コマが次回予告となっていました。
先行エピソードで窮地に陥っていたヒロインを助けたのは自身お尋ね者となっていた弁護士ゴードンでした。事情を尋ねたところ元々はファーウェル・コーポレーションの顧問弁護士をしていたとのこと。現場の労働者への賃金未払いが起こり調整をしていたところ、当のファーウェル社社長に騙され賃金を横領した罪を被せられてしまった…医学者ラマーがファーウェルの事務所を訪れたのを知ったジューンは「賊が侵入した!」と狂言を演じ、混乱に乗じて横領の証拠となる署名入り領収書を奪い取ります。






事務机まで向かうと無地の便箋を取り出し、重ねたまま折りこんで更に大雑把な輪の形に引き裂いていった。[…] 白い輪を吸い取り紙の塊に押しつけ、椅子から立ち上がると金庫手前まで駆け寄って文字を記した輪をノブにかけたのであつた。
[…] Going to the table she picked up a couple of sheets of plain letter paper, folded them together and tore them into rude circles. […] Then she put the plain white circle on the dark blotting pad, got up, ran to the safe and hung the printed circle on the knob.
ジューン(ルース・ローランド)は領収書を回収した後、ラマーに待つように言われていた控室(”the office anteroom”)に戻ります。事務机の引出しから便箋を取り出し、それを引き裂いて輪を作って金庫のドアノブにかける…までの一連の流れに相当するのが上の6枚です。


「ゴードンの領収書がない!」、あえぐような声だった。
そう言いながらファーウェルは金庫のノブから文字の描かれた紙の輪を外し、ラマーの手に押しこんだ。
“The Gordon receipt’s gone!” he gasped. […]
As he speaks he pulled the printed circle off the safe knob and thrust it into Lamar’s hands.
ジューンの狂言に騙されたラマーとファーウェルが秘書と合流し、事務所に戻ってくると領収書が消え失せていました。金庫からは札束も盗まれており、ノブに謎めいた白い紙の輪がかけられています。



「一番疑わしいのはトラヴィス孃なのだけれど…いやそれはない、ありえない!」
ラマーは椅子に座って電話機を引き寄せた。自身のオフィスの番号を告げた。
「君に手錠をかけた人物は見えたのかい?」
「いいえ」、秘書ゲイジが大声で答えた。「甲に赤い輪の浮き出た女性の手だけでした」
“Suspicion points to Miss Travis – but that’s impossible! Impossible!”
He sat down and pulled the telephone toward him. He gave the number of his own office. […]
“Could you see who it was that snapped the cuffs on you?”
“No,” yelled Gage. “I couldn’t see a thing except a woman’s hand – with a Red Circle on the back of it.”
ラマーが自身の事務所に電話を入れると、秘書が「赤い輪の浮き出た女性の手を見た」と説明します。


一方でジューン嬢は自分の引き起こした騒動は頭から消し去り、ゴードンが待ち望んでいた領収書と札束とを胸にしつかと押しつけながら待ち合わせ場所の公園へと向かった。
タクシーに近づいていくとゴードンが身を乗り出してきた。
Meanwhile, June, oblvious to all the trouble she had caused, made her way to the park the coveted receipt and the banknotes hugged tight to her breast.
As she neared the cab, Gordon leaned out eagerly.
領収書を入手したジューンは約束の場所である公園へと急ぎます。タクシーで待機していたゴードンがジューンの姿を認めて車から降りてくる場面に対応しているのが上の2枚です。


誰にも気づかれていなかったようなので足早にその場を去り、公園を離れると下町方面へと向かった。
人気のない一画を通り過ぎようとした時、まさに今一番必要としているものが目に留まった。焚火だ!
領収書を千切って炎に投げこんでいく。どの一片も本が何か見分けのつかない灰になってしまうまで見つめていた。
No one seemed to notice him, so he got out quickly, and leaving the park, made for the downtown district. […]
Just then he passed by a vacant lot and he saw what he needed most a bonfire!
Tearing the receipt into tiny pieces, he threw them on the Are and watched them burn until every scrap had vanished into unrecognizable ashes.
ジューンと別れた後、ゴードンが通りで焚火を見つけて領収書を火にくべる場面。





「ファーウェル社の人がお金を取り戻して…」
幸福な思いに包まれながら立っていたジューン。夢見るような微笑みがその顔を明るくしていた。すると突然聞きなれたメアリーの足音が聞こえ警戒の表情に変わる。
手にしていた札束を一番近くの隠し場所 – 机の引出し – に押しこんだ。引出しを閉めた瞬間、メアリーが自分の部屋からこちらへとやってきた。
“They shall have their money […]”.
With the dreamy smile lighting her face, June stood lost in happy thought, when suddenly she heard Mary’s familiar footsteps and her look changed to one of alarm.
She thrust the papers into the nearest hiding place – a table drawer, and just managed to get it shut as Mary came in from her own room […].
ジューンが自宅に戻り、金庫から奪ってきた紙幣をファーウェル社の労働者たちに渡そうと考えていると看護婦のメアリーがやってきます。ジューンが慌てて紙幣を引出しに隠し、メアリーと会話する流れに相当するのが上の齣フィルムです。


ジューンがファーウェル社の事件に対応している間、前エピソードに登場してきた「スマイリング・サム」が詭計を使ってトラヴィス家に入りこんでおり、それを見つけたメアリーがひとまず屋根裏に男を隠したと報告する場面。この出来事は次エピソードにつながる伏線となっていきます。
「ロクでもない男って?」、ジューンが蒼白になった。「それってまさか…」
「そのまさかです」メアリーはしゃがれ声で続けた。「あいつですよ、”スマイリング・サム”イーガン。金輪際お目にかからないと思っていたのに!」
“What awful man?” June’s face went white. “You can’t mean – “
“Yes,” went on Mary huskily, “it’s him! That ‘Smiling Sam’ Eagan we thought we was rid of for good’n’all!”


まさにこの瞬間、邸で何か起こっているかは知らぬまま、ラマーが通りかかった。
ジューンに会うつもりでやって来たのである。
At that moment, unconscious of all that was going on inside the house, Lamar slowly passed by. […]
He had to come there intending to see June.
ジューンに話を聞こうとラマーが家を訪れる場面。「赤い輪」の遺伝を受け継いでいるのではないかとラマーは疑い始めているものの、恋愛感情との間で板挟みになり結局訪問は諦めます。この後「第12章”罠に落ちた鼠のように” 次週公開」の予告が表示され第11章が終了。
[参考文献]
『赤環』英語版小説 アルバート・ペイスン・ターヒューン著、1915末〜1916年、各地の地方紙にて連載
”The Red Circle”, 14-chapter English novelization by Albert Payson Terhune, published in The Review (High Point, North Carolina) from December 23, 1915 to March 30, 1916.
[IMDb]
The Red Circle
[Movie Walker]
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[公開]
1915年12月16日