大正期~昭和初期 35ミリ齣フィルム私見

Bessie Love & Irene Hunt in Forget Me Not (1923) 35mm Nitrate Fragment
1923年公開作品『若き日の夢』よりベッシー・ラヴとイレーヌ・ハント

先日大正末期の齣フィルム70枚を一括で入手しました。幻灯機で映写するため紙フレームに糊付けされた形で保存されていました。台紙に劣化と歪みが目立ちスキャンしようにも手が出せない状態で、一旦崩してスキャン後に新たな台紙に整理し直しました。

内訳としては洋画が45枚強、邦画が25枚弱。文字情報が残されておらず現時点では特定できていない作品がほとんどです。場面の特定できたハリウッド製連続活劇『赤環』(1915-16年)を別投稿で紹介してあります。

映画館で何度もかけられて使い物にならなくなったフィルムをそのまま、あるいは巡業先で興行師がその場で切り売りしたり、また下請業者が複製・着色して子供向けに玩具として販売したりして、大正期を中心に一大ブームとなった。

「大正期から昭和初期における齣フィルムの蒐集と文化」
福島 可奈子(『映像学』2018 年 99 巻 p. 46-68)
pdf版はこちら

以前にも一度引用した福島可奈子氏による齣フィルム論の一節です。大正中期から昭和初期に大きな流行を見せた「齣フィルム」文化について全体像と細部の双方に配慮をしつつまとめられたもので、本サイトでも何度か紹介した「愛」印(愛和商会)製のフィルムについても紙数が割かれています。この分野に興味のある方は眼を通しておいて損はない優れた論考だと思います。

松栄堂や愛和商会などに代表される玩具会社量産による齣フィルムについて一点補足があります。

原版となる映画館上映後のオリジナルフィルム(既製品のポジフィルム)から一旦ネガフィルム(再生フィルム)を作り(このとき、玩具会社名やジャンケンマーク等も焼き込んだと考えられる)、そのネガから別なポジフィルム(再生フィルム)へ焼きつけて製品化することで齣フィルムを量産していたのだろう。

福島論文は「だろう」という結びを使い、以上の形で齣フィルムの製造過程を推定しています。当時の現場で作業していた人々の証言やマニュアル類が残っている訳ではないため推測以上の話はできませんし仮説が正しい可能性は十分にあります。

ただ、以前に『尊王攘夷』の齣フィルムを照らし合わせて見えてきたのは「原版は上映用のポジフィルムではなさそうだ」という話です。

左がDVD版のスクリーンショット、右が愛和商会製の齣フィルムです。一見すると同じ場面に見えますがふすまの位置関係から異なったカメラで撮られたことが分かりますし、ライティングの発想が大きく異なっています。DVD版は背後上部からの照明があるため頭部から肩、腕にかけて光の輪郭が浮き出ています。齣フィルム版にはこの照明がありません。

もう一つの重要な違いとしてフィルムベースのデジタル版には「映写痕」が残っています。左の山本嘉一を拡大して見てみると:

映写機由来の細い縦傷が幾筋にも入っているのが分かります。『尊王攘夷』DVD版は個人コレクター所有の16ミリベースではないかと言われているもので、フィルムの形式(8/9.5/16/35ミリ)に関わらず樹脂製のフィルムを金属製の映写機にかけている間にこういった傷が入るのは避けられません。

愛和商会の齣フィルムには経年による細かな汚れや傷が見られるものの、映写機を通ってきた証拠となる縦の傷が見られません。

2つの可能性を考えてみることができます。

1)映画制作会社が所有していたアウトテイクを元に齣フィルムを製作していた
2)撮影時に同時に撮られていたスチル写真のポジ(又はネガ)を元に齣フィルムを製作していた

1)のアウトテイク説でアングルや映写痕の違いを説明できますが、ライティングの差異を説明することはできません。そう考えていくと玩具会社による齣フィルムは2)スチル写真ベースの製品だったと見るのが妥当な解釈になるのでしょう。

何度も映写機をくぐり傷だらけになった上映用ポジを二次利用したもの。もう一方はスチル写真をベースに大量生産されていたもの。大正末期から昭和初期にかけて2種類の異なった「齣フィルム」があったのではないでしょうか。後者は35ミリフィルムを模してはいるものの、実体は販促用絵葉書に近いと言えそうです。

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