1929 – 9.5mm 小唄映画『君戀し』(伴野プリント、断章) 河合映画版?

「伴野商店」より

Kimi Koishi (1929)
Banno Co., c1930 9.5mm Print, 2nd reel

先日、1920年代末にパテベビー映写機と撮影機を使用されていた方のフィルムコレクション一式を入手しました。そのうちの1本に伴野商会から発売されていた『君戀し』の後半部(2巻構成の第2巻のみ)が含まれていました。

宵闇せまれば 悩みは涯なし
みだるる心に うつるは誰(た)が影
君恋し 唇あせねど
涙はあふれて 今宵も更け行く

唄声すぎゆき 足音ひびけど
いずこにたずねん こころの面影
君恋し おもいはみだれて
苦しき幾夜を 誰がため忍ばん

去りゆくあの影 消えゆくあの影
誰がためささえん つかれし心よ
君恋し ともしびうすれて
臙脂(えんじ)の紅帯 ゆるむもさびしや

二村定一歌唱による「君戀し」は昭和初期の流行歌としてよく知られたもので、楽曲のヒットにあやかり昭和4年の3~7月にかけて複数の映画会社による映画版が公開されていました。

 3月2日公開:松竹蒲田版(島津保次郎監督、島田嘉七&八雲恵美子ほか出演)
 3月6日公開:森本プロ版(光田比登志監督、夢路小夜子ほか出演)
 3月8日公開:マキノ版(川浪良太監督、松浦築枝&沢田敬之助ほか出演)
 3月8日公開:河合版(丘虹二監督、環歌子&松村光夫ほか出演)
 3月8日公開:日活太秦版(三枝源次郎、滝花久子&島耕二ほか出演)
 7月6日公開:東亞版(仁科熊彦監督、雲井竜之助ほか出演)

物語は美也子という名の女性と2人の男性の恋模様を追っています。美也子は地方のカフェバーで女給をしていて、そこで客である学生・柏木に思いを寄せられます。一方お店の常連客である吉之助は許嫁のある身でありながら美也子に惚れてしまい、強引に口説こうとするのでした。

美也子と吉之助が話している様子を見た柏木は二人が仲睦まじいと勘違い、思いを断ち切って東京に帰ろうとします。やけ酒を食らい、店に足を運んだ柏木は「君戀し」のレコードが流れる店内で美也子に別れを告げます。

柏木の想いが真実であると知った美也子は港に向かいます。東京へと向かう最終便の船に乗りこもうとした柏木に追いついき、自分も一緒に東京に帰ると告げるのでした。

今回入手した第2リールの内容は以上です。9.5ミリ版の断章からも脚本やセット、衣装に贅を凝らした作品ではないと伝わってきますが途中に挿入された蓄音機の場面など小唄映画の「見せ方」を知る上で良い資料です。

制作会社や出演者・スタッフ名は明記されておらずフィルムからではどの会社の版なのかは不明。美也子を演じているのは目の輪郭や涙袋の感じからして…環歌子?吉之助を演ずる顎のほっそりした青年は葉山純之輔氏と思われるためおそらく昭和4年の河合映画版ではないか、と。

記憶違いでなければこの時期の環歌子主演の現代劇は残っていないはず。『火の車お萬』(1928年)の女侠客のように時代劇の印象が強く正直現代劇のイメージが沸かないです。この9.5ミリが河合版だとするなら、しっとりしたメロドラマ的な表情を見せる対応力も備えていたことになりますね。

映画版『君戀し』については紙資料があまり残っておらず不明な点が多いためもう少し調べてから続報をお伝えいたします。


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