
Der Student von Prag (1913, Deutsche Bioscop GmbH, dir/Paul Wegener & Stellan Rye) West German DEFA Normal8 Print




彼はその大学の劍道部のチヤンピオン。今日も大いに練習試合をして得々として下宿に帰る途中、ハツとなるやうな美しひ人に出會つた。それは馬車に乗つた伯爵の令嬢であつた。一目見て激しい戀に取りつかれた。しかしみすぼらしい自分自身の學生姿を見て、とても及ばぬ戀だとガツカリした。
下宿の粗末な部屋で彼は煩悶した。「劍の名人になつたとて、大学一の秀才になつたとてそれがいつたい何になるんだ。あの美しい姫君ともしも語り合うことができたらどんなに幸福だらうか…それに比べたら劍も学問も無価價に等しい」
あれを思いこれを思いするうち、やうするにこんな貧乏学生は駄目だと云ふ結論に。「…金だ。金がなくては何もかも問題にならない」。遂に彼は聲に出して云つた。「…金が欲しい。もしも金さへ與へてくれるなら…俺は相手が悪魔だらうと何だらうと構わない…金が欲しい」。頭の毛を掻きむしつてテーブルに突つ伏した。
「…もしもし大学生さん。貴方はそんなにお金が入用かな」
いつの間に来ていたのか後ろから軽く肩を叩く者がある。振り向いてみるとそこに小さな老人が居た。
「プラーグの大学生」
(徳川夢声、『おお活動大写真』)








かくして彼は金で買えるものなら何でも買うことが出來た。令嬢との戀も適つた。けれども、本人から獨立した鏡の中の彼、もう一人の彼は至る所に姿を現はして彼を惱ました。遂に物狂はしくなつた彼は自殺をしてしまつたのである。


独逸映畫が眞に形を取つたのは第一次大戦が終わつてからであつた。この時期に至るまでの独逸映画史は前史であり初期段階であり、それ自身では何の意味も持たない。
『カリガリからヒトラーへ ドイツ映画1918-1933における集団心理の構造分析』
(ジークフリート・クラカウアー、1947年)
1910年代初頭~中盤のドイツ映画を「前史であり初期段階」と切り捨てたの誰あろうクラカウエルでした。それでも極わずかな見るべき作品、例外として挙げていたひとつが『プラーグの大学生』です。
古都プラハの街並みを背景とし、悪魔との契約、分身(ドッペルゲンガー)、鏡の魔力といった要素をまとめ上げた奇想の物語。1990年代にはVHSで発売されていて大きめのレンタルビデオ屋ならどこでも置いてあったのですがその後日本語環境でデジタルソフト化されていません。今や名前は知っていても見たことがないという人が多いのかも。
DEFA8ミリ版は15分弱のダイジェスト。本作で日本初登場となったパウル・ヴェゲナーの存在感は圧倒的。一方でメンヘラ気質、ストーカー気味の少女(リダ・サルモノヴァ)が物語展開に重要な役割を果たしています。ヴェゲナーとサルモノヴァはこの後『ハーメルンの笛吹き男』(1919年)、『ゴレーム』(1920年)へと展開しドイツ映画史に深い爪痕を残していくことになります。
[原題]
Der Student von Prag
[公開]
1913年8月22日
[IMDb]
Der Student von Prag
[Movie Walker]
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[メーカー]
独DEFA社
[カタログ番号]
223
[フォーマット]
ノーマル8 60m 白黒無声