映画女優として名が知られる直前の1916年、エミー・リンは『キット(Kit)』という3幕物の舞台喜劇に出演しています。劇場付きのオーケストラが伴奏を担当していて、同楽団でチェロを担当していた音大の女学生がエミー・リンと共演俳優のジャン・ペイリエールにサインを所望しました。
両者は快くサインに応じます。エミー・リンは「貴女は気持ちの優しい子で才能もあるから頑張ってね」、自分の写真の下にフランス語でそんなメッセージを残しています。女優の見る目は確かだったようでリュシエンヌ・ラディスという名のチェロ奏者は数年後にレコードデビューを果たし多くのコンサートや録音に呼ばれる人気音楽家となっていきます。
リュシエンヌ嬢が集めていたサイン類は大事に保管されていました。幾人かの手を経て百年以上たった2017年に売りに出されていたのを見つけて取り寄せたのがこちらのパンフレットです。
エミー・リンはガンス初期作で気の強い、ヒステリックな雰囲気を帯びた役柄を演じていてました。現在でもそういったイメージが強くつきまとっているのですが、リュシエンヌ孃とのやりとりや後年のインタビューからは柔和で親しみやすい性格が伝わってきます。