ハイリ・エミール=ザーデ (Hayri Emir-Zade/Хайрі Емір-Заде, 1893 – 1958) クリミア・タタール/ウクライナ

帝政ロシア/ソヴィエト初期映画史再訪 [19] & 絵葉書館・ロシア/ソ連/旧ソ連構成国 より

Hayri Emir-Zade Late 1920s Ukrainian Postcard

1893年ヤルタにほど近いデレコイ村に生る。幼少時より歌唱、舞踏、絵画に才を現しサンクトペテルスブルグ絵画学校に入学。1920年代にクリミア・タタール劇場の俳優となる[1]。この時期にアゼルバイジャン写真映畫部(AFKU)の長編映画『乙女の塔』(Qiz qalasi、1924年)に端役で出演した記録が残っています[2]

1926年、ソフキノと全ウクライナ寫眞映畫部(VUFKU)共同制作作品『アリム』の主演に抜擢。クリミア・タタールに伝わる英雄の伝承を下敷きにした一作で、ヒロインのサラ役には妻アシエ・エミール=ザーデが配されていました[4]

『26人のコミッサール』(1932年)より

VUFKUの花形俳優となったハイリは『逮捕状』『セメント』『キラ・キラリナ』で主演を歴任していきます[5]。1930年代にアゼルキノに活動の場を移し『26人のコミッサール』(ニコライ・シェンゲラーヤ監督)に出演。首都バクーを守ろうとするも市民の大半に理解されず、進駐してきた英国軍によって処刑される熱血漢のコミッサールを演じていました。

大戦末期のソヴィエトではクリミア・タタール追放の運動が推し進められ、ハイリ氏の活躍の場は失われていきます。再評価の動きは比較的最近のもので、ロシア革命からの一世紀を再検証する流れで『26人のコミッサール』が見直され主要作の一つを見ることが出来るようになりました(2017年に京都で上映記録あり[6])。

一方ウクライナの国立フィルムセンターでは『アリム』の修復が進められ[7]、2014年7月、無声映画祭(サイレント・ナイツ)でデジタル版が初公開されています[8]

さらに2020年、モスクワ以外に存在しないとされていた『キラ・キラリナ』の35ミリポジが二種類発見され(ドイツとルーマニア)[9]、デジタル修復と再上映が2021年に予定されていました[10]。残念なことに国立フィルムセンターは現在再編成をめぐる大規模なトラブルに巻きこまれ機能を停止しており[11]、ロシアの侵攻が重なってプロジェクトの先行きが不透明になっています。

[IMDb]
Heiri Emirzade

[Movie Walker]


[データ]
14.1 × 9.1 cm, Ukrteakinovidav – 10 kopecks – Kyiv Publishing No.1353 – total print 3000
(Укртеакіновидав – Київ. Окрліт. №0764 – 10 коп. – “Київ-Друк” № 1353 – 3000)


Notes

[1] Vufku.orgの«ХАЙРІ ЕМІР-ЗАДЕ»より

[2] IMDbの«Heiri Emirzade»より

[3] Первый крымскотатарский блокбастер: 90 лет назад состоялась премьера фильма «Алим» (Q-TV/Crimean Tatars, 2016/08/09)

[4] Ibid.

[5] Vufku.org, op. cit.

[6] 『ロシア革命百周年記念映画祭ー映像に刻まれたロシア革命ー』(京都大学人文科学研究所、2017年11月23~26日)

[7] “Алім”: перший кримськотатарський фільм (Національна спілка кінематографістів України, 2020/05/18)

[8] НІМІ НОЧІ 2014 (Національний центр Олександра Довженка)

[9] Довженко-Центр повернув в Україну німий фільм 1920-х (Національний центр Олександра Довженка, 2021/03/22)

[10] The digitized film of the 1920s Kira Kiralina will be screened this year / Савіна Альона & Любезна Катерина (Suspilne Crimea. 2021/04/06)

[11] Довженко-центру досі не нанадали статусу Державного фонду фільмів Ілля ПРОКОПЕНКО & Іван СТОЛЯРЧУК(Gazeta.ua. 2022/09/13)