1920 – 『活動倶樂部』 大正9年9月号 名優列傳號

情報館・雑誌(和書) より

Katsudou Club Vo.3 No.9 1920 September Issue
(Katsudou Club Publishing co., Tokyo)

名優列傳號と題され、前身の活動評論誌を含めると通巻22冊目となる一冊。表紙はノーマ・タルマッジ。執筆陣の充実し始めた時期に当たりビジュアルとテキストが適度に配分された良内容になりました。

巻頭の原色グラビアにエルシー・ファーガソン、3色刷りに『紅楼夢』のナジモヴァが登場。二度刷りにはミルドレッド・ハリスやマーガリータ・フィッシャーが扱われています。

作品紹介ではノルディスク社の大作『火星飛行』(Himmelskibet, グンナール・トルナエス&リリィ・ヤコブソン主演)、マーシャル・ニーラン監督作『氷原の彼方へ』(The River’s End)が目立つ形で取り上げられています。

特集以外の記事としてはドイツ俳優アレクサンドル・モイッシ(先日書簡を紹介したテルウィンさんの夫君)、オーストリア出身でエス・ハート西部劇で名をあげた女優シルヴィア・ブリーマー、モーリス・トゥールヌール監督の紹介記事が目を引きました。

特集の本体を成しているのは16頁に渡る「新選歐米 活動名優列傳」。ハリウッドから24名、欧州から21名を選出し略歴や代表作をまとめていきます。米国篇は常連メンバーが多く新味に欠けるものの、普段取り上げられる機会の少ないエテル・バリモア(名門バリモア家輩出の実力派で『エクソシスト』ドリュー・バリモアの祖母に当たります)が混ざっているのが嬉しいところ。

またこの時期の活動倶楽部誌は欧州映画に強く、イタリアを中心としたヨーロッパ俳優のチョイスに光るものが目立ちました。1910年代中盤を代表する仏ゴーモン社の花形女優シュザンヌ・グランデ、ノルディクス社初のスター俳優で早世したヴァルデマール・スィランダなど、重要性の割に日本での紹介が遅れていた面々にスポットを当てている点は高く評価できます。

さらに1920年後半期の活動倶楽部を通読していると、長きに渡り邦画界に存在していなかった「映画女優」の概念がこの時期に成熟していく様子を視覚的に追うことが出来ます。

例えば大正9年7月号は「女性美號」と題されていたにもかかわらず、日本の女優についての具体的な言及や紹介は一人もありませんでした。僅か2か月後の9月号では林千歳、河上王蘭が新作紹介に登場、また歸山教正氏が寄稿した自作『さらば靑春』の撮影ルポでも主演・吾妻光子さんの言動が紹介されていました。

邦画に映画女優の概念を持ちこんだのは前年の『深山の乙女』(歸山教正)、という見立ては正しいと思うのです。ただその概念が各社で共有され、愛好家に理解され、マスメディア上で敷衍して通念となるまでにさらなる試行錯誤が必要でした。映画雑誌の端々に現れ始めた「花形女優風の何か」、「人気女優とされる何か」にそういった過渡期の「日本映画女優」の姿が見え隠れしています。


[出版者]
活動倶樂部社

[発行]
大正9年(1920年)9月1日

[定価]
七拾銭

[フォーマット]
B5版、 25.7×18.2cm、104頁