撮影機館 より
1950~60年代に英国で市販されていた9.5ミリ動画カメラ用フィルムの未使用品(デッドストック)を入手しました。ロンドンの映画博物館が旧蔵していたもので白黒、カラーそれぞれ3本ずつです。
以下、主にパテ社系(英パテスコープ社などを含む)の9.5ミリ用フィルムについて簡単にまとめていきます。この主題については英グラハム・ニューマン氏のサイトが詳しいため、興味のある方には一読をお勧めいたします。
1920年代に市販が開始された9.5ミリフィルムの展開は大きく3つに分けて考えることができます。
1)白黒オルソ・フィルム期(1920年代~30年代中頃) R.O.F.
2)白黒パンクロ・フィルム期(1930年代~)P.S.P.F./S.S./V.F./S.X.
3)カラ-フィルム普及以後(1950年~)P.C.F.
R.O.F.
1920年代にパテベビー撮影機が登場した時、最初に市販されたのが赤の光に反応しないオルソマチックのフィルムでした。このフィルムはパテ社から「R.O.F.」(リバーサル・オルソクロマチック・フィルムの略でしょうか)という製品名で市販されていました。

1930年代の仏パテ社製9.5ミリオルソ・フィルム。スペックなどは不明。オンラインコミュニティ「8ミリ・フォーラム」2017年の投稿より
フイルムはパテー9.5mm R.O.F. 反轉用フィルムを用ひ普通現像を行つた。
「9.5ミリ高速度活動寫眞機」 福原達三
(『応用物理』1935年4巻5号, p. 173-176, 応用物理学会)
パテーROF 9ミリ半フヰルム 整色性フヰルムであるが感光度は餘り高くない。SSパンクロフヰルム同様に保存性が弱くカブリを生じ易い傾向があるので、コントラストの強い現像液を使用した方が良い結果を得られる樣である。残存法の仕上げに適して居る。
『反轉現像(最新写真科学大系.第1)』 石動弘
(誠文堂新光社、1935年)
ROFの名称は日本でもそのまま使用されていました。実物は見たことがないのですがG・ニューマン氏が英パテスコープ社製を紹介しており、また海外のオンラインコミュニティに1930年代仏パテ社製品の写真が掲載されていたのを見つけました。
P.S.P.F.
パンクロマチックの9.5ミリフィルムが市販されたのが1930年代初頭、「P.S.P.F.」というタイプでした(後半の「P.F.」が パンクロマチック・フィルムの略)。
PSPF 9.5mm B&W Film for H Charger
メーカー:独パテックス社(デュッセルドルフ)
モトカメラ「H」カートリッジ用
種類:白黒/リバーサル
フィルム感度:17/10° Din
使用期限:1943年8月
S.S.
コントラストなどに問題のあったP.S.P.F.を改良し、1930年中頃に市販されたのが「S.S.」でした。1930年代中盤は日本における9.5ミリフィルム文化の最盛期に当たり、当時撮影されたアマチュアフィルムの多くがこのタイプで撮影されています。
SS 9.5mm B&W Film for P Charger
メーカー:英パテスコープ社(ロンドン)
SS
モトカメラ「P」カートリッジ用
種類:白黒/リバーサル
フィルム感度:Speed Sch. 23°
使用期限:不明
V.F.
第二次大戦後、日本では9.5ミリ製品が市場に戻ることはありませんでした。それでも英仏を中心に9.5ミリ形式は生き延びており、1940年代末にS.S.の改良形「V.F.」が発売されています。
VF 9.5mm B&W Film for P Charger
メーカー:英パテスコープ社(ロンドン)
VF
モトカメラ用「P」カートリッジ用
種類:白黒/リバーサル
フィルム感度:32° Sch.(自然光)/30° Sch.(自然光)
使用期限:1956年8月
S.X.
1950年代末、S.S.をマイナーチェンジする形で発表されたのが「S.X.」でした。ニューマン氏によるとフィルムのベース部が S.S.に比べツルツルとして滑りやすく、撮影時に問題が生じるためゲート部のテンション調整が必要だったそうです。
SX 9.5mm B&W Film for H Charger
メーカー:英パテスコープ社(ロンドン)
SX(SXを明記したシールは剥がれている)
モトカメラ「H」用
種類:白黒/リバーサル
フィルム感度:25° Sch.(手書きで「26° Sch./25 A.S.A.」)
使用期限:1965年12月
P.C.F.
パテ社系列から初のカラーのリバーサルフィルム「P.C.F.」が発売されたのは1950年後半でした。
PCF 9.5mm Colour Film for H Charger
メーカー:英パテスコープ社(ロンドン)
PCF(Presto Colour Film)
モトカメラ「H」用
種類:カラー/リバーサル
フィルム感度:25 Sch.(手書きで「26° Sch./25 A.S.A.」)
使用期限:1965年12月
9.5ミリの白黒リバーサルに関してはパテ社が市場で圧倒的シェアを誇っていたものの、カラーは他社がすでにノウハウを蓄積し市販を開始(コダクロームの9.5ミリタイプが1950年代初頭には市販されていました)しており、「P.C.F.」もフィルムそのものはフェラニア社製を使用していたそうです。
パテ社系列(仏パテ、英パテスコープ、独パテックス)から発売されていた9.5ミリの白黒リバーサルは5種類(「R.O.F.」「P.S.P.F.」「S.S.」「V.F.」「S.X.」)、カラーのリバーサルは1種類(「P.C.F.」)。最初のR.O.F.のみがオルソ・フィルムだったことになります。


9.5ミリフィルムの実写及び自家現像に成功した近年の作例。左はロモタンクでカラーフィルムを撮影現像した独「フィルムコルン.org」(2018年)、右はフェラニア社製白黒フィルムの実写および現像に成功した「フォー・エイジス・オブ・サンド」より(2019年)
現在9.5ミリフィルムは市販されておらず現像を請け負う業者さんもいません。それでも古いフィルムを使用し自家現像した例が幾つかあります。何とかこのレベルにまで持っていきたいな、と。