ジェム映写機を修復する

映写機館 より

先日入手した独パテックス社製の映写機、ジェム(Gem)の修理記録です。

メインのモーターベルトが機能していなかったため交換で何とかなるのではないか、が前回の見立てでした。分解して状態を確認していきます。上の写真がフロント部カバーを外したところで、左側に3枚羽根のシャッターと光学関連ユニットが収められています。右に主軸とファンが見えており、その奥にモーターが置かれています。

モーターとシャッター羽根をつなぐゴム製メインベルト。経年劣化で広がったまま固まっています。

ここまでは想定内。ベルトに関してはサイズさえ選べば幅広かつ肉厚の輪ゴムで代用可能です。替わりのベルトをセットして動作確認…したところ上手くいきません。ベルトをはめると主軸が左にずれてしまいシャッター羽根が回転する際に干渉してしまうのです。

主軸を指で押してみると左右にぐらつきます。モーターの固定が不十分なようです。

側面部を外して内部全体を見ていきます。

モーターが本体底面に固定されている部分。きちんと固定されて…

…いませんでした。軽く持ち上げてみたところ左側は問題なかったものの、右はゴムと金属の接着が剥がれてしまっています。

図で示すとこんな感じ。モーターを収める箱の四隅に金属の脚がついています。この脚は振動防止の緩衝材をかませた上で底板に留めてあります。金属/ゴム/金属でサンドイッチになった構造です。このゴムが経年劣化を起こし2ヶ所で接着が剥がれてしまっていました。

ボロボロに劣化した六角形のゴム製パーツ。配線に飛び散った黒い汚れも劣化したゴムの破片です。

でもここだけ直せば動くんですよね。独製9.5ミリジェムは市場にほとんど出てこない希少種、使える状態に戻したいものです。

ゴム製の緩衝材は4か所とも完全に取り外すことにしました。3Dプリンタで代用パーツを作製。元々のパーツより二回りほど小さいデザインにしてあります。

今回の作業イメージです。厚みを確保し、位置を決めるために樹脂製パーツを金属部品に接着(左)、その後 メタルパテを1ミリ幅ほど流しこんで全体を一体化(右)。3ミリ厚の鉄板から六角形を切り出し溶接したいところですが、そこまでの技術やツールが手元にありません。今回は出来る範囲の修復を行い上手くいかなければ業者に委託する形にしました。

取り外したゴム製の緩衝材は廃棄します。

金属にこびりついたゴムを削り落としていきます。モーター側も外れることが分かったため計8個になります。

アマゾンとダイソーを活用。

3Dプリンタで出力した樹脂パーツを接着。4時間ほどで十分に硬化しました。一時しのぎで良いのであればこのままでもいけそうです。

樹脂パーツを取り囲むようにメタルパテを流しこんでいきます。アルミ+有機溶剤で一回の作業の限界では1ミリ幅位。後で研磨予定ですので多少のはみ出しは気にせず盛っていきます。

一日目はここで終了。


日が変わって作業再開。硬化状況を確認し、はみ出したパテを削り落としていきます。

4つのパーツが揃ったところ。

モーターを収める躯体に脚をはめていきます。

モーターを元の位置に戻していきます。ここで問題発生。ネジの飛び出た部分が引っかかってそのままでは入りません。本体の上カバーを留めているネジを外し、数ミリ浮かせる(緑丸の部分)と何とか収まりました。

底面から見たところ。4つのネジがネジ穴にはまっています。底面プレートを留めるビスはモーター固定用ネジと兼用になっており、また6列の穴で排熱を行っています。よく考えられたデザインです。

モーターの復帰が完了しました。一旦コンセントを電源につないで動くのを確認しておきます。

主軸とシャッター羽根にベルトをかけます。昨日は羽根が干渉していた(左)のに対し、修理後には隙間ができています(右)。この2ミリのずれを取り戻すためにここまでの作業が必要だったことになります。

無事修理が完了。注油を済ませて実際にフィルムをかけたところ。

ジェム映写機は金属製部品が主体となっていてモーターベルトとモーターの脚の緩衝材にのみゴムが使用されています。この2ヶ所から劣化が始まり、機能不全が引き起こされてしまう典型例になっています。他の機体も遅かれ早かれ似たような運命を辿るはずで、修理の流れを一通り確認できたのは良い経験になりました。

テスト上映より。上映はできましたが映写機後部で何かがカタカタ鳴っていて(配線の置き方が悪く干渉している感じ)まだ微調整が必要でした