情報館・DVDより



Fy og Bi Collection, Vol. 1 & 2
2022 Paradium/Danish Film Institute/Soul Media
2022年リリースのDVDで『マリー・ドロ秀作選』と並ぶワクワク感を届けてくれたのがデンマークの脱力系喜劇デュオ、フュー・オ・ビのコレクションDVDです。
自国デンマークでの評価が遅れ気味だったのですがこの数年で状況が変わりつつあります。デンマーク映画協会による発掘~デジタル化~オンライン公開が着実に進んでおり、2019年にはトーキー期(1932~40年)の後期作品が単発でDVD化されています。今回、それに先行する中期作品(1926~1932年)が一括でDVD化されました。放浪色の強かった初期作風を脱却し、多様なシチュエーションコメディに挑戦していた充実期の作品です。

『凸凹珍従軍日記』
(I Kantonnement, 1931, Paradium, dir/Lau Lauritzen Sr.)
兵役に就いたフューとビ(と愛犬)が軍隊で混沌をまき散らしつつ、兵士たちのアイドルでもある女性モナの恋愛成就を手助けしていく一篇。

『凸凹北の海から』
(Vester-Vov-Vov, 1927, Paradium, dir/Lau Lauritzen Sr.)
フューとビは北海に面した漁村に辿りつき、地元青年トムの好意で空き地にあばら家を建てて住み始める。過酷な自然を前に村人は一致団結しているように見えた。だが一部の不心得者が貧しき人々を食い物にしようとしていた…

『凸凹お洒落天国』
(Højt Paa En Kvist, 1929, Paradium, dir/Lau Lauritzen Sr.)
真向いの建物に住む踊り子たちに恋したフューとビが女性陣の気を引くために大奮闘。

『凸凹のアフリカよこんにちは』
(Hallo! Afrika Forude!, 1929, Paradium, dir/Lau Lauritzen Sr.)
港町の酒場に雇われたフューとビは、警察による店のガサ入れの際に二人の女性客を助け出す。ところがたまたま逃げこんだ蒸気船の行先はアフリカで…

『凸凹の雷石事件』
(Tordenstenene, 1927, Paradium, dir/Lau Lauritzen Sr.)
レンガ工場で働くことになったフューとビが作業現場で発生している不穏な事件の謎を解決。

『凸凹の花形俳優』
(Filmens Helte, 1928, Paradium, dir/Lau Lauritzen Sr.)
映画プロデューサーの愛娘に手を出した若手男優二人がクビになり、急遽映画の主役が変更となった。代役に抜擢されたフューとビは花形を目指し渾身の演技を見せるですが…

『凸凹ドンキホーテ』
(Don Quixote, 1926, Paradium, dir/Lau Lauritzen Sr.)
パロディではなくセルバンテス原作を丁寧に再現したシリーズ異色作。カール・シェンストローム(フュー)のドンキホーテとハラルド・マドセン(ビ)のサンチョ・パンサの絶妙なシンデレラ・フィット感。

『凸凹の王様物語』
(Kongen Af Pelikanien, 1928, Paradium, dir/Valdemar Andersen)
訳あってペリカニア国を追われていた皇女ローラの帰国に同行したフューとビであったが、ビがペリカニア国王と瓜二つだったために権力闘争に巻きこまれてしまう政治ファンタジー。
ボケとツッコミの対立構造が希薄、片方がボケると相方がさらにボケて泥沼化していきオチはついたりつかなかったりする…お笑いは地方差、個人差が大きいため万人にお薦めとはいきませんが、二人が揃った時の間合い・空気感が独特で一度感覚を掴んでしまうとどの作品もそれなりに楽しめると思います。
またフューとビの喜劇映画はゲスト俳優の客演を楽しむ作品でもありました。
『凸凹珍従軍日記』ではヒロイン役にモナ・マールテンセンが登場。1929年の名作『ライラ』の輝くような演技で知られたスウェーデンの女優さんです。反抗心の強いお転婆なモダンガールというガラリと趣向を変えた本作の役柄でも表情や動作の端々に閃きを見せています。
『凸凹北の海から』ではヒロインにカリン・ネレモス、その彼氏の母にペトリーヌ・ゾンネを配しています。テオドア・ドライヤー監督作『あるじ』でも共演していた二人が丸々スライドしてきた面白い形です。とりわけデンマーク映画の創始期から老け役専門で活動してきたペトリーヌ・ゾンネの喜怒哀楽に素晴らしいものがありました。
『凸凹お洒落天国』でフューとビの相手を務めたヒロインの一人がマーガレット・ヴィビー 。1930年代以降も歌って踊れる個性派女優として立ち位置を確立していきます。本作では室内のダンス練習場面にその予兆を漂わせつつ、快活で可憐な娘役としても魅力を発揮していました。
『凸凹の花形俳優』では脇役(映画プロデューサーの秘書)として登場したケイティ・ヴァレンチンが注目に値します。この作品で映画デビュー、翌年の『凸凹のアフリカよこんにちは』ではアフリカに漂着するヒロインに格上げ。この後1930~40年代に性格俳優としてデンマーク映画を支えていく女優さんで、フューとビの喜劇が若手俳優の登竜門として機能した好例となっています。
2005年の独TV版DVDボックスと比較した時、新版の方が高解像度で細部の潰れが少なくなっています。またトリミング幅が異なるため構図が大きく変化。サンプル例の旧版(左)では被写体が左に寄っているのに対し、リストア版(右)は画面中央に収まる形になっています。
上のスクリーンショットは『凸凹珍従軍日記』の行軍場面。エキストラたちがゆっくりと移動していくロングショットなどは尺の都合から独TV版で削除される傾向がありました。新版の方ではこういった場面が時折挟みこまれ緩急のついたリズムを生み出しています。
十数年前、フュー・オ・ビについて初めて調べた時にデンマーク語圏での情報が極端に少なかったのを覚えています。そもそも自国でも作品を手軽に見ることができなかったのです。2017年にデンマーク映画協会がパラディウム社から100作以上の古典映画の著作権を買い取り、そこから5年強で一気にデジタル復刻が進みました。願わくは1921~25年の初期作品をこの画質、このリズムで見てみたいものです。
[IMDB]
I Kantonnement
Vester-Vov-Vov
Højt paa en kvist
Hallo! Afrika Forude!
Tordenstenene
Filmens helte
Don Quixote
Kongen Af Pelikanien