1920年代中盤 – 35ミリフィルム 『優秀長尺フイルム 時代劇 全壹巻』(愛和商会)

『優秀長尺フイルム 時代劇 全壹巻』と題された化粧箱入りの35ミリフィルム断章。フィルムは3つの場面(字幕無し)で構成されています。

第一の場面は帯刀した男性が登場。満面の笑みがフッと真顏に変わり、右手を合図のように上げてから正面をにらみつけます。

場面が変わって石灯籠の前に立つ二人の武士。小悪党顔をした左の年配男性が何かを指さすと右の男性が笑いを浮かべます。

さらに場面が切り替わり寺の境内が映し出されます。賽銭箱の奥に置かれたカメラから撮影されたもので、先の登場人物たちの間で今から揉め事が起こりそうだ…の不穏な雰囲気でフィルムが終了しました。

参照として並べた写真は1926年東亞等持院作品『尾形半三郎』の高木新平氏。深刻で重めな芸風(『傷魂』)、軽妙な役柄(『劍戟』)、さらに異形の者(『南蠻寺の怪人』)までこなす芸達者でした。同心役か何かで仲間に合図を出した場面にも見えます。

問題は第二の場面。右の俳優に見覚えがあるような…パッと名が浮かんだのは明石潮。調べ直したところ1924年に出演した『或る兄弟と城主』の写真を見つけました。眉の作り方が異なっているものの頬から顎の輪郭や鼻の形、髪の生え際からもみあげまでのラインが重なるかな、と。高木新平、明石潮両氏は短期間(1924年後半から25年初頭)同時期に東亞に所属、共演は十分ありえます。どちらかの出演データに対応する配役や筋書きの作品が見つかれば一件落着ですが…

共演作(1926年1月『戦国時代』)はあるものの配役(高木新平-矢島龍之助、明石潮-沢能登守)がしっくりきません。クレジットされていない共演作が他にあるのか、俳優の特定を間違っているのか…視点を変えて調べてみる必要がありそうです。

化粧箱には丸に「愛」の印が残されています。齣フィルムの発売で知られる愛和商会が市販していたフィルムだと分かります。大量複製した齣フィルムを児童向けに廉価で売り捌いていた一方、実写されたフィルムを確保するルートも有していて、それらは細切れにはせずある程度の長さで販売していたことになります。その都度都度で入手できた一品物のフィルムを扱うため作品名を明記せず「優秀長尺フイルム 時代劇 全壹巻」の漠然とした表記にしていたと思われます。