齣フィルムより
デミル監督による大作『十誡』の古代編より齣フィルム3枚。エジプト軍に追われたモーゼが海を割るエピソードの少し前の部分に当たります。
『十誡』は初期映画史に必ず登場してくる作品です。しかしながら現在の評価はそこまで高くはなく、ローゼンバウムの『エッセンシャル・シネマ』(IMDb)、スティーブン・シュナイダー編集の『死ぬまでに観たい映画1001本』(IMDb)等の名作リストからは外されてしまっています。『國民の創生』と同じで知名度が先行し「好きな作品」にカウントされにくい傾向があるのです。
本サイトでもデミル作品に触れた回数は少なく、記憶にある限りジェラルディン・ファラーの『カルメン』に軽く言及しただけだったと思います。同監督については書きたいことが幾つかあるのですが、来月別件でリナ・バスケット主演の『破戒』(1929年)を扱う予定ですのでその時にまた。
今回の齣フィルムに関してはスキャンを済ませてその質感に驚かされました。衣装の陰影、肌のコントラスト、アングルと表情の躍動感…カメラも良い仕事をしています。光に対する理解と敬意があってこそのアウトプットで、たとえ物語や世界観に共感できなくても最後まで一気見できるレベルだと思います。
現行デジタル版は保存状態のよい35ミリプリントから丁寧にリストアしたもの。それでものっぺりとした感じになっています。綺麗は綺麗なのですが何かが足りません。ノイズを除去し、コントラスト調整などあれやこれや施していった結果綺麗になりすぎ、アナログに含まれていた生々しさや情感、光と影への敬意が失われている。そう見えるのは自分だけでしょうか。