齣フィルムより




大地怒りて我等の衣食を絶ち、天魔横行して、荒野と化せしめ、東奥羽に大凶作を與へた天明の饑餓に遭遇し、饑餓に苦しむ人々を助けんと東奔西走する好漢あり。
さりながら、なぜか捕吏は彼等一味を捕縛せんと、その行方を?
とうとう其日は來た。彼等一味は大半召捕られ、早や司直に引き渡されんと軍鶏籠は急いだ。
漸く身を逃れた一味の首謀大道寺兵馬は、追はるゝ儘に山深く逃れてゐたが、遙かに通る一味の變りし姿を見て、彼は只々暗然として見送るのみであつた。
新作映畫の役割梗槪 「大道寺兵馬」
『日活画報』 1929年2月号








朝-出羽米澤街道を人々に送られ當途も無く旅立ちする一人の寡婦があつた。[…]
身に大金を所持しゐるを知つた男が二人あつた。
道中所謂護摩の灰、足早の熊五郎と弟分三次である。二人はお種を襲つたが、通りかゝつた兵馬のために?…
通つて、お種を殺した、そして身分を知つた兵馬は始めて眞人間に立返り、頭も丸く、姿は衣に包み、今は一路高津文吾を尋ね遺品を渡さんものと-。
一方、失敗に失敗を續けていた熊五郎と三次も兵馬の後を-。
同上
1928年末に公開された河部五郎主演の時代劇で、辻吉郎作品(1928年『清水次郎長』三部作)の原作・脚本を担当していた仏生寺弥作が初めてメガホンを取ったもの。撮影は川谷庄平氏。
入手した齣フィルムは大きく二つの場面に分かれています。
河部五郎演じるのは、飢饉に苦しむ東北で義賊の首領として活動していた大道寺兵馬。作品冒頭、仲間たちが官吏によって捕縛され兵馬は一人山奥に逃れます。無念な表情を浮かべている兵馬を捉えた齣フィルムが4点。残り15枚ほど(字幕部などの重複あり)は中盤、亡くなったお種の遺品をその息子・高津文吾に届けようとした兵馬が山賊二人組に襲われる場面に対応。
またこの作品では兵馬の物語と並走し、兵馬の妹・お艶(徳川良子)と高津文吾(澤田清)の恋物語が綴られています。現時点で断定はできないものの、おそらく下の2齣も『大道寺兵馬』由来であろうと考えています。
左は澤田清氏。当初『落花剣光録』か『八剣飛竜』と見ていたのですが『大道寺兵馬』の高津文吾を演じた場面のようです。右の女性はやや丸顔、小柄で撫で肩気味、首やや短めのシルエットを和服+髷姿で品良くまとめています。『尊王攘夷』を見た時にも似た印象を受けた覚えがあって徳川良子さんで間違いなかろうと。
入手した齣フィルムで邦画の特定に成功したのは初めてです。河部五郎作品が混ざっているのは分かっていたのですが、衣装(厳密には家紋)が『修羅八荒』とも『地雷火組』とも異なっていて見えなくなっていたところ偶然『日活画報』に対応スチルを見つけました。これまでの経験値や知識がほとんど通用せず運頼みの面が強く無声期の邦画作品特定の難しさを痛感します。
[JMDb]
大道寺兵馬
[IMDb]
Daidojî hyoma