1924 – 『猿飛の忍術』 (松竹下加茂、吉野二郎監督) 35ミリ 齣フィルム

齣フィルムより

Sarutobi no Ninjutsu (1924, dir/Yoshino Jirô, Shôchiku Shimogamo)
35mm Nitrate Film Fragment

『大道寺兵馬』(1928年日活)に続き特定できた2本目の邦画が『猿飛の忍術』。凄いな、澤村四郎五郎が出てきました。

『猿飛の忍術』については国立映画アーカイブ(NFAJ)のデジタルギャラリーで関連資料(香盤とスチル写真)が紹介されています。同ページ説明によると、四郎五郎一派が松竹蒲田から下加茂へと移り京都で製作した初期の作品で、真田幸村の命を受けた猿飛佐助と霧隠才蔵が家康の命を狙う物語。佐助を澤村四郎五郎、才蔵を片岡童十郎が演じていました。

今回発見した齣フィルムは15枚ほど。一番大きな塊は霧隠才蔵(片岡童十郎)を被写体に据えた一連の流れ9枚です。

正確な順番は分からないため仮に上の形で並べてみました。才蔵が左手に箱のような物を持っていて、そこに木の枝が一本入っています。最後から三枚目のコマでは地面を見つめて何に驚いたような表情を見せています。ここからは推測になるのですが、おそらく才蔵が目に留めたのは地面にいる蛇の群れだったのだと思われます。動いている蛇を捉えた齣が見つかっていて、それが流れに対応するのだろうと。

そしてもう一コマ、佐助(澤村四郎五郎)と才蔵が争っている場面があります。背景の木々から同じロケ現場で撮影されたと分かるのですが、佐助が妖術を使って毒蛇で才蔵を襲わせ二人の争いとなって…の展開であると考えれば一通り繋がっていく形に。ただし前後関係にはまだ紛れがあって更なる検証が必要です。

©国立映画アーカイブ(NFAJ)

また国立映画アーカイブの紹介ページには二人が橋の上で闘っているスチルが掲載されていました。

一コマのみながら、笠をかぶった佐助が単独で橋の上を歩いている場面が見つかりました。この後才蔵が登場し剣戟シーンに続いていくようです。

『猿飛の忍術』からはもうひと塊、3枚の齣フィルムからなるセットが見つかっています。

右端に座っているのが四郎五郎です。だとすると左端は誰だろう…と気になっていたところ、こちらも国立映画アーカイブHPから謎を解くことができました。同ページには『活動雑誌』1924年3月号掲載の批評が紹介されています。


四郎五郎の幸村は一通り、二役佐助は得意の役で、松之助程重々しくないのが、却って忍術者らしくてよい。


「封切優秀映画批評/猿飛の忍術」
(『活動雑誌』1924年3月号)


この作品での四郎五郎は一人二役。佐助だけではなく幸村も演じているんですね。それで分かりました。良く見ると画面が3:7程度の割合で縦に分割され(スプリット・スクリーン)二重撮影されています。

拡大すると境界線が薄っすらと見えており(下段写真左)、また一部継ぎ目が上手くいっておらず書状の角が不自然な形になっています(同右)。イングラム監督による『ゼンダ城の虜』(1922)等でも使用されていた同一俳優が画面二ヶ所に登場するトリック撮影。四郎五郎演じる真田幸村が、同じく四郎五郎演じる猿飛佐助に命を下している場面だと判明しました。

松之助以外の旧劇を観たい、手元に置いておきたい。そんな願いは以前からあって中々叶わずに歯がゆい思いでした。ようやくの第一歩。今年10月に国立映画アーカイブに映画を観に行く予定でその時に『活動雑誌』現物を閲覧してきます。

[JMDb]
猿飛の忍術

[IMDb]
Sarutobi no ninjutsu