フィルム館・9.5ミリ (伴野商店) より

“Riku no Ningyo” (1926, Nikkatsu Daishôgun, dir/Abe Yutaka)
c1926 Banno 9.5mm print (seriously damaged)
2023年5月、9.5ミリフィルムのまとまったセットを入手しました。温度によるフィルム変形はそこまでなかったものの、湿気の多い環境で長期保管されていたようで金属ケースに錆が目立ちます。これまで手に入れた日本のフィルム群で一番(国外物を考慮に入れても2、3を争う)状態の悪いものでした。
上の写真は最もダメージの大きかった一本です。堅牢なパテ社製金属ケースがここまで痛んでいるのを初めて見ました。錆と土埃りがケース内部まで入りこみフィルムを引き出そうにも全く動きません。
今回はフィルム回収を優先し、金属ケースを犠牲にすることにしました。


ケース本体は二つのパーツを組みあわせた構造です。フィルムに傷をつけないよう注意しながら、側面を剥がすように取り外していきます。
ケースの片面を外したところ。錆が中まで入りこんでいます。フィルムの悲鳴が聞こえてきそう。
もう片面も剥がしてフィルムが裸になった状態。ここから埃と錆を落としていきます。
加水分解が発生し、錆に浸食されて画面が完全に流れてしまっています。戦後のスーパー8と異なり、本来9.5ミリフィルムは加水分解しにくい特性を持っています。それでも水に濡れた(あるいは超多湿な)状態で長時間放置されているとこういった劣化を起こすことがあります。
一部映像が残っているようです。
フィルムを洗浄し別リールに巻き直しました。
普段であればここまでダメージが大きいと縁が無かったと諦めるところです。しかし今回、冒頭部が比較的良好な状態で残っていて、目視で作品名を確認することができました。
1926年公開の日活作品『陸の人魚』断章。同年のキネマ旬報ベストテンで3位になった作品です。よりによってこのフィルムが一番コンディションが悪いとは…10メートル(1分10秒相当)のうち9割以上は駄目そうですが残り数パーセント(数秒相当)のためにデジタル化してみる価値はありそうです。
[JMDb]
陸の人魚
[IMDb]
Riku no ningyo