1917 – 『毒草』(井上正夫監督、小林商会) 絵葉書4点

1917 « Doku-sô » (Poison Grass, dir/Inoue Masao)
Original Promotional Postcards

1)毒草劇 井上正夫のお源

 果して母親は眞赤になつた焼火箸を焚火の中から取出すと、思ひ知れとばかり、まづお品の半身像にじウとそれを突刺した上、今度は更に二人立の寫眞の方にも突刺すのだ、さうして滅茶々々にお品の顔を潰したうえ、にたりと會心の物凄い笑を漏らした。(『毒草 お品の巻』菊池幽芳、至誠堂書店、大正5年、「寫眞」)

2)毒草劇 木下藤吉郎のお品 藤野秀夫の土手の福 葛城文子のお仙 栗島狭衣の吉蔵

 彼の髪は蓬々と伸びて額や肩に亂れかゝり、口髭も頤髭も延びるに任した様子から、頬骨の突出て居るところから、眉の太く濃いところから、一寸アイヌの容貌を思ひ出させるところがあつた。着物は木綿の布子を着て居るのが見る影もなくぼろぼろになり、ところどころ垢ずれで光つて居るのに三尺帯を巻つけ、尻からげもせず、だらしなく着流して、足は素跣足のまゝである。腰には巾着のやうなものやら煙草入やらに、小猿の髑髏を二つ括つて居るのが異樣の音を立てゝ、足拍子を取つて踊るたびにちやらちやらとなり、こつこつと響いた。

 土手の福がさも愉快さうに踊つて來る跡から、界隈の子供等がぞろぞろと囃し立てゝついて來た。(『毒草 お品の巻』「土手の福」の章)

3)毒草劇 栗島狭衣の吉蔵 井上正夫のお源

 お源の手からバツタリ槌が落ちて、お源はよろよろと熊笹の中に尻餅を搗いた。

 「お母さん、お前、鬼になつたゞか。これ誰の形代だ。」

 母親は云知れぬ慙愧と憤怒のために、わなわなと顫へながら、吉蔵の顔を見上げて、續けさまに太い溜息を漏らした。

 吉蔵は母親を押へた腕を放すと、その猿臂を差延べて、力任せに藁人形をもぎ取り、

 「お母さん、お前はお品を祈り殺さうとするだな。お前、何でそんなにお品が憎いだ。」(『毒草 お品の巻』「三本杉」の章)

4)毒草劇 翠紅園納屋の慘劇

 いつも其卓子(テーブル)の上には煙草盆と燐寸が置いてあるので、その燐寸を探さうとしたのだ。……と燐寸と一緒に鐵の五本爪のついた除草器が觸つた。お源の頭に突然何ものかゞが閃いたらしく、その除草器を燐寸と共に取上げると、屹と中腰になつて納屋の方角を覗いた。しよんぼりと納屋の方に進んで行くお品の輪郭が闇の中に黑く見透された。(『毒草 お品の巻』菊池幽芳、至誠堂書店、大正5年、「兇行」の章)


三月浅草及び市中の各館各座は一斉に同じ毒草劇を上場して東京ツ子をあつと云はせた。(『キネマ・レコード』1917年)

日活、天活、小林の三會社で『毒草』劇を競争的に發表したことがある。この三つの作品を比較すると、各會社の技倆の程度を畧ぼ測定することが出來るのであつて、何れも各自の特色を發揮し、可なりの熱心さが認められた中にも、小林の作品は井上の扮装と、光線の巧みな應用とによつて、一際勝れてゐたといふことである。勿論日活にしてもその頃は著しき進境を示し、『毒草』を數年前の作品に比較すると、確かに凡ての點において進んで來た。(『欧米及日本の映画史』石巻良夫著、プラトン社、1925年)


『己が罪』で知られる大衆通俗作家・菊池幽芳氏が大正5年(1916年)に大阪毎日新聞、東京日日新聞に連載していたのが『毒草』でした、地方を舞台とした猟奇的な物語が評判を呼び、連載終了後すぐに舞台化、映画化が進みます。映画版は小林商会、天活、日活向島の三社競作。井上正夫氏が監督した小林商会版の販促に使用された絵葉書です。

物語は病弱で内向的な娘・お品(木下藤吉郎)が、亡き父の知人を頼り、その息子・吉蔵(栗島狭衣)の営む草木店の手伝いとして働き始めたことで幕を開けます。足が悪く閉鎖的な吉蔵は当初はお品を邪険に扱うのですが、花好きで素直な心にやがて惹かれるようになっていきます。また吉蔵の妹で、人嫌いで閉じこもりがちなお仙(葛城文子)も次第にお品へと心を開いていきます。夫婦の約束を交わした吉蔵とお品ですが、この二人の幸せを憎しみの目で見ていたのが吉蔵の母・お源(井上正夫)であった…と続いていきます。

小林商会版は邦画に女優の登場した最初期の例として知られています。「映画女優」の概念が確立されたのは1919年『深山の乙女』でしたが、そこまでに試行錯誤があって女形・女優共存の本作もその流れに位置づけられます。お仙役の葛城文子さんはこの後『七つの海』(清水宏)、『隣の八重ちゃん』(島津保次郎)、『戸田家の兄妹』(小津安二郎)等に母親役として登場、初期邦画界を底上げしていきました。放浪者・土手の福は後の好々爺俳優・藤野秀夫氏で、吉蔵役と脚本で栗島すみ子の父・狭衣氏が絡むなどその他の配役も魅力的です。

[JMDb]
毒草

[IMDb]
Dokuso

[公開年]
1917年

[原作]
『毒草 お品乃巻』(国立国会図書館デジタル版)

大正6~10年(1917~21年) 春江堂の大活劇文庫

春江堂-大活劇文庫
大正10年の既刊書目録より

大正時代の中期、 1917~21年半ばにかけて40冊ほど出版されたのが「大活劇文庫」です。幸運なことに国立国会図書館がそのほとんどを所蔵しておりデジタル版を読むことができます。

この大活劇文庫はやや複雑な過程を経て成立・展開しています。

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大正中期〜昭和初頭の物語本・説明本文庫リスト

全体像を掴むため大正から昭和初期にかけて発売されていた文庫を出版社別にまとめてみました。以前に紹介した明文館の「映画文庫」瀧本時代堂の「説明本」「トーキー文庫」などもこれらの流れに含めることができます。

1917年に始まった「大活劇文庫」は、1916年の「探偵文庫」を母体にしています。上に掲載した「大正10年の既刊書目録」で言うと、実は左下の複数冊(『名金』から『呪の鍵』まで)は元々「探偵文庫」で発売された作品をカタログに統合したものです。

厄介なことに、「探偵文庫」というのは一つの出版社から出されたものではありませんでした。図表で示したように1)春江堂、2)キネマ書房、3)江東書院の3つの出版社が1916年に「探偵文庫」を公刊していたのです。どうしてこんな形になったのかきちんとした資料は残っていないのですが、現存するデータからおそらく次のような状況だったのだろうと考えられます。

3種類の「探偵文庫」は出版社こそ異なっていたものの、奥付に明記された「發行者」が同一人物になっています。「髙橋友太郎」なる人物で、探偵文庫の創設以前に春江堂から自著を出していた記録が残っています。

キネマ書房
1916年の探偵文庫『黒い箱』(キネマ書房)奥付
江東書院
1916年の探偵文庫『名金』(江東書院)奥付
春江堂
1916年の探偵文庫『青自働車』(春江堂書店)奥付

奥付によると髙橋氏の所在地は「本所區元町六番地」となっており、この住所はキネマ書房と江東書院の所在地と一致します。キネマ書房の「探偵文庫」と江東書院の同文庫は髙橋氏が自宅を拠点に編集していた作品だったと見ることができます。

同年、髙橋氏は接点のあった春江堂でも「探偵文庫」(基本120~150頁)を発刊、翌年には活劇ブームの追い風を受けて250頁程度の作品を扱う「大活劇文庫」に改名して旧文庫を統合していった訳です。

大正から昭和初頭に設立された大半の物語本文庫は短命で1~2年で姿を消していったのですが、「大活劇文庫」は未曽有の活劇流行を背景に4年を超える期間存続していました。フィルムそのものが失われてしまった作品も多いため、往時の賑わい、盛り上がりを追体験する貴重な資料群だと思います。

確認できた作品の一覧をまとめてみました。 IMDbのリンクと併せてリスト化しています。

1917年
『ドラルー(吸血鬼蝙蝠団)』 泉清風 Les Vampires (Louis Feuillade, 1915, ゴーモン社) [IMDb]
『潜航艇の秘密』 櫻木紅涙 The Secret of the Submarine (George L. Sargent, 1915, クオリティー映画社/メトロ社) [IMDb]
『灰色の幽霊』 泉清風 The Gray Ghost (Stuart Paton, 1917, ユニヴァーサル) [IMDb]
『ミラの秘密』 桜木路紅 The Mysteries of Myra (Leopold and Theodore Wharton, 1916, ワートン社) [IMDb]

1918年
『海底の美人塔:女探偵パノプタ』 泉清風 Panopta (Kay Van der Aa Kühle, 1918, デンマーク映画社) [IMDb]
『七ツ真珠』 泉清風 The Seventh Pearl (Louis J. Gasnier & Donald MacKenzie, 1917, アストラ映画社) [IMDb]
『復讐の鬼 : ジュデックス』 阿野二夢 Judex (Louis Feuillade, 1916) [IMDb]
『大秘密』 泉清風 The Great Secret (Christy Cabanne, 1917, クオリティー映画社/メトロ社) [IMDb]
『秘密の王国』 泉清風 The Secret Kingdom (Charles Brabin & Theodore Marston, 1917, ヴァイタグラフ社) [IMDb]
『ダイヤの1』 泉清風 The Red Ace (Jacques Jaccard, 1917, ユニヴァーサル) [IMDb]
『赤い目と太い手』 泉清風 The Crimson Stain Mystery (T. Hayes Hunter, 1916, エルボグラフ社) [IMDb]
『ニコニコお笑ひ会』 (チャップリン初期短編の翻案)

1919年
『赤手袋』 根岸秋人 The Red Glove (J.P. McGowan, 1919, ユニヴァーサル) [IMDb]
『曲馬団の囮』 根岸秋人 The Lure of the Circus (J.P. McGowan, 1918, ユニヴァーサル) [IMDb]
『真鍮の砲弾』 浦峰雪 The Brass Ballet (Ben F. Wilson, 1918, ユニヴァーサル) [IMDb]
『伯林の狼』 浦峰雪 Wolves of Kultur (Joseph A. Golden, 1918, ウェスタン・フォトプレイ社) [IMDb]
『戦闘の跡』 阿野二夢 The Fighting Trail (William Duncan, 1917, ヴァイタグラフ社) [IMDb]
『的の黒星』 松浦雨山 The Bull’s Eye (James W. Horne, 1917, ユニヴァーサル) [IMDb]
『強力エルモ』 恩田雪雄 Elmo, the Mighty (Henry MacRae & J.P. McGowan, 1919, グレートウェスタン製作社) [IMDb]
『人間タンク』 浦峰雪 The Master Mystery (Harry Grossman, Burton L. King, 1918, ロルフェ映画社) [IMDb]
『佳人の復讐』 浦峰雪 Vengeance – and the Woman (William Duncan, 1917, ヴァイタグラフ社) [IMDb]
『ナムバァワン』 浦峰雪 Who Is Number One? (William Bertram, 1917, パラマウント) [IMDb]
『覆面の呪』 泉清風 The Neglected Wife (William Bertram, 1917, バルボア映画社) [IMDb]
『呪の家』 泉清風 The House of Hate (George B. Seitz, 1918, アストラ映画社) [IMDb]
『巴里の秘密』 泉清風 Les mystères de Paris (?, unconfirmed)
『地獄の王冠:イントレランス』 泉清風 Intokerance (D.W. Griffith, 1916, トライアングル映画社) [IMDb]

1920年
『幽霊騎手』 根岸秋人 Hands Up (Louis J. Gasnier & James W. Horne, 1919, アストラ社) [IMDb]
『鷲の目』 浦峰雪 The Eagle’s Eye (George Lessey & Wellington A. Playter, 1918, ワートン社) [IMDb]
『電光石火の侵入者』 The Lightning Raider (George B. Seitz, 1919, アストラ社) [IMDb]
『大旋風』 麻生重人 The Whirlwind (Joseph A. Golden, 1920, オールグッド映画社) [IMDb]
『虎の足跡』 浦峰雪 The Tiger’s Trail (Robert Ellis & Louis J. Gasnier, 1919, アストラ映画社) [IMDb]
『鉄の手袋』 麻生重人 The Hidden Hand (James Vincent, 1917, パテ社) [IMDb]
『曲馬団の秘密』 篠田緑水 The Iron Test (Robert N. Bradbury & Paul Hurst, 1918, ヴァイタグラフ社) [IMDb]
『鉄の眼』 麻生重人 原題不詳
『星の魂』 恩田雪雄 Great Gamble (Joseph A. Golden, 1919, ウェスタン社) [IMDb]
『ラジュウムの秘密』 The Great Radium Mystery (Robert Broadwell & Robert F. Hill, 1919, ユニヴァーサル) [IMDb]
『雷岳の危難』 Perils of Thunder Mountain (Robert N. Bradbury & W.J. Burman, 1919, ヴァイタグラフ社) [IMDb]
『鷹の追跡』 島村鐵石 The Hawk’s Trail (W.S. Van Dyke, 1919, バーストン映画社) [IMDb]
『無敵エルモ』 Elmo the Fearless (J.P. McGowan, 1920, グレートウェスタン製作社) [IMDb]
『ライオンマン』 尾上白夢 The Lion Man (Albert Russell & Jack Wells, 1919, ユニヴァーサル) [IMDb]
『運命の財宝』 河野紫光 The Fatal Fortune (Donald MacKenzie & Frank Wunderlee, 1919, シャーマン・クレルバーグ社) [IMDb]
『灰色の鼠』 河野紫光 I topi grigi (Emilio Ghione, 1917, チベル社) [IMDb]
『蛸の手』 麻生重人 The Trail of the Octopus (Duke Worne, 1919, ホールマーク映画社) [IMDb]
『ドグラス』 浦島三郎 (ダグラス・フェアバンクス初期短編の翻案)
『ニコニコ笑楽会』 麻生重人 (初期喜劇短編の翻案)

1921年
『死の極印』 霞浦人 The Fatal Sign (Stuart Paton, 1920, アロー映画社) [IMDb]

発行年不明
『運命の指環』 The Fatal Ring (George B. Seitz, 1919, アストラ社) [IMDb]
『類人猿ターザン』 Tarzan of the Apes (1918, Scott Sidney, ナショナル映画社) [IMDb]

1919年4月『活動之世界(最終号)』各国映画俳優人気投票

1919年4月『活動之世界』人気投票
『Katsudou no Sekai (Moving Picture World)』
« Hall of Fame » Poll (April 1919)

01:ウォーレン・ケリガン(761) Warren Kerrigan [IMDb]
02:山本嘉一(725) Yamamoto Kaichi [JMDb]
03:ルース・クリフォード(695) Ruth Clifford [IMDb]
04:ヴァイオレット・マースロウ(662) Violet Mercereau [IMDb]
05:ダグラス・フェアバンクス(657) Douglas Fairbanks [IMDb]
06:マルガリータ・フィッシャー(591) Margarita Fischer [IMDb]
07:メアリー・マクラーレン(580) Mary MacLaren [IMDb]
08:ドロシー・フィリップス(513) Dorothy Phillips [IMDb]
09:メアリー・マイルズ・ミンター(470) Mary Miles Minter [IMDb]
10:ウィリアム・S・ハート(465) William S. Hart [IMDb]
11:フランシス・ブッシュマン(457) Francis X. Bushman [IMDb]
12:ベッシー・バリスケール(435) Bessie Barriscale [IMDb]
13:パール・ホワイト(433) Pearl White [IMDb]
14:モンロー・ソールズベリー(408) Monroe Salisbury [IMDb]
15:メアリー・ピックフォード(397) Mary Pickford [IMDb]
16:グレース・ダーモンド(379) Grace Darmond [IMDb]
16:フランチェスカ・ベルティーニ(379) Francesca Bertini [IMDb]
16:メイ・マレー(379) Mae Murray [IMDb]
19:カーメル・マイヤーズ(361) Carmel Myers [IMDb]
20:ベッシー・ラブ(343) Bessie Love [IMDb]
21:チャールズ・チャップリン(305) Charles Chaplin [IMDb]
22:ルース・ローランド(295) Ruth Roland [IMDb]
23:ウィリアム・ダンカン(293) William Duncan [IMDb]
23:モリー・キング(293) Mollie King [IMDb]
25:ジェラルディン・ファーラー(265) Geraldine Farrar [IMDb]
26:ピナ・メニケリ(233) Pina Menichelli [IMDb]
27:ノーマ・タルマッジ(207) Norma Talmadge [IMDb]
28:片岡長正(201) Kataoka Chosei [JMDb]
29:クレイトン・ヘイル(199) Creighton Hale [IMDb]
30:藤野秀夫(177) Fujino Hideo [JMDb]
31:ウィリアム・ラッセル(151) William Russell [IMDb]
32:尾上松之助(147) Onoe Matsunosuke [JMDb]
33:エラ・ホール(141) Ella Hall [IMDb]
34:エディー・ポロ(125) Eddie Polo [IMDb]
35:衣笠貞之助(113) Kinugasa Teinosuke [JMDb]
36:アニタ・スチュワート(112) Anita Stewart [IMDb]
37:早川雪洲(98) Hayakawa Sessue [IMDb]
37:澤村四郎五郎(98) Sawamura Sirogoro [JMDb]
39:ハリー・ケリー(93) Harry Carry [IMDb]
40:ウィリアム・ファーナム(90) William Farnum [IMDb]
41:ドロシー・ダルトン(79) Dorothy Dalton [IMDb]
42:ビヴァリー・ベイン(72) Beverly Bayne [IMDb]
43:フランク・マヨ(69) Frank Mayo [IMDb]
44:東猛夫(65) Azuma Takeo [JMDb]
45:ネヴァ・ガーバー(65) Neva Gerbar [IMDb]
46:アルフレッド・ホイットマン(57) Gayne Whitman [IMDb]
47:アリス・ブラディー(50) Alice Brady [IMDb]
48:アール・フォックス(42) Earle Foxe [IMDb]
49:ベン・ウィルソン(37) Ben F. Wilson [IMDb]
50:セダ・バラ(22) Theda Bara [IMDb]
51:アラン・ホルバー(21) Allen Holubar [IMDb]
52:ジュエル・カーメン(17) Jewel Carmen [IMDb]
53:クララ・キンボール・ヤング(15) Clara Kimball Young [IMDb]
54:ブロニー・ヴァーノン(12) アグネス・ヴァーノン(Agnes Vernon)誤記 [IMDb]
55:ルイズ・グローム(9) Louise Glaum [IMDb]
56:モリー・マローン(8) Molly Malone [IMDb]
57:レオン・バリー(5) Léon Bary [IMDb]
57:ガブリエル・ロビンヌ(5) Gabrielle Robinne [IMDb]
59:フランセリア・ビリントン(3) Francelia Billington [IMDb]
59:アーヴィング・カミングス(3) Irving Cummings [IMDb]
59:花柳はるみ(3) Hanayagi Harumi [JMDb]

1919年初頭、雑誌『活動之世界』新年号で人気投票の開催が告知されました。当時合衆国で行われていた形に倣ったもので、年間を通じて票を募集し、各号で途中経過を発表しながら年明けに最終結果を発表するものです。この第3回中間発表を見ていると当時の傾向が幾つか見えてきます。

人名表記は現在のものを使用。3票以上を獲得した61名の男女比は27名(44%)対34名(56%)、国別内訳は以下となっています。
アメリカ:48名(79%) 日本:9名(15%) イタリア:2名(3%) フランス:2(3%)

ハリウッド俳優ではヴァイタグラフ社が安定した人気ぶり(転籍していますがアニタ・スチュワートやノーマ・タルマッジも同社出身)。国内で安定して配給・宣伝されていたため知名度が高かったと思われます。一方でギッシュ姉妹やグロリア・スワンソンらが選外に漏れてしまいました。

アクションを十八番とする男優(ウィリアム・ダンカン、エディー・ポロ、ハリー・ケリー)が健闘、また連続活劇女優の人気が根強かった様子も伺えます。1910年代末はパール・ホワイトやルース・ローランドらの先駆者に続く第二世代(グレース・ダーモンド、モリー・キング、ネヴァ・ガーバー)が台頭していた時期で、ランキングにもその状況が反映されています。

国内組に目を転じると1917年に日活向島に入社した山本嘉一と藤野秀夫、東猛夫、衣笠貞之助に票が集まっています。松之助人気も健在。正式デビュー前で得票数は伸びていないものの(『深山の乙女』は1919年8月公開)日本初の女優花柳はるみさんが早くも食いこんでくる形になっています。

二名ながらもイタリア女優が上位にランクイン(ベルティーニ、メニケリ)。ドイツや北欧、ロシアの俳優名はありません。

この5年後になると日本でも女優ブームにブロマイドが飛ぶように売れ、連続活劇人気は収まり、イタリアの代わりにドイツ映画が存在感を増していく時代となりました。「映画」の言葉からイメージされる世界の広がりが20年代前半にガラリと変わっている訳で、この人気投票はそれ以前、ちょうど一世紀前の映画理解を反映している点で興味深く思われます。

なお、それぞれの国外俳優の写真は国立国会図書館所蔵の『活動花形俳優』(1921年)や『活動名優寫眞帖』(1919年)で見る事ができます。

大正6年 (1917年) パール・ホワイト主演『拳骨』仏語小説版

「パール・ホワイト連続活劇 [Pearl White Serials]」より

パール・ホワイト主演による連続活劇『エレーヌの勲功(The Exploits of Elaine)』は、日本では『拳骨』の邦題で紹介され人気を博しました。

先行する『ジゴマ』ほどではありませんが、日本語小説版も幾種類か発行されていて当時の盛り上がりが伝わってきます。

大正5年:『拳骨 : 探偵活劇. 第1編/第2編』 俊碩剣士著 (春江堂書店)
大正5年:『拳骨 : 探偵小説』青木緑園著 (中村日吉堂)
大正5年:『拳骨. 上/』活動の世界社編輯局 [編]

今回入手したのは同時期にフランスで発売されていた仏語小説版です。かの国には新聞連載小説の長い歴史があって、本書も元々はル・マタン紙の附録として20冊の続き物として流布していました。こちらはそれを一巻にまとめたハードカバー仕様。570頁を越える大部な一冊です。