1926年 – 市川右太衛門主演『孔雀の光 前編』(マキノ、沼田紅緑監督)説明本・出版者不明


何は兎もあれ、生命に代えて守護して居る大切なる御宸筆が怪賊の手に奪られたあつては、朝廷に對し奉りて御申譯がない。何うあつても之れを尋ね出さなければならぬ、と一大決心を起したのが少將の令嬢八重姫である。

『譬え女でも武士の娘である、御宸筆取り戻して父の仇を討たなければ申譯がない』 健気な決心に侍女のお節も之れに勵まされて姫にお供を願ひ出た。

二人は甲斐甲斐しく身支度して門出の折から之も姫に同情して怪賊の在所を探しに出たのが藤島求馬である。


時は幕末。朝廷から水戸光圀に討幕の命が下された。その旨を記した宸筆が松島通忠左少将の手にあると知った佐幕派は通忠暗殺を決行、宸筆の強奪に成功する。父の仇を討つべく、通忠の娘・八重姫(マキノ輝子)は侍女のお節(泉春子)と共に宸筆探しの旅に出た。八幡山の奥に賊が隠れ潜んでいるのを見つけ出したが、誘拐され返り討ちの危機に陥る。窮地の八重姫を救ったのは、親友中岡慎太郎(中根龍太郎)の情報を受け馳せ参じた忠臣・藤島求馬(市川右太衛門)であった…

幕末を舞台にした勧善懲悪の冒険譚で、独立前の歌右衛門がマキノ時代に出演(『快傑夜叉王』『鳴門秘帖』)していた大作の一つとなります。説明本は3部作の第1部を扱っておりこの後鈴木澄子さんや武井龍三氏が登場、歌右衛門が二役をこなすなど物語が広がっていきます。


[JMDb]
孔雀の光 前編

[IMDb]
Kujaku no kikari – zenpen

[フォーマット]
13.2cm×9.8cm、10頁

[出版年]
1926年

1926年 – 阪東妻三郎主演『幕末』(阪妻プロ 、宇澤芳幽貴監督)説明本・出版者不明


「阪東妻三郎関連」より


彼の武士は、いよいよ圖に乗つて亂暴を働いて居る、此有様を見た兵之助は忽ちムツと怒り出し「ヤア無禮な奴である。場所もあろうに斯る遊里の巷で亂暴を爲すとは男らしくもない奴じゃヨシ俺が取つ締めてやるぞ」と猛然として進み寄つたる兵之助は彼に近寄ると見る間に、ドツと背ひ投げを喰はしてしまつた。其勢に恐れて始めの勇氣は何處へやら鼠の如く小さくなつて人込みの中へ逃げ込んでしまつた、兵之助はカラカラと打ち笑ひながら其場を立ち去つて行った。そして神前組の所へ歸つて來た。隊長の近藤勇は彼を読んで何事か密儀を始めた。兵之助の妻の綾は後妻であつたそして先夫との間に出來た一人娘を連れて兵之助の許へ來たのであるが其の連れ子の娘が何者かに誘かいされて行方不明となつたのでお綾は毎日夫れを氣に病んで悲しい日を送つて居る[…]。


阪妻プロの初期作の一つ(第8作目)で『蛇眼』の次作として公開された作品。先日紹介した東亞の『傷魂』と同じ発行者と思われる小型サイズの解説本です。

『雄呂血』で助監督を務めた宇澤芳幽貴が初めて監督に挑戦。また松竹の特作映画(『修羅八荒』『孔雀の光』)で注目を集めていた新進女優・五味国枝が初めて阪妻と共演した一作でもあります。


[JMDb]
幕末

[IMDb]
Bakumatsu

[フォーマット]
13.2cm×9.8cm、10頁

[出版年]
1926年

1926 – 高木新平・生野初子主演『傷魂』(東亜キネマ、長尾史録監督)説明本・出版者不明



京傳は、遂に此の玄右衛門を暗殺して仕舞つた、其後に残されたのが伜の銀之助である、『あゝ我が父を殺したのは京傳である、『彼れを討ち取つて父の仇を返さなければならぬ』とさまざまに苦心して居たが却つて京傳に覺られて已に危くなつて來たのを、京傳の娘なる彌生のために計らずも、助けられたのが妙な縁となつて、二人は仇同士の子と子でありながら、戀と戀との不思議な運命の仲となつてしまつた。


1926年に出版された豆本サイズの解説本で出版者の記載はなし。表紙を開くと写真が一枚あって、次ページに配役一覧、その後文章が7頁続いていきます。同時に公刊されたと思われるものを他に2冊所有しており、他に東亜の『南蛮寺の怪人』『強狸羅』が出ていたのも確認しています。

天草四郎の乱を背景とし、島原藩での権力争いに巻きこまれる形で仇の子供同士である相馬銀之助(高木新平)と久利部彌生(生野初子)が戀に落ちていく…の展開となっていきます。

物語のさわりの部分だけを紹介したものでこの後銀之助と彌生にどのような運命が待ち受けているのかは分からないままです。体裁、内容的にみて市販されたものではなく、客の興味を引くため映画館が宣材として配っていた非売品かなの印象があります。


[JMDb]
傷魂

[IMDb]
Shokon

[フォーマット]
13.2cm×9.8cm、10頁

[出版年]
1926年

1924 – 榎本書店の活動文庫

1921〜22年にキネマ文庫(A6:14.8×10.5㎝)を扱った後、榎本書店は「活動文庫」という豆本サイズ(A7:10.5×7.4㎝)の薄い説明本を公刊していました。今回4冊をまとめて入手。いずれも大正13年(1924年)8月15日に出版された初版です。ページ数は32で文章は吉田絶景氏。

『キッド』The Kid、1921年、チャールズ・チャップリン監督)

『血と砂』Blood and Sand、1922年、フレッド・ニブロ監督、ルドルフ・ヴァレンチノ主演)

『十八日間世界一周』Around the World in Eighteen Days、1923年、ウィリアム・デズモンド主演)

『ハリケンハッチ』Hurricane Hutch、1921年、ジョージ・B・サイツ監督)

日本で公開された洋画のシナリオを翻訳したキネマ文庫は、いささか毛色の変わった文庫本である。定かではないが、外国映画関係の文庫本としてはこれが濫觴となるのではないだろうか。

一九二〇年(大正九年)に三つの新しい映画会社が誕生したのだが、そのなかの一社である大正活映ではアメリカ映画を輸入配給していた。この時代に日本で輸入・公開されたアメリカ映画のシナリオを翻訳したものが、キネマ文庫である。手元にあるのは一九二四年(大正十三年)一月十日発行の『ブライド13』第七版(初版一九二一年十月二十日発行)と、一九二三年四月十日発行の『白馬の騎手』(初版一九二二年二月十日発行)の二冊。意外に版を重ねているのだが、装丁は紙装で、表紙も本文もほとんど藁半紙に近い粗末な紙質である。扉の次に二枚の口絵があり、次に映画の便概、主要人物及び俳優名、目次、本文と続く。

『文庫博覧会』(奥村敏明、青弓社、1999年)

キネマ文庫以前にも映画関連の「文庫」や「叢書」はありましたし、「シナリオを翻訳」というのは少し違う気がします。それでも1990年代に榎本書店に言及していた点で重要な一文かな、と思います。

最近では2015年には東京国立近代美術館フィルムセンター(現国立映画アーカイブ)で「シネマブックの秘かな愉しみ」が開催され、本地陽彦氏の旧蔵本である貴重なジゴマ本や、榎本書店が1910年代に出版していた連続活劇物『名金』『拳骨』が展示されていました。

また2013年に早稲田大の『リテラシー史研究』第6号で発表された論文(「映画と小説の異種混交メディア:大正期映画物語本」)を確認するも学術論文は他になさそうでした。SP盤による音声劇を含めた大正期ミックスメディアの全貌は未だ深い闇に包まれています。

1931 – 大島印刷株式会社・活動文庫(その三) 『阿波十郎兵衛』 (帝キネ/新興、寿々喜多呂九平)

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こちらは浪花、十郎兵衛と約束した鱶七は、或る夜小幡の室へ忍び込んで、まんまと名刀國次を盗み出し、之を十郎兵衛の宅へ持來して「サー旦那、お約束の刀は持つて參りました……五百兩の方はいかゞでございます」十郎兵衛「未だ江戸から參らぬ故もう二三日猶予してはくれまいか」鱶七「私の方には他の買手も出ましたから……ではその方へ譲るとしませう」十郎兵衛「では明日の晩まで待つてくれ……きつと五百兩、耳を揃へてお渡し申さう」

足利将軍の末裔阿波家では権力争いが苛烈を極め、家老の一人鐵川は同僚松永の保管する名刀を盗ませ松永の失脚を狙おうとした。阿波家伝来の宝刀盗難に気付いた松永は大阪に赴き、かつて仕えていた阿波十郎兵衛(雲井龍之介)に事件の解決を依頼する。十郎兵衛は刀のありかを突きとめたものの買い戻すには500両の大金が必要だった…

マキノや東亞で脚本(1924年『逆流』、1925年『雄呂血』)を手掛けた寿々喜多呂九平が30年代に帝キネ〜新興で監督業に進出した時期に残した作品。主演に雲井龍之介、その妻に鈴木澄子を配しています。

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阿波十郎兵衛は様々な逸話で知られた江戸期の凶賊でした。金品狙いで巡礼の娘を殺した一件が発覚し逮捕されます。陰惨な殺人事件を近松門左衛門が美談化したのが『傾城阿波鳴門』第八段で、帝キネ版はこの浄瑠璃バージョンを展開した内容となっています。

JMDbを確認したところこの作品に対応する1931年のエントリーが二つありました。一つが帝キネ製作、もうひとつは新興キネマ版です。

帝キネは1931年8月に消滅し新興キネマに改組しています。そもそも活動文庫版の出版された9月には会社自体が存在していなかったのです。1931年7月に試写が行われキネマ旬報など映画誌の8月号に記事が掲載されるも実際には上映されずに元の製作会社が消滅。立て直しが終わった11月に改めて新興キネマ版『阿波の十郎兵衛』として公開された流れでしょうかね。

[JMDb]
阿波十郎兵衛(帝キネ)
阿波の十郎兵衛(新興キネマ)

[IMDb]
Awa jûbei

[出版者]
大島金四郎

[出版]
昭和6年(1931年)9月10日

[フォーマット]
B7(13×9センチ)、16頁、スチル写真5枚含む

1931 – 大島印刷株式会社・活動文庫(その二)『海江田譲二の高田の馬場』(日活、辻吉朗監督)

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或る一日街頭の易者に己の身上を占はせました。
『世辭追従の嫌ひな貴殿の氣質を當世向きにしなければ士官はなかなか困難です……それに今の世の中は何といつても腕前なぞより金ですからね』
と淡泊と片付けられ、氣早な安兵衛憤つたの怒らないの易者の机を引ッ繰り返し道具をメチヤメチヤにして歸つたこともありました。

昭和6年(1931年)に『新釈高田の馬場』として公開された作品。前年春に日活に入社した海江田譲二の初期作で、説明本も同氏の名前を前に出しています。海江田譲二はこの後同社の股旅物(『沓掛時次郎』)で知名度を上げ、日活を離れ大都に流れ着いてからも剣戟物で活躍していきます。

海江田氏の初期作は「近代味のある時代劇」とも評されていました。本作でも腕は立つが協調性に難があって士官先を見つけられない安兵衛の設定に世界恐慌後の就職難、拝金主義が重ねあわされているようです。

[JMDb]
新釈高田の馬場

[IMDb]
Shinshaku Takadanobaba

[出版者]
大島金四郎

[出版]
昭和6年(1931年)9月10日

[フォーマット]
B7(13×9センチ)、16頁、スチル写真5枚含む

1931 – 大島印刷株式会社・活動文庫(その一)『野に叫ぶもの』(松竹、島津保次郎監督)

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悌二(ていじ:鈴木伝明「あの海岸を埋立てられたら漁家二千人の生活はどうなると思ふ」
健(たけし:高田稔)「知らん」
悌二「二千人の人間を殺してまで君は金を儲けたいのか」
健「儲けたい」
悌二は云ふことを知らなかつた。そして呆れたやうに見つめた。
健「世の中は力だよ、強いものが勝つて弱いものが負けるのは當り前のことだよ」
悌二は福原のこの變つた樣に涙ぐましく健を見て淋しく微笑した。

かつて大学野球で同じチームに属し共に戦った北條悌二(鈴木伝明)と福原健(高田稔)。二人の父親もまたビジネスでのやりとりがあったが北條銀行の破産の余波を受け無一文となった福原健の父親(藤野秀夫)が自殺。不況の世界をどう乗り切っていくのか、意見の大きく分かれた親友は決別した。

二人が再開したのは6年後だった。弁護士となった悌二は弱い人々のために戦っていた。海岸の埋立計画で漁師たちが困っていると聞きその助けに乗り出したが、埋立賛成派として資金援助したのがかつての旧友の健であった…

佐藤紅緑の同名長編小説を元にした前後編仕立ての松竹現代劇。初期はスポーツ俳優として鳴らした鈴木伝明を上手く生かす大学野球のやりとりに始まり、中盤以降は傾向映画色を強めていきます。高田稔の妹に澤蘭子、鈴木伝明の妹に及川道子を配し、藤野秀夫や岩田祐吉、鈴木歌子のベテラン勢が物語を支えています。

淺草に拠点を置いていた「大島印刷株式会社」が手掛けた活動文庫の一冊。大きさはB7(13×9センチ)でページ数は16。以前に紹介した瀧本時代堂の説明本に似ていますが一回り小さいです。

[JMDb]
野に叫ぶもの 青春篇
野に叫ぶもの 争闘篇

[IMDb]
Noni sakebu mono seishunhen
Noni sakebu mono sotohen

[出版者]
大島金四郎

[出版]
昭和6年(1931年)9月10日

[フォーマット]
B7(13×9センチ)、16頁、スチル写真5枚含む

1920 – 春江堂書店・大活劇文庫『曲馬団の秘密』(The Iron Test、ヴァイタグラフ社)篠田緑水訳

大活劇文庫『曲馬団の秘密』篠田緑水訳
The Iron Test [1918 Vitagraph]
1920 Japanese Novelization by Shunko-Do

1918年に公開された15章物の連続活劇『曲馬団の秘密』をベースにした日本語小説版。モノクロのデジタル版を国立国会図書館のアーカイヴで読むことができます。

パール・ホワイトの中期作品『呪の家(The House of Hate)』で活劇スターの地位を確立したアントニオ・モレノを主演とした作品で、西海岸で活躍するサーカス団の花形エディス(キャロル・ホロウェイ)が危機に巻きこまれモレノ演じる若手芸人が助けていく展開となっています。

1910年代中盤の連続活劇ではウィリアム・ダンカンやエディー・ポロらの男優が日本でも人気を博していました。10年代後半あたりから甘いルックスの若手俳優(ラルフ・ケラード他)が目立つようになってきます。モレノはそういった時流に乗って活劇界のマチネー・アイドル的なポジションに付けていきます。

モレノはこの後『見えざる手』(1919年)と『隠された謎』(1920年)でポーリン・カーリーと共演。サイレント連続活劇の最盛期を飾っていきました。

『呪の家』(1918年)でアントニオ・モレノはパール・ホワイトの相手役となった。ホワイトは『ポーリーンの危難』と『拳骨で世界的な成功を収めたばかりであった。新作は20章仕立てとなっていて、モレノは軍需産業の王と呼ばれる男の愛娘と恋に落ちる若手科学者を演じている。「恐怖頭巾団」の魔の手を逃れるこのカップルの行く末が毎週のエピソードで追われていた。

続いてモレノは『曲馬団の秘密』に出演、獰猛な「赤いマスク」団に追われる軽業師役であった。

1920年、ヴァイタグラフ社社長のアルバート・スミスはさらに危険度の高い15章物活劇の主演にモレノを配した。『見えざる手』である。同じく15章仕立ての『隠された謎』がすぐに続いた。

フォトプレイ誌の編集者ジェームズ・R・クヮーク氏は1920年の映画評でモレノの「観衆を惹きつける驚くべき力」に触れ、彼こそが「連続活劇の王である」と断言した。ロマンチックなアイドルと剛勇ぶりを両立させた点で他の男優に優っている、というのであった。

『花形男優事始め』(D・W・メネフィー、2007年)

The House of Hate (1918) paired Antonio [Moreno] with Pearl White, fresh from her tremendous, worldwide success in the serilas The Perils of Pauline, The Exploits of Elaine, and The Romance of Elaine. This new, twenty-chapter serial cast Antonio as a young scientist in love with the daughter of a munitions king. Each weekly episode followed the young lovers as they escaped the perils of « The Hooded Terror ».

Antonio went into immediately to work in fifteen episodes of yet another serial, The Iron Test (1918) , as a circus acrobat hounded by menacing « Red Mask. »

[…] In 1920, Albert Smith put Antonio through fifteen weekly episodes of more danger in the serial, The Invisible Hand. This was immediately followed by another fifteen-episode serial, The Veiled Mystery.

James R. Quirk, editor of Photoplay magazine, in his 1920 review, noted Antonio’s tremendous drawing power, declaring him « the king of serial actors, » superior to others because of his onscreen prowess as a romantic idol.

(The First Male Stars: Men of the Silent Era,
David W. Menefee, BearManor Media, 2007)

The Iron Test in 1918 Exhibitors Herald Sep-Dec Issue
『曲馬団の秘密』
エキシビターズ・ヘラルド紙1918年9-12月号

[タイトル]
曲馬団の秘密

[出版年]
1920年

[発行者]
高橋友太郎

[発行所]
春江堂書店

[叢書]
大活劇文庫

[ページ数]
260頁

[サイズ]
四六判 18.6×12.5 cm

[原題]
The Iron Test (1919)

[製作]
米ヴァイタグラフ社

[Movie Walker]

[IMDb]
The Iron Test

[公開年]
1918年

1920 – 春江堂書店・大活劇文庫『蛸の手』(The Trail of the Octopus)麻生重人訳

探偵大活劇『蛸の手』(春江堂書店、大正9年)
1920 – The Trail of the Octopus (Japanese Novelization, Shunkodo) Cover

「はい、少し斗りお願の筋があつてまゐりましたの。此の手紙を御覧下さい。」
 恁う云つてラスは一通の書面をホルムスに差し出した。ホルムスが何が書いてあるかと怪しみながら取り上げて目を通して見ると、「死の商標は旋て我々の手に返つて來るであらう、紫の短劍を有してゐる九人の博士は一人一人に片附けて行く。ケニヨン博士は殺されたから、今度はお前の番だ」
 として、紙の一陽に羊の蹄の印が押捺してある。「ははあ、一體之は什うしたんですか?。」事情を知らぬホルムスは、先ず事情の筋道を聞かねばならなかつた。ラス、スタンホープは遂に、ホルムスの懇望によつて父博士から聞かされた一伍一什の物語をした。

octopusoctopus

エジプトの砂漠で発見された「悪魔の商標(Devil’s Trademark)」を巡り、学者二人が諍いを起こし片方が殺害される。生き残ったスタンホープ博士は帰国するも、以来自分を見張る「二つの赤い目」に悩まされるようになったた。愛娘のルース(ネヴァ・ガーバー)は父を心配し、事件の解明を探偵ホルムス(ベン・ウィルソン)に依頼するも一足遅く、博士は何者かによって殺害された後であった…「悪魔の商標」を解除する9つの短剣は国内の学者たちの手に渡っており、その行方をめぐって探偵ホルムスと悪党たちとの激しい駆け引きが繰り返されていきます。

一部(第9章)を除いて現存が確認されており、なおかつDVDで市販されている連続活劇『蛸の手』(The Trail of the Octopus)の日本語版ノベリゼーション。元々は15章仕立てだった内容を春江堂版は11章に再構成。

表紙は蛸の足にからめとられる登場人物を描いたもので、裏表紙にまで絵が回りこんでいます。表紙を開くと見開きで拉致された女性を探偵と警官が追いかけているイラスト入り。その後大活劇文庫の他作品同様、映画からのスチル写真が4枚あしらわれています。

ネヴァ・ガーバーは無声映画の中期活劇を代表する女優の一人でユニヴァーサル社ではベン・F・ウィルソンと共演を重ねながら(『The Mystery Ship(1917)』『The Voice on the Wire(1917)』)、その後ハリー・ケリーの西部劇ヒロインとしても知名度を上げていきました。

[原題]
The Trail of the Octopus

[公開年]
1919年

[IMDB]
The Trail of the Octopus

[出版年]
1920年(大正9年)

[出版者]
春江堂書店

[ページ数]
248頁

[サイズ]
18.2 × 12.5cm

大正6~10年(1917~21年) 春江堂の大活劇文庫

春江堂-大活劇文庫
大正10年の既刊書目録より

大正時代の中期、 1917~21年半ばにかけて40冊ほど出版されたのが「大活劇文庫」です。幸運なことに国立国会図書館がそのほとんどを所蔵しておりデジタル版を読むことができます。

この大活劇文庫はやや複雑な過程を経て成立・展開しています。

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大正中期〜昭和初頭の物語本・説明本文庫リスト

全体像を掴むため大正から昭和初期にかけて発売されていた文庫を出版社別にまとめてみました。以前に紹介した明文館の「映画文庫」瀧本時代堂の「説明本」「トーキー文庫」などもこれらの流れに含めることができます。

1917年に始まった「大活劇文庫」は、1916年の「探偵文庫」を母体にしています。上に掲載した「大正10年の既刊書目録」で言うと、実は左下の複数冊(『名金』から『呪の鍵』まで)は元々「探偵文庫」で発売された作品をカタログに統合したものです。

厄介なことに、「探偵文庫」というのは一つの出版社から出されたものではありませんでした。図表で示したように1)春江堂、2)キネマ書房、3)江東書院の3つの出版社が1916年に「探偵文庫」を公刊していたのです。どうしてこんな形になったのかきちんとした資料は残っていないのですが、現存するデータからおそらく次のような状況だったのだろうと考えられます。

3種類の「探偵文庫」は出版社こそ異なっていたものの、奥付に明記された「發行者」が同一人物になっています。「髙橋友太郎」なる人物で、探偵文庫の創設以前に春江堂から自著を出していた記録が残っています。

キネマ書房
1916年の探偵文庫『黒い箱』(キネマ書房)奥付
江東書院
1916年の探偵文庫『名金』(江東書院)奥付
春江堂
1916年の探偵文庫『青自働車』(春江堂書店)奥付

奥付によると髙橋氏の所在地は「本所區元町六番地」となっており、この住所はキネマ書房と江東書院の所在地と一致します。キネマ書房の「探偵文庫」と江東書院の同文庫は髙橋氏が自宅を拠点に編集していた作品だったと見ることができます。

同年、髙橋氏は接点のあった春江堂でも「探偵文庫」(基本120~150頁)を発刊、翌年には活劇ブームの追い風を受けて250頁程度の作品を扱う「大活劇文庫」に改名して旧文庫を統合していった訳です。

大正から昭和初頭に設立された大半の物語本文庫は短命で1~2年で姿を消していったのですが、「大活劇文庫」は未曽有の活劇流行を背景に4年を超える期間存続していました。フィルムそのものが失われてしまった作品も多いため、往時の賑わい、盛り上がりを追体験する貴重な資料群だと思います。

確認できた作品の一覧をまとめてみました。 IMDbのリンクと併せてリスト化しています。

1917年
『ドラルー(吸血鬼蝙蝠団)』 泉清風 Les Vampires (Louis Feuillade, 1915, ゴーモン社) [IMDb]
『潜航艇の秘密』 櫻木紅涙 The Secret of the Submarine (George L. Sargent, 1915, クオリティー映画社/メトロ社) [IMDb]
『灰色の幽霊』 泉清風 The Gray Ghost (Stuart Paton, 1917, ユニヴァーサル) [IMDb]
『ミラの秘密』 桜木路紅 The Mysteries of Myra (Leopold and Theodore Wharton, 1916, ワートン社) [IMDb]

1918年
『海底の美人塔:女探偵パノプタ』 泉清風 Panopta (Kay Van der Aa Kühle, 1918, デンマーク映画社) [IMDb]
『七ツ真珠』 泉清風 The Seventh Pearl (Louis J. Gasnier & Donald MacKenzie, 1917, アストラ映画社) [IMDb]
『復讐の鬼 : ジュデックス』 阿野二夢 Judex (Louis Feuillade, 1916) [IMDb]
『大秘密』 泉清風 The Great Secret (Christy Cabanne, 1917, クオリティー映画社/メトロ社) [IMDb]
『秘密の王国』 泉清風 The Secret Kingdom (Charles Brabin & Theodore Marston, 1917, ヴァイタグラフ社) [IMDb]
『ダイヤの1』 泉清風 The Red Ace (Jacques Jaccard, 1917, ユニヴァーサル) [IMDb]
『赤い目と太い手』 泉清風 The Crimson Stain Mystery (T. Hayes Hunter, 1916, エルボグラフ社) [IMDb]
『ニコニコお笑ひ会』 (チャップリン初期短編の翻案)

1919年
『赤手袋』 根岸秋人 The Red Glove (J.P. McGowan, 1919, ユニヴァーサル) [IMDb]
『曲馬団の囮』 根岸秋人 The Lure of the Circus (J.P. McGowan, 1918, ユニヴァーサル) [IMDb]
『真鍮の砲弾』 浦峰雪 The Brass Ballet (Ben F. Wilson, 1918, ユニヴァーサル) [IMDb]
『伯林の狼』 浦峰雪 Wolves of Kultur (Joseph A. Golden, 1918, ウェスタン・フォトプレイ社) [IMDb]
『戦闘の跡』 阿野二夢 The Fighting Trail (William Duncan, 1917, ヴァイタグラフ社) [IMDb]
『的の黒星』 松浦雨山 The Bull’s Eye (James W. Horne, 1917, ユニヴァーサル) [IMDb]
『強力エルモ』 恩田雪雄 Elmo, the Mighty (Henry MacRae & J.P. McGowan, 1919, グレートウェスタン製作社) [IMDb]
『人間タンク』 浦峰雪 The Master Mystery (Harry Grossman, Burton L. King, 1918, ロルフェ映画社) [IMDb]
『佳人の復讐』 浦峰雪 Vengeance – and the Woman (William Duncan, 1917, ヴァイタグラフ社) [IMDb]
『ナムバァワン』 浦峰雪 Who Is Number One? (William Bertram, 1917, パラマウント) [IMDb]
『覆面の呪』 泉清風 The Neglected Wife (William Bertram, 1917, バルボア映画社) [IMDb]
『呪の家』 泉清風 The House of Hate (George B. Seitz, 1918, アストラ映画社) [IMDb]
『巴里の秘密』 泉清風 Les mystères de Paris (?, unconfirmed)
『地獄の王冠:イントレランス』 泉清風 Intokerance (D.W. Griffith, 1916, トライアングル映画社) [IMDb]

1920年
『幽霊騎手』 根岸秋人 Hands Up (Louis J. Gasnier & James W. Horne, 1919, アストラ社) [IMDb]
『鷲の目』 浦峰雪 The Eagle’s Eye (George Lessey & Wellington A. Playter, 1918, ワートン社) [IMDb]
『電光石火の侵入者』 The Lightning Raider (George B. Seitz, 1919, アストラ社) [IMDb]
『大旋風』 麻生重人 The Whirlwind (Joseph A. Golden, 1920, オールグッド映画社) [IMDb]
『虎の足跡』 浦峰雪 The Tiger’s Trail (Robert Ellis & Louis J. Gasnier, 1919, アストラ映画社) [IMDb]
『鉄の手袋』 麻生重人 The Hidden Hand (James Vincent, 1917, パテ社) [IMDb]
『曲馬団の秘密』 篠田緑水 The Iron Test (Robert N. Bradbury & Paul Hurst, 1918, ヴァイタグラフ社) [IMDb]
『鉄の眼』 麻生重人 原題不詳
『星の魂』 恩田雪雄 Great Gamble (Joseph A. Golden, 1919, ウェスタン社) [IMDb]
『ラジュウムの秘密』 The Great Radium Mystery (Robert Broadwell & Robert F. Hill, 1919, ユニヴァーサル) [IMDb]
『雷岳の危難』 Perils of Thunder Mountain (Robert N. Bradbury & W.J. Burman, 1919, ヴァイタグラフ社) [IMDb]
『鷹の追跡』 島村鐵石 The Hawk’s Trail (W.S. Van Dyke, 1919, バーストン映画社) [IMDb]
『無敵エルモ』 Elmo the Fearless (J.P. McGowan, 1920, グレートウェスタン製作社) [IMDb]
『ライオンマン』 尾上白夢 The Lion Man (Albert Russell & Jack Wells, 1919, ユニヴァーサル) [IMDb]
『運命の財宝』 河野紫光 The Fatal Fortune (Donald MacKenzie & Frank Wunderlee, 1919, シャーマン・クレルバーグ社) [IMDb]
『灰色の鼠』 河野紫光 I topi grigi (Emilio Ghione, 1917, チベル社) [IMDb]
『蛸の手』 麻生重人 The Trail of the Octopus (Duke Worne, 1919, ホールマーク映画社) [IMDb]
『ドグラス』 浦島三郎 (ダグラス・フェアバンクス初期短編の翻案)
『ニコニコ笑楽会』 麻生重人 (初期喜劇短編の翻案)

1921年
『死の極印』 霞浦人 The Fatal Sign (Stuart Paton, 1920, アロー映画社) [IMDb]

発行年不明
『運命の指環』 The Fatal Ring (George B. Seitz, 1919, アストラ社) [IMDb]
『類人猿ターザン』 Tarzan of the Apes (1918, Scott Sidney, ナショナル映画社) [IMDb]

1931年 トーキー文庫 『無憂華』 (東亞キネマ作品)

Madame Takeko Kujo, Sorrowless tree (Muyuu-ge
« Madame Takeko Kujo, Sorrowless tree (Muyuu-ge) », a novelization based on the 1930 eponyme film.

1930年秋に公開された東亞のオールスター作品『無憂華』をノベライズした説明本。

内容は和風聖女伝。名門寺社の娘として生れ、貴族の元に嫁ぎ、歌人として、さらに社会活動家(関東大震災後の慈善活動、京都女子大創設)として名を上げながら若くして病に倒れた大正女性の生き様を描いた内容です。

聖女のイメージとは裏腹に実際の武子夫人は気さくな性格で、人間臭い悩みやトラブルを抱えていたことも知られていますが、小説版は暗黒面に踏みこむことはせず都合の悪い個所は曖昧にぼかされていました。

興味深いのは、本作が東亞キネマ後期の特作品として製作され時代劇および現代劇の俳優が数多く出演している点です。

独身時代と結婚後のヒロインをオーディションで選ばれた新人女優(鈴村京子と三原那智子)が別々に担当。若き武子の良き相談役だった籌子の方を個性派・久世小夜子が演じ、その他端役で里見明、歌川絹枝、石川秀道、千種百合子、大井正夫、冨士幸子、椿三四郎などが続々登場。

また映画中に劇中劇『洛北の秋』が挿入されていて原駒子と木下双葉、尾上紋弥が共演する仕掛けとなっています。嵐寛寿郎と羅門光三郎以外の俳優が揃っているのではないかという豪華布陣はオールスターの名に恥じないものです。

後期東亞キネマのサイン帳について調べていた時に完全版が現存しているのを知りました。機会があれば是非見てみたいと思っています。

[発行年]
昭和6年2月

[発行所]
映畫研究會

[フォーマット]
150頁 17.0cm×11.7cm

[定価]
二十銭

1927 – 時代劇 『剣の舞』(東亞キネマ 明文館 映画文庫)

 

激しい乱闘だ。修理の太刀には無駄がなく、ばたりばたりと前後左右に屍を積んだが、然しややその呼吸が乱れて来た。此処ぞと敵は益々激しく斬り込み斬り込み、息もつかせぬ。

映画文庫の20冊目として出版されたのが『剣の舞』。幕末の秋田藩を舞台とし、佐幕派と攘夷派の緊張が高まる中、陰謀に巻きこまれていく池田修理(市川小文治)の活躍を描いています。三角関係のロマンスが含まれており、生野初子さんが「和製楊貴妃」と称されるヒロイン琴路を演じました。

表紙にあしらわれた « MOVIE » がモダンな雰囲気を醸し出しています。

[原作] 歌川 天外
[監督] 松室 春翠
[出演] 市川小文治 生野初子ほか

明文館『映畵文庫』書籍一覧(1927年)

明文館・映画文庫一覧(1927年)

1927年時点で26冊が刊行されていた模様。扱われている作品の大半は1925年11月~1926年1月に公開された作品。

『御詠歌地獄』(松竹 1925年11月)
『雄呂血』(阪妻 1925年11月)
『荒木又右衛門』(日活 1925年11月)
『靑春』(松竹蒲田 1925年11月)
『上野の鐘』(松竹 1925年11月)
『辨天小僧』(帝キネ 1925年11月)
『松風村雨』(帝キネ 1925年11月)
『人間』(日活 1925年12月)
『戀の捕繩』(松竹 1925年12月)
『龍巻く嵐』(帝キネ 1925年12月)
『時勢は移る』(松竹)
『落武者』(松竹 1925年12月)
『命の懸橋』 (東亞1925年)
『お艶殺し』(東亞 1925年10月)
『寂しき道』(松竹 1925年11月)
『お初吉之助』(松竹蒲田 1926年1月)
『剣の舞』(東亞 1925年7月)
『女神の像』(帝キネ芦屋 1926年1月)
『いでゆの秋』(東亞 1925年12月)
『曲者は誰?』(帝キネ 1925年12月)
『征服者』(松竹蒲田 1925年12月)
『血刃の情火』(松竹 1926年2月)
『磯の仇浪』(東亞 1925年11月)
『魔保露詩』(阪妻 1925年12月)
『相模屋政五郎』(帝キネ芦屋 1926年2月)
『白川小天狗』(帝キネ 1925年12月)

ご丁寧に対応して下さった国立映画アーカイブ図書室のスタッフの皆様ありがとうございました。

時代劇 『魔保露詩』 (大正15年、明文館 映画文庫)

「阪東妻三郎関連」より

阪東妻三郎、1925年の出世作『雄呂血』(おろち)の人気を受け同年末に公開されたのが『魔保露詩』(まぼろし)。フィルムが現存しておらず当時のパンフレットなど断片情報が残るのみ…と思っていたところ偶然に1926年の小説版を発見しました。

市中で見つけた父の仇の命を助けた主人公が、その果てに辿りついた凄惨な運命を描いた一作。阪妻初期作にしばしば指摘される虚無感、反権力の要素を小説にも見て取ることができます。

紙の一部がインク印刷の部分だけくり貫いたように消え失せているなど、紙質による特殊な劣化が見られます。

[出版者]
明文館書店

[出版年]
1926年

[定価]
25銭

[フォーマット]
10.6×14.5センチ、136ページ。口絵4ページ。