1916-1917 DVD 『ミスタンゲット:無声映画特選集』(2016年、LCJ出版社)

Mistinguett : 3 chefs-d’oeuvres du cinéma muet
(2016, LCJ Editions & Productions)

戦前フランスで活躍し「ミス(la Miss)」の愛称で親しまれた舞台パフォーマー、ミスタンゲット。「ミス」は略称であると同時に英語の”ミス”でもあって、こと彼女に関しては「お嬢」と訳したくなる雰囲気を含んでいます。舞台デビューは19世紀末までさかのぼりその後ミュージック・ホールを中心に人気を博していくのですが、移ろ気で口の悪い愛好家も少なくない業界で長きに渡って愛されてきた例外的な芸能人でした。

初期映画界との接点も深く1908年にパテ社短編で映画デビュー、リガダン物喜劇や1914年版『噫無情(レ・ミゼラブル)』にも出演。1916年~17年の主演作3本をまとめたのがこのDVDセットです。以前に触れたように2018年に東京大学で「ミスタンゲットを発見せよ―フランス・サイレント映画の夕べ」が開催されており、その時に上映された『金髪のシニョン』が含まれています。

舞台女優ミスタンゲットの手元に次作の脚本が届けられた。「金髪のシニョン」とあだ名される町娘を演じる予定で、役になりきるためそれらしく扮装して場末の酒場に乗り出してみた。そこで出会ったのは胡散臭い3人組の男。誤って貴金属を身に着けたままだったのを気づかれ、ミスタンゲットは男たちに追われる羽目となつた…

『金髪のシニョン』(Chignon d’or, 1916, 51分)


お針子として働いていたマルゴは仕事帰りに同僚とミュージック・ホ-ルに足を向けた。「あんたって花形女優のミスタンゲットにそっくりだよね」。マルゴは自分とそっくりな女優に熱を上げ夜遅くまで舞台にかじりついていた。厳格な父親には理解されず、家出したマルゴは張り子の仕事を失い通りの花売りとなつた。ある日、そんなマルゴに偶然に目を止めたのがミスタンゲットの彼氏ポッジであつた…

『巴里の花』(Fleur de Paris, 1916, 43分)


女探偵として知られるミスタンゲットは激務の合間に婚約者ジャンとの束の間の逢瀬を楽しんでいた。ジャンは諜報機関に属しており、敵国の潜水艇の動きを調べるべく南仏ニースへと向かった。だがジャンの動きは敵に見ぬかれ、罠に落ちた男は銃撃を受け重傷を負う。電報でその知らせを受け取ったミスタンゲットは鳥打帽の男に変装し、単身で敵のアジトに侵入を試みる…

『女探偵ミスタンゲット』(Mistinguett détéctive, 1917, 30分)

『金髪のシニョン』は下町犯罪物とハリウッド製連続活劇を混ぜた発想で、ヒロインが屋根伝いに敵から逃れたり地下室で炎に巻かれるなどアクションの要素を強調。『巴里の花』はコミカルな調子で始まりつつ、次第に「人違い(quiproquo)」のドラマが展開し最後はメロドラマとして閉じていきます。『女探偵』は敵国の諜報活動をミスタンゲットが撃退する物語で第一次大戦下の愛国主義の空気も反映しています。

3作いずれも監督はアンドレ・ユゴン。1920年代作品(『カマルグの王』)の9.5ミリ版紹介で触れたようにパテ、ゴーモン、エクレール社の大手と距離を置き、自社で映画製作を行った仏インディ映画監督のさきがけでもあります。作品で個性を主張するタイプではなく、職人肌でかっちりした娯楽作をまとめるのを得意としていてこのDVDセットでもその実力を再確認することができます。

[原題]
Mistinguett : 3 chefs-D’oeuvres du cinéma muet

[出版年月日]
2016年7月15日

[出版者]
LCJ出版社(LCJ Editions & Productions)

[EAN]
3550460051502

[再生時間]
120分

[フォーマット]
18.03 x 13.76 x 1.48cm 83.16g

1918-1930 – DVD 『アウグスト・ジェニーナ作品集』(2020年、チネテカ・ディ・ボローニャ)

« Augusto Genina : Quattro film 1918-1930 »
(2020, Cineteca di Bologna)

ルイーズ・ブルックス主演作『ミス・ヨーロッパ』の新リストア版を含むDVD2枚組+ブックレット。収録作は以下の4作:

1)『さらば青春』(1918年、マリア・ヤコビニ&エレナ・マコウスカ他出演) Addio giovinezza!
2)『仮面と素顔』(1919年、イタリア・アルミランテ主演) La maschera e il volto
3)『さらば青春』(1927年、カルメン・ボニ&エレナ・サングロ他出演) Addio giovinezza!
4)『ミス・ヨーロッパ』(1930年、ルイーズ・ブルックス主演) Prix de beauté

ブックレットはイタリア語/英語によるもので、専門家による作品各論4編、主要俳優紹介、書き下ろしサントラ紹介を中心とした構成となっていました。

『ミス・ヨーロッパ』新リストア版よりルイーズ・ブルックス

旧版の低画質が指摘されていた『ミス・ヨーロッパ』の新デジタル化も朗報ながら、初期イタリア青春映画の秀作としてその名を語り継がれてきた1918年『さらば青春』を手の届くものにした功績は計り知れないものがあります。ジェニーナ監督の作風変遷、さらには第一次大戦後のイタリア映画変貌を理解していく手だてにもなり2020年に発売されたサイレント映画関連DVDでは最も重要な一枚になると思われます。

[出版年月日]
2020年8月27日

[出版者]
チネテカ・ディ・ボローニャ(Cineteca di Bologna)

[ISBN-10/13]
8899196672
978-8899196677

[再生時間]
338分

[フォーマット]
14.4 x 1.4 x 19.7cm 270g