1925 – 9.5mm 『三人』 (トッド・ブラウンニング監督)仏フィルム・オフィス社プリント

小人症映画小史(02)

Les Trois « X » (« The Unholy Three », 1925, Metro-Goldwyn-Mayer, dir/Tod Browning) Postwar French Film Office 9.5mm Print

腹話術師のエコー(ロン・チェイニー)、小人症芸人のトウィードルディー(ハリー・アール)、怪力男のヘラクレス(ヴィクター・マクラグレン)が芸を披露している建物には今日も多くの客が集まつていた。観衆の前では愛想笑いを受かべてはいたが、彼らには裏の顔があつた。三人は手つ取り早く大金を稼ぐため奇想天外なる計画を実行するのである。

大通りに面したペットショップに変装した三人が住みこんでいた。売り物のオウムを出しにして、富裕な客の自宅を物色し貴金属を盗み出していく。計画はうまくいったかに見えた。だがエコーの情婦であるスリのロージー(メエ・ブッシュ)が店員として雇われた青年ヘクターと恋に落ちた時、三人の緻密な計画にほころびが生まれ始める…

1932年のカルト作品『フリークス』でも知られるトッド・ブラウニング監督のもう一つの代表作品。1925年のサイレント版と配役変更を行った1930年トーキー版の二つがありこちらはサイレント版。仏フィルム・オフィス社が戦後に発売していた仏語字幕物で100メートルリール4巻構成、上映時間は1時間強。

現行DVDと比べ描写が潰れており良いプリントとは言えません。ただ、今回一部をスキャンして確認したところデジタル化されているUS版とは別プリントだと判明しました。

上の2枚は仲間割れしたヘラクレスがトウィードルディーを車の助手席に押しこんで店を離れる場面です。背景に注目するとUS版DVD(左)では家から出た後の扉が完全に開ききっています。ところが仏9.5ミリ版では扉が反動で戻ってきてしまい半開きになっています(右)。

また3人組が悪だくみの相談をしている場面では9.5ミリ版(右)だと ロン・チェイニーの背後にドアノブが見えているのに対し、DVD版(左)ではカメラの角度が異なっていてドアノブが見えなくなっています。

9.5ミリ版はDVD版と共通のショットの一切ないオルタネイト・バージョンでした。チャップリンのミューチャル短編や20年代のラング作品、あるいは一部のキートン主演作と同様に国外向けに用意された別ネガを基にしているようです。トッド・ブラウンニング作品で海外向けのネガが違っているという話は聞いた覚えがなく驚かされました。

ロン・チェイニーの悲哀、メエ・ブッシュの程よい透明感、ハリー・アールの振り切れた二面性など見どころが多く個人的には『フリークス』以上に優れた作品と見ています。また悪漢三人+美悪女一人のルパン三世的フォーメーションは19世紀までの小説や演劇には見られないもので、遡っていくとこの作品(原作小説は1917年)やジョン・フォードの『三惡人』(1926年)に辿りつきます。

[原題]
The Unholy Three

[IMDb]
The Unholy Three

[Movie Walker]


[公開年]
1925年

[メーカー]
仏フィルム・オフィス社

[フォーマット]
9.5ミリ 白黒無声 120メートル×4巻 ノッチ無し

1957 – 9.5mm 『太平洋の怪獣ゴジラ』(『ゴジラ』仏編集版、東宝他) 1960年頃 仏フィルム・オフィス版

Godzilla (« Godzilla, le monstre de l’Océan Pacifique », Toho)
c1960 French Film Office 9.5mm Print

『ゴジラ』の日本初公開(1954年)から2年後の1956年、追加撮影された場面を加え設定を変更した編集版『怪獣王ゴジラ(Godzilla, King of the Monsters! )』がアメリカで公開されています。オリジナル版『ゴジラ』を英語字幕付きで正式に観ることができるようになったのは2000年代になってからで、それまでの欧米ではUS編集版を元にゴジラの受容・理解が進んでいったとされています。

実際には欧州でも国によってプリントの異同がありました。西ドイツでUS版は採用されず東宝オリジナル版を独自編集した版が公開されていました。フランスではUS版を再編集し完全吹き替え版とした『太平洋の怪獣ゴジラ(Godzilla, le monstre de l’Océan Pacifique)』が1957年にリリースされています。

今回紹介するのはこの『太平洋の怪獣ゴジラ』をベースにした9.5ミリ版です。仏フィルム・オフィス社が1958~62年頃に発売したもので100mリール4本構成、実写時の上映時間は50分程。音声は含まれておらず会話や説明が仏語字幕で画面に埋めこまれた形になっています。

US版は1)米国の観客が感情移入しやすくするため”語り部”となる米国人リポーター(レイモンド・バー)を導入し、2)当時の米国世論にそぐわない反核の要素を削除する、という二つの方針を軸に編集されたものでした。仏版ではこの版をベースとしつつも米国人記者の要素を減らし、時系列上の展開をオリジナルに近い形に戻そうとする傾向が見られます。

仏9.5ミリ版は大戸島の浜辺で物語が始まります。不漁が続き「呪いだ」「呉爾羅(ゴジラ)の仕業だ」と島民たちが噂しあうなか、ある夜民家が謎の理由で押しつぶされる災害が発生。国会で原因を調査する委員会が組織され、その会議の報告を傍聴する席に米国特派員スティーブ・マーティン(レイモンド・バー)の姿がありました。

古生物学者・山根(志村喬)の提言を受け調査団が派遣され、マーティンも同行します。放射能による汚染が確認され人々の警戒心が募る中、突如鳴り響いた半鐘。尾根の先に顔をもたげた怪獣が彷徨を轟かせ一帯はパニックに。

山根博士は撮影した写真を持ち帰り国会で怪獣の発生を報告、地元の伝承にちなみゴジラと名付けます。国会は自衛隊を派遣しゴジラ攻撃に乗り出していきます。一方山根博士の娘・恵美子(河内桃子)はかつての婚約者・芹沢(平田昭彦)から秘密裏に実験していた研究の話を聞かされます。

自衛隊による攻撃は失敗しゴジラは東京湾から上陸。品川駅を破壊し辺り一帯を焦土と化していきます。

非常警報発令。取材を行っていた建物が倒壊し逃げ遅れたマーティンは大怪我を負います。万策尽きたかと思える中、被害に心を痛めた恵美子は約束を破って芹沢の秘密を明かし首都を救おうするのでした…

仏フィルム・オフィス版は元となったUSプリントの影響もあって原水爆の言及は一切ありません。人間関係もできるかぎり省略されていて恵美子と萩原(宝田明)の恋模様、ゴジラに対する考え方の対立、市井の人々の反応といった要素は見えなくなっています。またUS版で主役だった米国記者マーティンは被災者の一人として扱われていました。

オリジナルの完成度と比べダウンスケール感は否めないものの約50分の短い尺でゴジラそのものインパクトを伝えたい意図は伝わってきます。1950年代にオリジナル版を直輸出しても理解されにくい部分が多かったでしょうし、ワンクッション置いて広く認知してもらう戦略はあながち間違いではなかったと思います。

ちなみに9.5ミリ形式フィルムは1920代半ばから70年代半ばまで約半世紀の歴史があるのですが、欧米圏(英仏米独)で9.5ミリ化された日本の長編映画は後にも先にもこの『ゴジラ』一作だけです。

[参照リンク]
Toho Kingdom [英語] … 東宝作品に関する情報交換掲示板でイタリア語版や仏語版についての情報・画像あり
Schnittberichte [ドイツ語] … 独版と東宝オリジナル版の比較検証
Cinemore: 『ゴジラ』 原点にして異彩を放つ第一作目【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.57】 [日本語] … 海外版への言及がある訳ではないのですが要を得ていて面白かったです。


[タイトル]
Godzilla

[原題]
Godzilla, le monstre de l’Océan Pacifique

[公開年]
1957

[IMDB]
Godzilla

[メーカー]
仏フィルム・オフィス社

[フォーマット] 9.5mm 白黒無声 100m×4巻 ノッチ無