映写機用レンズの肖像 [07]: 独メイヤー・ゲルリッツ社 キノン・スーペリアー I f1.6 40ミリ

Meyer Görlitz Kinon Superior I F1:1.6 40mm for Pathex 200B Projector (Mid 1930s)

レンズ名メーカー名製造国焦点距離F値使用映写機製作時期レンズタイプレンズ構成長さ(鏡胴含む)外径(鏡胴含む)
キノン・スーペリアー Iメイヤー・ゲルリッツ社ドイツ40mm1.6パテックス200B1930年代中盤ペッツバール型3群4枚64.6529.9
前玉タイプ前玉外径前玉厚みスペーサー(間隔環)中玉タイプ中玉外径中玉厚みスペーサー(間隔環)後玉タイプ後玉外径後玉厚み
凸凹ダブレット26.19.115.25メニスカス21.14.21.621.15.0

数々の個性派レンズ(トリオプラン、オレストール、テレメゴール…)で知られている独光学メーカー、メイヤー・ゲルリッツ社が映写機用レンズの主力として製造していたのが「キノン・スーペリアー(Kinon Superior)」です。こちらの個体は焦点距離40ミリ、1930年代半ばの独パテックス社200B映写機に付属していたものです。

この時期の標準だったペッツバール型3群4枚のレンズ構成。前玉がかなりがっしりしていて厚みもあります。

フィルムの映写作例では四隅まで光量が落ちず、中心部分で細やかな質感を再現できていました。ただし画面の中央に比較的近い所から放射状に流れるような動きが見られます。

ミラーレスにマウントして撮影してみました。

キノン・スーペリアーは絞り開放で使用した際に周縁部にグルグルとしたボケが出やすいレンズとして知られています。個性的な写真を狙っている愛好家が探している一本ですが、今回テストした40ミリはそこまで極端な結果は出ませんでした。強い点光源を中央付近に集めるとバブルボケ/グルグルボケがはっきり出てくるのですが、狙い過ぎた感じになるので今回は避けました。

このレンズに関しては後年の焦点距離50ミリが有名で、ミラーレスにマウントした作例が多く紹介されています。昨今の改造レンズブームで入手しにくくなっているものの同レンズを搭載したバウアー社パンタリュクス映写機(Bauer Pantalux)が時折安く中古市場に出てくるので探している方はその辺が狙い目だと思います。

1924 – 9.5mm 『ニーベルンゲン第2部:クリームヒルトの復讐』(フリッツ・ラング監督)1930年代初頭 独パテックス版

フリッツ・ラング関連 [Fritz Lang Related Items] &
9.5ミリ 劇映画 より

« Kriemhilds Rache » (1924, UFA/Decla-Bioscop, dir/Fritz Lang)
Early 1930s German Pathex 9.5mm Print

1930年代初頭に独パテックス社から発売された4巻物のプリント。以前にも何度か紹介(『メトロポリス』『ファウスト』『スピオーネ』)したドイツの無声映画・9.5ミリ映画愛好家、ヴォルフ=ヘルマン・オッテ氏の旧蔵プリントです。

上映時間はオリジナルの約半分の65分程。100メートル×4巻を上映用に200メートルの大型リール×2巻に巻き直しています。傷や汚れ、歪みは少なく大事に扱われていた様子が伝わってきました。

『ニーベルンゲン』には高画質のデジタル修復版(ムルナウ財団2010年版)がありますので通常の観賞はそちらで差し支えないと思います。とはいえオリジナル公開から10年も経たずに発売された9.5ミリ版には修復版と「違う」点も多いため目を通してみる価値は十分にあります。2010年デジタル修復版を収めたDVD・ブルーレイの特典動画『ニーベルンゲンの遺産』(Das Erbe der Nibelungen, 2011)の要点を挙げていくと:

1)撮影現場では2台のカメラが回っていて、同一場面でもアングルや構図の異なるカメラネガが存在している

カメラ2台使いでは左右に並べることが多く同一場面でも角度や構図がわずかに変わります。


2)複数のテイクが残されている

映画撮影ですので一つの場面にOKが出るまで複数回の取り直しが発生します。テイクが変わると役者さんの位置関係、表情、動きも多少変わります。


複数のカメラネガを元にa)ドイツ国内向けネガ、b)海外輸出用ネガ、c)合衆国向けネガの3つの異なった35ミリ上映用ネガが制作された。そしてこの3種類をベースに様々なコピープリントが派生していった

『ニーベルンゲン』上映用ネガは最終的に3種類製作されたそうです。さらにそれぞれのネガを元にトーキー版や小型映画版など無数のヴァリエーションが生み出されていきます。

ムルナウ財団のリストア版はドイツ国内向け上映用ネガをできるかぎり再現したもので、しかも上映用ポジを作るためのネガではなくカメラネガをスキャンすることで高い画質を実現。このアプローチとしては今後これ以上を望めない完成度になっています。

で、手持ちの独パテックス9.5ミリ版。確認して見たところそもそも「ドイツ国内向け上映用ネガ」を基にしていませんでした。

『ニーベルンゲン』9.5ミリ版は英パスコープ社が1931年に市販したプリントが基になっていています。独版は英パスコープ社版の字幕部をドイツ語に翻訳したもので、ネガのルーツを探っていくとUK版=b)の海外用輸出ネガになると思われます。

別に紹介した合衆国のメディアライブラリー旧蔵版16ミリは上のどちらとも違っておりc)合衆国向けネガベースのプリントだと断定して良いと思います。

結末部、ヒロインの死の場面には3つのネガの違いがはっきり出ています。

ドイツ国内向けネガ(左)と国外輸出用ネガ(中央)はトリミング幅が異なるも被写体の位置関係や角度などは同一。ただし手の重なり方を見てみるとドイツ国内向けネガでは右手を上に両手を重ねているのに対し、輸出用ネガでは左手が上になっています。同一カメラの別テイクが使用されているのだと分かります。それに対し米国向けネガ(右)はもう一台のカメラで撮られたネガを使っています

最初から3つのネガを同じように作ろうという計画があったという可能性はとても高い。つまりひとつはドイツ市場のため、もうひとつはウーファの輸出部のため、そしてもうひとつはこのフィルムをアメリカで公開することになっていたパラマウントのためのネガ。当時、いくつかのネガの平行した制作は一般的な慣例だった。[…]

ただ一方で、複数のネガがあるということは、演技、カメラの位置、時間的な長さ、コンティニュイティの点で異同を持つ複数のヴァージョンがあるということを意味している。それはマテリアルを組み合わせようとするときに大きな問題を生み出すことになる。さらに復元者は倫理的な葛藤にも向かい合わなければならない。つまり、いくつものネガを寄せ集めることによって、自分はこれまで存在しなかった形の映画を編集しているのではないか、というジレンマを持つことになるのだ。

ドイツ人研究者M・ケルバー氏の論文「増幅する『メトロポリス』に関するノート」邦訳(訳・矢田聡)からの一節。引用した部分については『ニーベルンゲン』2部作にもそのまま当てはまります。高画質の修復版が完成したと手放しで喜んでいる訳ではなく、特に最後の一文は色々考えさせられるものです。

1928 – 9.5mm 『スピオーネ』(フリッツ・ラング監督) 独パテックス社4リール版

「フリッツ・ラング関連 [Fritz Lang Related Items]」より

Spione (Early 1930s German Pathex 9.5mm Version)

昨年『メトロポリス』『ファウスト』で世話になったドイツのフィルム収集家ヴォルフ・ヘルマンさんと再度ご縁があり、ラング監督のスパイスリラー『スピオーネ』9.5ミリ版全4巻を入手できました。

英パテスコープ社版は現存数が多く市場で何度か見た覚えがあります。こちらは流通数の少ない独パテックス版。『スピオーネ』は複雑に絡みあうサイドストーリーやサブプロットが特徴なのですが、そういった要素はカットされ、悪漢ハギー(ルドルフ・クライン=ロッゲ)と英国諜報員326号(ヴィリー・フリッチ)、その狭間で揺れる女スパイ・ソニア(ゲルダ・マウルス)三者の駆け引きに重点を置いた展開に編集されています。

リール1:ハギーの指令で326号に近づいたソニアが恋に落ち、お守りを渡すまで
リール2:前半はソニアに騙された326号が自暴自棄になる展開。後半は日本外交官マスモト/マツモトの秘密書類をめぐる駆け引き
リール3:ハギーが急行列車で諜報員326号謀殺を図る件
リール4:ハギーがソニアを人質に諜報局を脅迫〜銀行爆破、逮捕劇

キャスティングの魅力、語りのスリリングさ、強いインパクトを残す構図…ラング世界を9.5ミリフィルムの質感で追体験できるのは至福の時間でした。

1930年代中盤 – 9.5mm 『ニーベルンゲン 第一部:ジークフリード』(1924年) & 『メトロポリス』(1926年)独パテックス版予告編

「フリッツ・ラング関連 [Fritz Lang Related Items]」より

« Nibelungen » & « Metropolis »
c1933 German Pathex 9.5mm trailer


1933〜34年頃、独パテックス社がプロモの為に制作した9.5ミリ版の予告編。

ちょうど昨年の今頃、古い映写機をベースに9.5ミリ専用スキャナーの制作を行っていました。この際、解像度を確認していくサンプルに使用していたのこの予告編でした。コマ数がそこまで多くないため扱いやすかったのと、自分自身のモチベーションを上げるのにちょうど良かったのかなと思います。

綺乃九五式はその後レンズ回りを中心に改良を加えています。どのくらい画質が向上したのか確認してみました。

まずは『ニーベルンゲン 第一部:ジークフリートの死』から。左が2019年10月9日にラズパイカメラのV2を使ってスキャンした画像。右が2020年9月5日にラズパイHQカメラで同一フレームをスキャンした画像です。

昨年スキャンを行った際は、光の散らし方が上手くいっておらず画面右に明るい個所がまだら状に発生、文字が滲んでいました。今回のスキャンではその欠点が修正されています。

またHQカメラに切り替えたことで解像度が向上、細やかな濃淡をシャープに撮影することができるようになっています。主人公の腰の辺りを拡大してみました。

汚れや傷もクリアになっているのが分かります。

ニーベルンゲン予告編の最後のショットと、『メトロポリス』予告編の最初の場面。どちらも縦線が強調された構図です。旧スキャンにはわずかながらレンズの「歪み」があります。いわゆる「球面収差」に関わる話で、右のHQカメラの方が縦横の直線を正確に描写できています。

新スキャンの方では肌のグラデーションが自然に再現されています。

映写機で投影した画像と比べれば旧スキャンでも十分にシャープな映像だとはいえます。ラズパイHQカメラは一段階アップグレードされていて目標に一歩近づいた気がします。後はノイズ除去や修復力勝負ですね


1915 – 9.5mm 『思ひ出(アルト・ハイデルベルク)』 (ジョン・エマーソン監督、米)

「9.5ミリ動画 05a 劇映画」より

古い大学町に遊学でやってきた皇太子と旅館の看板娘の恋と別れを描いたメロドラマ。19世紀末に戯曲として出版され人気を博しました。

サイレント映画としては1927年のハリウッド版が有名ですが、その12年前に最初に映画化されたものがこちら。人気絶頂だった美形俳優のウォーレス・リードとギッシュ姉妹の妹ドロシーが主演を務めています。

後年ドロシー・ギッシュは喜劇作品に多く主演するようになり、姉(リリアン・ギッシュ)のように悲劇に出たいとこぼしていました。ただ本作でも表情や動作がやはりコメディ風なんですよね。また、薬物中毒で早世したウォーレス・リードの貴重な主演作でもあります。

[タイトル]
Alt Heidelberg

[原題]
Old Heidelberg

[製作年]
1915年

[IMDB]
tt0005823

[メーカー]
独パテックス社

[フォーマット]
9.5mm

独パテックス社 モトカメラ H型 9.5mm動画カメラ(1930年代)

1930年代半ば~後半に仏パテ社が発売していた廉価モデル。こちらは独パテックス社仕様、上に革製の持ち手がついていて「PATHEX」のロゴが刻印されています。

本体シリアルナンバーは「649 H」。レンズには自国産のLaack Pololyt F=20mm 1:2.8を使用。仏製は現存数が多く中古市場でも供給過多となっておりますが、ドイツ製は数が少ないようです。

[メーカー] 独パテックス社
[本体シリアルナンバー] 649 H
[レンズ] Laack Pololyt F=20mm 1:2.8

独パテックス社 200B 9.5mm映写機

Mid 1930s German Pathex 200B 9,5mm Silent Projector
w/Meyer Görlitz Kinon Superior I F1:1.6 40mm

UKパテスコープ社が1930年代に市販を開始した200B映写機はその完成度の高さから評価が高く国外(フランスやドイツ)にも輸出されていました。こちらは独パテックス社が販売していた一台。英国仕様でダルメイヤー社製だったレンズがドイツ版ではメイヤー・ゲルリッツ社のものになっています。それ以外の基本スペックに変更はありません。

1930年代のパテ社系列製映写機としては最も正統派のデザインで、動作もリュクス映写機より安定していました。やや癖があるのがモーターベルトの扱いで、3本の内リールに直結した2本はクロスさせます。その部分さえ間違えなければまず映写に失敗することはない程使いやすい一台です。日本ではアルマ映写機の元になったことでも知られています。

2013年3月25日ドイツのイーベイで購入。紙資料が幾つか付属していました。まずはドイツ語の取扱い説明書。

後の2枚は戦後になってからのものです。左は1954年に独カールスルーエの写真店で修理を受けつけた際の控え。右はタイプ打ちされ手紙で、修理時にランプ交換までされてしまい費用が上がったことに対するクレームの書簡でした。実際には投函されず手元に残った…のでしょうが、戦後に一回メーカーに戻されメンテナンスも入った流れが浮かび上がってきます。

[メーカー名]
独パテックス社

[製造]
英国(レンズのみドイツ製)

[発売時期]
1933年〜

[シリアル番号]
110561 BC

[対応フィルム長]
100mリール

[対応電圧]
105〜130V

[ランプ]
110V200W

[レンズ]
Meyer Görlitz Kinon Superior I F1:1.6 40mm