1930年代前半 豆ブロマイド

手持ちの豆ブロより1932~34年と思われるものを一部スキャンしました。紙質はあまり良くはなく裁断のずれている個所も目立ちます。名の知れた男女優さんばかりですがそれでも数名特定できていません。活動期間の短かった大都・琴路美津子さんのブロマイドも一枚含まれています。

1929 – 瀧本時代堂の説明本 ~1920年代後半の説明集ブーム私見~

Benshi-narration-oriented Novelizations :
Ito Daisuke’s « Man-Slashing Horse-Piercing Sword » (Zan-jin Zan-ba Ken),
Aku Reinosuke’s « Cold Eyes » (Reigan) etc.

『斬人斬馬剣』(1929年 松竹京都 伊藤大輔)
『冷眼』(1929年 右太プロ 悪麗之助)
『此村大吉』(1929年 阪妻プロ 山口哲平)
『傳奇刀葉林』(1929年 帝キネ 渡辺新太郎)

表紙に独特な雰囲気があります。

いずれも昭和4年(1929年)の公開作品。伊藤監督の重要作の一つ『斬人斬馬剣』、悪麗之助の『冷眼』など剣戟愛好家に興味深いラインナップとなっています。14.3×10.6センチ、15ページ。紙質は荒く、表紙を開くと配役一覧があってすぐに物語が始まります。

危機一髪の眞つ最中へ馳せ付けて來たのが十時來三郎及び賴母等の正義の士であった。
『ヤアヤア臣下の身として、君家を乱し、暴擧を企て、世継の若君に危害を加へんとするなどとは言語道斷のくせ者である』

(『斬人斬馬剣』)

見る見るお千代は遂に九郎次の爲めに取られてしまつた。其日からしての甚十郎の胸中はモンモンとして悶えて居る。殊にお千代が残してある、着物などを見ると其面影が偲ばれて、悲嘆の涙が自らわき出して來る。

(『冷眼』)

4冊いずれも佐藤綠葉(綠葉山人)が文章を担当。同氏は1927年の明文館「説明集」に関わっていたことでも知られています。現物は所有していないため国立映画アーカイブ所蔵分の表紙をコピーさせていただきました。

明文館説明集
『西洋新映画説明集』『欧米特作映画説明集』『新派映畫説明集』
(明文館)国立映画アーカイブ蔵

「説明集」とは弁士の語り(説明)を念頭に置きながら映画をノベリゼーションしたものです。本来は映像を補足する存在だった弁士が次第に重要性を増し始め、時に映画以上に目立つこともあった日本無声映画期に特有の発想です。

無声映画の後期には弁士が一大人気職業となって各地で語りの才を披露していました。1910年代の『ジゴマ』二次小説ブームも同様で、日本では映画の背景や表現技法を理解して味わうより作品をネタとして楽しむ傾向が強く見られます。ツイッター全盛の現在でも本質的には変わっていないもので、日本の文化風土にあったシステムだというのは直感的に分かります。

ところがこの方向性は危険もはらんでいました。弁士の語りが前に出すぎると映像は挿絵の扱いになってしまいます。『斬人斬馬剣』を読んでいても伊藤監督の個性はかき消されていて、当時の剣戟映画界でなぜ本作が際立っていたのかが見えてきません。説明集は、視覚芸術としての映画の本質を説明していないのです。

『弁士の説明を聞くより面白い』
明文館の映画文庫の紹介ページより。仮想敵が弁士だった様子が伝わってきます。
« More exciting than benshi-narration! »

映画を作る側からすると歯痒さの残る状況でもありました。1929年は初のマキノトーキー作品(『戻橋』)が公開された年でもあります。マキノ監督は単に欧米のテクノロジーを追おうとしていた訳ではありません。観衆側の解釈や盛り上がりに依存しすぎる状況に危機感をいだき、弁士システムを終了させ業界をリセットする発想が含まれているのです。

ハリウッドでは1920年代半ば、東欧や南米でも1931~32年にトーキー移行が完了していたにも関わらず、技術力で負けていた訳ではない日本が出遅れたのには理由がありました。多くの国でトーキーへの変化はテクノロジーのアップデートに過ぎなかったのに対し、映画が魔改造されて根付いてしまった日本では変えなくてはならない前提が他にもあったのです。

ガラパゴス的な状況は1935年頃には解消されていましたし、そのおかげで後の邦画黄金時代が実現する運びとなりました。ただ、今更ではありますが、ガラパゴスのまま独自進化を遂げていたとしてもそれはそれで面白い邦画史になっていたのだろうな、と思うのです。

1934 -『處女作・出世作・代表作 映画花形大寫眞帖』 冨士新年號附録

『處女作・出世作・代表作 映画花形大寫眞帖』 表紙January 1934 Fuji Magazine Additional Issue
« Movie Stars : Film Debut and Breakthrough Performance »

1930年代前半に活躍した俳優の名鑑で1~2頁を使ってキャリア節目の作品を紹介していきます。要領を得た記事に「観たい!」が一度ならずありました。リアルタイムの評価も分かる内容で重宝しそうです。

[発行年]
昭和9年1月

[発行者]
大日本雄弁会講談社

[フォーマット]
128頁 26.2cm×18.9cm

[定価]
本誌と共に六十銭

[内容]

表紙:市川春代
口絵:入江たか子/飯塚敏子/伏見信子/夏川靜江

逢初夢子 『蝕める春』『昨日の女今日の女』『戀の勝敗』
青木富夫 『突貫小僧』『奢って頂戴』『二つ燈籠』
阿部正三郎磯野秋雄三井秀男『令嬢と輿太者』『戦争と輿太者』『輿太者と藝者』
嵐寛壽郎 『大忠臣蔵』『右門捕物帖』『磧の霧』『剣鬼三人旅』
淡路千夜子 『銭形平次捕物控』『涙の世渡り』『磧の霧』
飯田蝶子 『おかめ』『戀のままごと』『嵐の中の處女』
飯塚敏子 『淑女と髭』『白鷺往來』『二つ燈籠』『鯉名の銀平』
五十鈴圭子 『寛永豪傑總進軍』『戀慕吹雪』『半次月夜の唄』
市川右太衛門 『鳴門秘帖』『一殺多生剣』『天一坊と伊賀亮』『敵への道』
市川春代 『浅草悲歌』『受難華』『戯れに戀はすまじ』
入江たか子 『けちんぼ長者』『元祿十三年』『白蓮』『瀧の白糸』
歌川絹江 『一粒の麥』『團十郎の安』『敵への道』
江川宇禮雄 『七つの海』『暴風帯』『嬉しい頃』
及川道子 『不壊の白珠』『戀愛第一課』『頬を寄すれば』
大河内傳次郎 『續水戸黄門』『新版大岡政談』『月形半平太』
岡譲二 『上陸第一歩』『応援團長の戀』『いろはにほへど』『東京音頭』
岡田時彦 『紙人形春の囁き』『美人哀愁』『瀧の白糸』
岡田嘉子 『大地は微笑む』『日輪』『忠臣蔵』『泣き濡れた春の女よ』
尾上菊太郎 『踊子行状記』『流轉の雁』『左門戀日記』
大日向傳 『戀の長銃』『椿姫』『出來ごころ』
海江田譲二 『沓掛時次郎』『新藏兄弟』『關の佐太郎』
片岡千恵蔵 『萬華地獄』『源氏小僧』『逃げ行く小傳次』『元禄十三年』
桂珠子 『曙の歌』『ふらんす人形』『霧の夜の舗道』
川崎弘子 『女性の力』『壊けゆく珠』『不如帰』『嬉しい頃』
河津清三郎 『首の座』『益満休之助』『十二階下の少年達』
栗島すみ子 『虞美人草』『水藻の花』『嘆きの孔雀』『真珠夫人』『いろはにほへど』
小杉勇 『この太陽』『生ける人形』『警察官』
琴糸路 『青春散歩』『涙の渡り鳥』『新釋加賀見山』
小林十九二 『俄か馭者』『花嫁の寝言』『想ひ出の唄』
齊藤達雄 『珍客往来』『生れては見たけれど』『夜ごとの夢』
佐久間妙子 『嬢やの散歩街』『もだん聖書』『南地の女』
澤田清 『鬼鹿毛若衆』『龍造寺大助』
澤村國太郎 『影法師』『七人の花嫁』『平十郎小判』
杉山昌三九 『砂漠に陽が落ちて』『港の雨』『白浪れんじ格子』
鈴木澄子 『いろは假名四谷怪談』『旋風時代』『鏡山競艶録』
鈴木傳明 『塵境』『陸の王者』『熊の出る開墾地』『東京祭』
鈴村京子 『無憂華』『仇討二番ケ原』『仇討兄弟鑑』
高田浩吉 『街の勇士』『女性の切札』『鼻唄仁義』
高田稔 『快走戀を賭して』『大學は出たけれど』『アメリカ航路』『感激の人生』
高津慶子 『何が彼女をそうさせたか』『刺青奇偶』『彼女のイツト』
竹内良一 『兄さんの馬鹿』『天國に結ぶ戀』『琵琶歌』
伊達里子 『マダムと女房』『陽気な嬢さん』『三萬兩五十三次』
田中絹代 『戀と捕繩』『海國記』『絹代物語』『花嫁の寝言』
田村道美 『受難華』『彼女の道』『未來花』
千早晶子 『鬼あざみ』『十字路』『泣き濡れた春の女よ』
月田一郎 『街のルンペン』『榮冠涙あり』『結婚快走記』
坪内美子 『涙の渡り鳥』『島の娘』『女人哀樂』
中野英治 『大地は微笑む』『摩天樓』『間寛一』
中野かほる 『丸の内お洒落模様』『愉快な惡漢』『碁盤縞の女』
夏川靜江 『椿姫』『灰燼』『結婚二重奏』『東京祭』
南部章三 『愛の風景』『戀の踊子』『靑春よいずこ』
花井蘭子 『提灯』『新藏兄弟』『靑春よいずこ』
林長二郎 『稚児の剣法』『お嬢吉三』『不如帰』
原駒子 『鳴門秘帖』『嘆きの女間諜』『紅騎隊』
坂東好太郎 『生き残った新撰組』『兄貴』『蝙蝠の安さん』
阪東妻三郎 『鮮血の手形』『雄呂血』『神變麝香猫』『燃える富士』
伏見直江 『坂本龍馬』『一本刀土俵入』『女國定』
伏見信子 『春と娘』『十九の春』『東京音頭』
藤井貢 『白夜は明くる』『戀愛一刀流』『僕の丸髷』
水久保澄子 『蝕める春』『嵐の中の處女』『僕の丸髷』
水原玲子 『女給君代の巻』『モテルの女』『青島から来た女』
森静子 『異人娘と武士』『妻吉物語』『燃える富士』
八雲理惠子 『霧の中の灯』『多情佛心』『昨日の女今日の女』
山縣直代 『光・罪と共に』『ふらんす人形』
山田五十鈴 『孔雀姫』『白夜の饗宴』『月形半平太』
山路ふみ子 『満州娘』『己が罪・環』『港の雨』
羅門光三郎 『薩南大評定』『浪人の群』『紅騎隊』
若水絹子 『黒手組助六』『有憂華』『伊豆の踊子』

広告:冨士自轉車、ヘチマコロン、モダン・シャンプー、セイワ胃腸薬、アイデアル白粉、日淸生命、百万弗髪洗粉、小菅時計商店、報知新聞、ウテナクリーム

昭和7年(1932年) 川島実市氏の絵葉書帳

1932 Postcard Collection
(formerly owned by Jitsuichi Kawashima,
a Saitama-based household goods dealer)

1932年(昭和7年)、埼玉県羽生市の川島実市氏が作成した絵葉書帳。表紙に「日活・松竹 寫眞」の文字が墨書きされ、裏表紙見返しに同氏が経営していた会社の印(« 萬荒物 »)が押されています。

屋号入会社印
屋号入会社印
(埼玉縣羽生町 川島…[一部不明])

絵葉書は30枚ほど。1920年代後半~30年代初頭に人気のあった男女優が集められています。梅村蓉子と松井千枝子が複数枚見られ、綺麗な和服姿が多いのも特徴だと思います。

c1970 – スーパー8 『松竹8mmライブラリー 日本映画史 前編』(Japanese Cinema History Part I, super8)

c1970 Super8 日本映画史 前編

1960年代末~70年代初頭に発売されたと思われる2巻物。前編は19世紀末の映画前史から終戦後の1949年までを扱っています。

現在でも古典として愛されている作品(『愛染かつら』『悲しき口笛』『晩春』)、無声映画の愛好家にはなじみ深い歴史的作品(『紅葉狩』『路上の霊魂』)を中心に、松竹作品を軸として初期映画の流れを追っていきます。

短い抜粋ながら『ジゴマ』が含まれていたり、『後のカチューシャ』や『虞美人草』(戦闘モブシーンにグリフィスの影響あり)を動画で観れたりと貴重な経験でした。

驚いたのは1913年の 『天馬』。ドイツ映画初の活劇スター、ハリー・ピールの初期作。この時期のハリー・ピール作品が残っているという話をドイツ語圏で聞いた覚えがなく、現地の映画愛好家が聞いたら悶絶しそう。

1887年 『疾走中の馬の連続写真』エドワード・マイブリッジ Sallie Gardner at a Gallop [imdb]

1899年 『紅葉狩』 柴田常吉監督 Momijigari [imdb] [jmdb]

1911年 『ジゴマ』ヴィクトラン・ジャッセ監督 Zigomar [imdb]

1912年 『日本南極探検(南極実景)』 Japanese Expedition to Antarctica [imdb] [jmdb]

1913年 『アントニィとクレオパトラ』エンリコ・ガッツォーニ監督 Marcantonio e Cleopatra [imdb]

日本映画史19 - アントニーとクレオパトラ

1913年 『天馬』 ハリー・ピール監督 Tenma/Pegasus (Unidentified Harry Piel Action Short)

1915年 『後のカチューシャ』 細山喜代松監督 Nochi no Katyusha [imdb] [jmdb]

製作年不明 『自雷也』 尾上松之介主演 Jiraiya (Unidentified Version)

1921年 『路上の霊魂』 村田実監督 Souls on the Road [imdb] [jmdb]

1921年 『虞美人草』 小谷ヘンリー監督 Gubijinsô [imdb] [jmdb]

1923年 『船頭小唄』 池田義信監督 Sendô kouta [imdb] [jmdb]

日本映画史29 - 船頭小唄

1923年 『関東大震災』

1931年 『マダムと女房』 五所平之助監督 Madame and Wife [imdb] [jmdb]

1938年 『愛染かつら』 野村浩将監督 The Tree of Love [imdb] [jmdb]

1939年 『暖流』 吉村公三郎監督 Warm Current [imdb] [jmdb]
1943年 『花咲く港』 木下恵介監督 Port of Flowers [imdb] [jmdb]
1945年 『そよかぜ』 佐々木康監督 Soyokaze [imdb] [jmdb]
1949年 『悲しき口笛』家城巳代治監督 Sad Whistling [imdb] [jmdb]
1949年 『晩春』 小津安二郎監督 Late Spring [imdb] [jmdb]

白黒110メートル(約18分)
光学録音
サングラフ/松竹

酒井米子 (1898 – 1958) & 木下千代子 (1903 – 没年不詳)

酒井米子&木下千代子 連名サイン

本人は『もうそろそろ引退時です』といつて居るさうであるが人氣はさうでもないらしい。何といつても現代の映畫女優ではスターである。明治三十三年十一月生れの二十九歳。東京市神田の産で十四歳の時有樂座で處女出演『ヂオゲスの誘惑』『野鴨』等の當り役がある。後暫く休養して大正九年五月日活第三部に加入し、『朝日さす前』『白百合の香』等に出で十年八月退社、十一年八月松竹に入り『海の叫び』其他に出演。矢張り古巣が戀しく同年末日活に復帰し『若草の唄』『旅の女藝人』『現代の女王』『椿姫』に扮装。最近主演は時代物『修羅八荒』『鳴門秘話』又新劇では『狂態の女師匠』『砂繪呪縛』のお酉等の大作がある。

『玉麗佳集』「酒井米子」より(1928年)

左の女優さんも控えめなサインが残されています。こちらは木下千代子さんと判明。『己が罪』など小林商会製作の初期映画に出演していた女形、木下吉之助氏の娘さんに当たるそうです。酒井米子さんとは1929~30年頃の日活で共演記録があり、絵葉書とサインも同時期ではないかと思われます。

[JMDB]
p0164280

[IMDB]
nm0757039

[誕生日]
11月25日

[JMDB]
p0358620

[IMDB]
nm1767877

国島荘一 (國島莊一/國島昇) & 岩崎繁

國島昇-岩崎繁 直筆サイン

1902年、福島に生まれた。1914年、井上正夫の門下に入り、本郷座で初舞台を踏む。1922年、松竹蒲田に入社。当時の芸名は国島昇。池田義信監督の『水藻の花』では、都会の青年役で認められ、野村芳亭監督の新時代劇『雁の群』では高崎の重吉を演じ、清水宏監督の『白菊の歌』で木下千代子と共演。1924年、芸名を国島荘一と改める。

1929年、河合映画に移り、『彼女は何うなるか』で琴糸路と共演。時代劇『浅草丹次』『旗本の下に』に主演後、東亜キネマに入社。『処女戦線』で宮城直枝と、『一度はすべての女に』で岡田静江と共演。1931年、松竹蒲田に戻り、『深夜の溜息』『三太郎満州出征』に出演。五所平之助監督の『天国に結ぶ恋』で色敵役を好演するが、これが遺作となった。

『日本無声映画大全』(マツダ映画社)

東亜のサイン帖でサインで解読できなかったものがあったのですが、一件が國島昇氏と判明しました。松竹蒲田を中心に活動されていた男優さんで、1930年後半からのごく短い期間に東亜にも在席されていました。國島昇は初期芸名で途中から国島荘一名義で活動しています。病気がちで1932年に亡くなったとされており、非常に珍しいサインではないかと思われます。

添えられているのは東亜キネマで撮影監督として働いていた岩崎繁氏。主に時代劇(『竜虎八天狗』『建国黒頭巾』『薩南大評定』)を担当し、東亜が傾くと東活~宝塚キネマに転籍していきました