1976 – 『時代劇映画の詩と真実』(伊藤大輔著/加藤泰編) 自筆サイン入り栞付き マキノ雅弘監督旧蔵品 

‘Poesy’ and ‘Truth’ in Jidai-geki Films (Ito Daisuke [Author], Kinema Junpo-sha, 1976) Dedicated to Makino Masahiro

伊藤大輔監督が新聞や映画雑誌に寄稿したエッセイと、加藤泰氏との対談、フィルモグラフィー、旧作のスチル写真や撮影風景写真を軸にまとめた一冊。

名古曽ノ滝は、今でも遺跡としてわずかに石組みだけが残っている。場所は大沢ノ池の北方の田んぼのはずれで、現在の町名は北嵯峨山王-そこに旧友清水宏君の居宅がある。

清水君との思い出は、ことごとく「食」につながる。彼は無類の美食家で、それがまた、うまい物を見つけると、それを友人にも食べさせないと気がすまない。

「名古曽ノ滝」


龍安寺道停留所の踏切ぎわに「マキノ衣装」の倉庫があり、その二階に、いまだ世に出ぬ阪東妻三郎とそのグループが寝泊まりしていた。

「龍安寺界隈」

前半の3部までは昭和30年代後半~40年代中盤に新聞で連載されていた一連のエッセイをとりまとめています。個人的に面白いと思ったのは京都新聞連載の『京都 – 町と人』。清水宏、小津安二郎、稲垣浩、伊丹万作、田坂具隆、牧野省三、山中貞雄…京都の風景や地名がそのまま映画史の記憶とリンクしている様子が伝わってきます。

先生: 唐沢[弘光]君は、他のキャメラマンと違う独特なところがありましてね。キャメラマンはピントはキャメラのレンズを通して右の眼で合わせ、撮影の際には左の眼でキャメラの左側に付いているファインダーを覗くのが通例でしょう。おそらく百人が百人。ところが、唐沢君は、キャメラの本体へ望遠レンズ(長焦点)を装着し、キャメラの左側に単焦点(ワイド)レンズのアイモキャメラをガム・テイプで装着する(このほうはボタンを押し続けておれば自動的にフィルムが廻る)、右手で望遠レンズ装着のキャメラ本体のクランクを廻しながら、同時に左手でアイモの自動回転を操作したり、ストップしたり……、両眼両手づかいの稀有な特技の技術者で。

第4部には100頁を超える対談を収録。リラックスした雰囲気の中で思い出話を咲かせている感じで撮影現場でのエピソードがあちこちに織り交ぜてあります。唐沢弘光氏が2台のカメラを同時に使用していたエピソードは初耳でした。『斬人斬馬剣』も同氏の撮影ですのでそういった視点から見直してみるのも楽しそう。

先生: 夢が多く、目の前に幻影がチラついているんだ。とくに私の場合はキリスト教への幻影が頭の芯にありますから、甘くて美しくて暗いんですね。その暗さがいつまでも尻尾となって私の仕事の上に残っていますね。

この書籍の出版時、伊藤大輔氏は自筆の署名入りの栞を付したものを友人に謹呈したそうです。こちらはマキノ雅弘氏旧蔵の一冊。同監督に縁のあった人物が保管していたものを譲っていただきました。和紙の短冊を使った栞で、空気に触れていた上部に色褪せが目立つ以外は綺麗な状態です。「マキノ先生は多分パラパラとしか見られておられないと思います」とのお話。戦前邦画を代表する二監督の手を経てきた一冊、と考えると感慨深いものがあります。

[出版年]
1976年

[発行所]
キネマ旬報社

[ページ数]
342

[データ]
カバー付 A5判 初版 定価2500円

[ISBN]
0374-01004-1320

1929 – 『斬人斬馬剣』(松竹、月形龍之介主演、伊藤大輔監督) 瀧本時代堂 説明本

« Zanjin zanbaken » (1929, Shochiku, dir/Ito Daisuke)
Takimoto Jidaido Novelization

伊藤大輔監督の初期傑作の一つ。こちらは公開(1929年9月20日)の5日前に発売された16ページの小説版。

現在国立映画アーカイブが所有している『斬人斬馬剣』復原版は9.5ミリ縮約版をブローアップしたものとなっています。疾走感のある殺陣や追跡劇、構図の美しいモブシーンを重視した編集で作品の核は表現されていますが、前半を多く省略しているため人間関係がややつかみにくいのが難点でした。

此所にまた、殺された長曾根の弟に左源太と云ふのがあつたが兄の性質の良からぬことを知つてゐるので敢て悲しむ様子とてもなかつたが武士道の手前、其のまゝにも捨て置くことが出來ぬので來三郎を討ち取るために來三郎の許へと乗り込んで行つたが、來三郎の人格に惚れ込んで却つて來三郎に共鳴し[…]。(9~10頁)

左源太役の天野刄一(左)

冒頭、無一文の主人公・十時來三郎(月形龍之介)は空腹に耐えかね道になっていた柿を勝手に食べてしまいます。來三郎が農民たちに取り囲まれていたところに通りがかったのが悪代官の腹心の長曾根でした。この長曾根こそが來三郎の父の仇だったのですが事情を知った村人たちは來三郎に同情し、助勢に回り長曾根を叩き殺してしまいます。長曾根の弟・左源太(天野刄一)は兄の仇を討とうと來三郎に勝負を挑むも來三郎の人格、思想に共鳴し仲間となります。

9.5ミリ版では來三郎と左源太が最初から一緒に行動している設定ですが、本編ではそこに至るまでの曲折が描かれていたことになります。

一方で小説版は殺陣や追跡劇、結末部など重要な場面を丸々省略していて作品全体像は伝えていません。予告編的な形で読んでもらうことを想定し「盛り上がる場面は映画館で」の書き方になっています。読み物としては不完全燃焼ながら、デジタル復原版を補完するにはうってつけの内容になっていました。

[JMDb]
斬人斬馬剣

[IMDb]
Zanjin zanbaken

[編集兼発行者]
瀧本昇

[発行所]
瀧本時代堂

[出版年]
1929年

[フォーマット]
14.4 × 10.5 cm、16頁

戦前の映画解説本・説明本・ストーリー集(2020年度総括)

今年は古い解説本を探していた覚えがあって手元に25冊程のミニコレクションができました。サイト内でデータがばらけてしまったので時系列(公開順)に並べてみます。20年代半ばから30年代初頭の盛り上がりも伝わってくるのではないでしょうか。最初に入手した作品が紹介できていないのでその辺は追々。

春江堂大活劇文庫に関しては国立国会図書館、またトーキー文庫については日本大学の芸術学部にまとまったコレクションが所蔵されています。


映畫文庫(湯川明文館)

1925年7月公開『剣の舞』(東亜、市川小文治主演、松屋春翠)
1925年11月 『雄呂血』(阪妻プロ、阪東妻三郎主演、二川文太郎)
1925年12月 『落武者』(松竹蒲田、森肇主演、清水宏)
1925年12月『魔保露詩』(阪妻プロ、阪東妻三郎主演、志波西果)


出版者不明

1925年12月〜26年1月『南蠻寺の怪人』(東亞、高木新平主演、長尾史録)
1926年2月 『傷魂』(東亜、1926年 – 高木新平・生野初子主演、長尾史録)
1926年2月 『孔雀の光 前編』(マキノ、市川右太衛門主演、沼田紅緑)
1926年2月 『尊王』(阪妻プロ 、阪東妻三郎主演、志波西果)
1926年6月 『幕末』(阪妻プロ 、阪東妻三郎主演、宇澤芳幽貴)
1926年6月 『侠血』(阪妻プロ 、阪東妻三郎主演、門田清太郎)


瀧本時代堂

1929年7月 『此村大吉』(阪妻プロ、阪東妻三郎主演、山口哲平)
1929年7月 『月形半平太』(東亞、草間實主演、枝正義郎)
1929年8月 『冷眼』(右太プロ、市川右太衛門主演、悪麗之助)
1929年8月 『傳奇刀葉林』(帝キネ、市川百々之助主演、渡辺新太郎)
1929年8月 『大利根の殺陣』(東亞、嵐寛壽郎主演、後藤岱山)
1929年9月 『斬人斬馬剣』(松竹、月形龍之介主演、伊藤大輔)


トーキー文庫(映画研究会)

1930年10月 『九条武子夫人 無憂華』(東亞、鈴村京子・三原那智子主演、後藤岱山他)


大島印刷株式会社

1931年7月 『海江田譲二の高田の馬場』(日活、海江田譲二主演、辻吉朗)
1931年7月 『野に叫ぶもの』(松竹、 鈴木伝明・高田稔主演、島津保次郎)
1931年11月 『阿波十郎兵衛』 (帝キネ、雲井竜之介主演、寿々喜多呂九平)


大活劇文庫(春江堂)

1918年公開 『曲馬団の秘密』(The Iron Test、ヴァイタグラフ社)篠田緑水訳
1919年公開 『蛸の手』(The Trail of the Octopus、ユニヴァーサル社)麻生重人訳


活動文庫(榎本書店)

1921年公開 『キッド』(The Kid、チャールズ・チャップリン)
1921年公開 『ハリケンハッチ』(Hurricane Hutch、ジョージ・B・サイツ)
1922年公開 『血と砂』(Blood and Sand、フレッド・ニブロ)
1923年公開 『十八日間世界一周』(Around the World in Eighteen Days、リーブス・イーソン&ロバート・F・ヒル)


1929年頃 齣フィルム『時代劇マーク大会(大乱闘劇・大猛闘劇)』5冊254枚

1929年 齣フィルム『時代劇マーク大会(大乱闘劇・大猛闘劇)』
元々35ミリフィルムはコレクション対象から外しておりいわゆる「齣フィルム」も手元にありませんでした。ところが先日まとまった未使用の束が売られており、今回手に入れてみることにしました。

厳密な意味の「齣フィルム」は映写で実使用された35ミリフィルムをぶつ切りにして市販したり駄菓子屋の景品として扱ったりしたものでした。そういった古い「齣フィルム」のコレクションを見ていると、作品名と主役俳優を前に出したポスター風のフィルムが時折混じっています。あれは何だろうと常々思っていたのですが、どうやら当時(少なくとも業者から)「マーク」と呼ばれていた物に当たるようです。

1929年 『時代劇マーク大会』包み紙1929年 『時代劇マーク大会』フィルム
こちらは無声映画の有名時代劇の「マーク」が当たる駄菓子屋の引き物です。全く手つかずの状態で50枚を一束にした同じロットが5つありました。一つ一つが雑誌の紙を折って糊付けした袋に入っており、なおかつチラシも兼ねた小さな紙片にくるまれて中が見えないようになっています。後に触れる理由から1929年に制作されたものと推測され、1927~28年頃に公開された時代劇が中心となっています。

扱っている作品は河部五郎、大河内伝次郎、阪東妻三郎、林長二郎、市川百々乃助の5人の俳優の主演作のみ。

全ての袋を空けて(後で全部戻しました)統計を取った所、興味深い分析結果がでてきました。

1)各束に1つずつ、フィルムが2枚入った「当たり」がある(そのため合計枚数が250枚より多い)
2)俳優にもレア度があって、河部五郎が一番レア度が低く、市川百々乃助と林長二郎のレア度が高い
3)各俳優ごとの出演作でも出現率に濃淡があり、繰り返し出てくる作品と滅多に出てこない作品がある
4)タイトルやデザインに厨二病的な雰囲気があるものはレア度が高い

河部五郎主演『鬼傑の叫び』
河部五郎主演『鬼傑の叫び』
大河内伝次郎主演『血煙り高田馬場』
大河内伝次郎主演『血煙り高田馬場』
阪東妻三郎主演『血染めの十字架』
阪東妻三郎主演『血染めの十字架』
阪東妻三郎主演『阪本龍馬』
阪東妻三郎主演『阪本龍馬』
市川百々乃助主演『怪兇刄』
市川百々乃助主演『怪兇刄』
林長二郎主演『乱軍』
林長二郎主演『乱軍』
林長二郎主演『かゞり火』
林長二郎主演『かゞり火』

『鬼傑の叫び』はこのデザインで2枚含まれていて(出現率0.8%)、残りの5種は1枚ずつしか出てきませんでした。出現率0.4%はなかなかシビアな数字で幼い子供の射幸心を煽りたてています。

フィルムを個包装していた小袋は1929年『婦女界』2月号を再利用しています。コスト面からわざわざ雑誌を買ったとは考えにくく、手元にあった雑誌を流用したと思われます。当時の女性が行っていた内職の一つだったのではないでしょうか。

フィルム全てのスキャン画像と分析データは後日別記事で掲載する予定です。

1928年『日本映画年鑑 第四年版』(昭和二年・三年版、朝日新聞社)

Japan Movie Annual vol.4 (1928, Asahi-shinbun-sha)
Japan Movie Annual vol.4 (1928, Asahi-shinbun-sha)

1928-japan-movie-annual-01-umi-no-yusha
『海の勇者』より。松井千枝子と鈴木伝明

1927年(昭和2年)の内外映画界を振り返った一冊。ハリウッド作品では『第七天国』『サンライズ』『あれ』『三悪人』『ビッグ・パレード』『ボー・ジェスト』などが公開され、独ウーファ社『メトロポリス』や『ヴァリエテ』が紹介されるなど、現在まで無声映画傑作として知られている作品が軒並み名を連ねています。

邦画では帝キネ(『競艶美男』)や東亞(『王政復古』)、マキノや阪妻が気を吐き日活(『尊王攘夷』『慈悲心鳥』『忠次旅日記』)と松竹(『白虎隊』)二強体制に待ったをかけています。一方では諸口十九と筑波雪子の獨立、岡田嘉子と竹内良一の駆け落ち騒動など業界全体がやや浮ついていた印象もあり。

監督特集も充実。二川文太郎、伊藤大輔、鈴木重吉、山下秀一、廣瀬五郎氏などが次世代日本映画を支えていく存在として期待されています。

その他特筆すべき特集として、ハリウッドやドイツで活躍する日系俳優の紹介、男女優(百々乃助、伏見直江)のメーキャップ特集、映画ポスター秀作紹介が目を引きました。

時代の趨勢がまさにトーキーに移りつつある中、サイレント映画が質実共に完成されつつある様子が伝わってきます。

[出版者]
東京朝日新聞發行所

[発行]
昭和3年(1928年)3月

[定価]
一圓五十銭

[フォーマット]
B5版ハードカバー、 25.7×18.5cm、152頁

1930年『日本映画年鑑 第五年版』(昭和四年・五年版、朝日新聞社)

日本映画年鑑 第五年版 表紙
1930 – The Japan Movie Annual 1929-1930
(Asahi Shimbun Publishing Co.)

巻頭はしがきに「内容の充實と調査の徹底を期するため、本年度から隔年に編纂する」の一文が見られますが実際に次号は発売されず最終号となりました。

国内作品の代表作として『浪人街』(マキノ雅弘)『斬人斬馬剣』(伊藤大輔)、『都會交響樂』(溝口健二)、『からくり蝶』(後藤岱山)、『灰燼』(村田實)、『生ける人形』(内田吐夢)や『會社員生活』(小津安二郎)、海外作品で『サンライズ』『裁かるるジャンヌ』が紹介されているように、無声映画の総決算と呼べる重要作が並んでいます。一方でトーキー技術の説明にも紙数が割かれ、映画界全体が新しい局面に移っていく様子も伝わってきます。

『浪人街』の大林梅子と谷崎十郎
『浪人街』の大林梅子と谷崎十郎 (Obayashi Umeko and Tanizaki Juro in Ronin-gai)
『斬人斬馬剣』の月形龍之介
『斬人斬馬剣』の月形龍之介 (Tsukigata Ryunosuke in Zanjin Zanba Ken)

中ほどでは注目すべき国内外監督が特集され、邦画界から小津安二郎、清水宏、内田吐夢などが登場、海外ではアーヴィング・カミングスやディミトリ・キルサノフ、パウル・フェヨス、カール・マイなどが紹介されています。

俳優の紹介欄では浜口富士子、大林梅子、若水絹子、高田稔、琴糸路、澤村國太郎が大きく取り扱われ、国外組はアニタ・ページ、ナンシー・キャロル、ブリギッテ・ヘルム、リチャード・アーレン、ベッシー・ラブ等が紙面を飾っています。


一方訃報欄では小山内薫、マキノ省三、松井千枝子、ラリー・シモンらが取り扱われていました。ひとつの時代が終わっていく感じがします。

広告に興味深いデザインが多く見られ、見返しには国外俳優のデフォルメされたイラストがまとめられています。線の華奢な大正期の画風から脱却した昭和初期の新たな息吹が伝わってくるようです。

中村 英雄 (1919 – 1943)

日本・男優 [Japanese actors]より

中村英雄 サイン入り絵葉書
Nakamura Hideo Autographed Postcard

一口に言えば非常に芝居のうまい子役、子供らしいカンのよさ、演出者はむろん撮影所全体の人からもほめられ可愛がられた子でした。殊に尾上松之助さんから英坊英坊と可愛がられて、いつも仕事のあとはごほうびをもらっていたものでした。芝居の上手い子役、それもそのはず、お父さんが舞台出の俳優で中村あぐりといい、映画界入りから吉次と改名して日活代将軍時代渋い芸風でフケ役にすばらしいものを持っていた人でした。[…]

その英雄君も転戦に次ぐ転戦でとうとう異国の空で病気になり、シンガポールの病院でついに戦病死という惨めさ。報せが届いたのはそれから一年ほどたってです。[…]この英雄君が現在生きていたら相当に活躍される俳優になっていると確信するだけに彼の戦死は惜しまれてなりません。

「名子役 中村英雄」(『髪と女優』 伊奈もと著 1961年収録)

Nakamura Hideo in Chuji Tabi NIkki
『忠次旅日記』(1927年 伊藤大輔監督)の中村英雄

[JMDB]
p0273610

[IMDB]
nm1281999

[出身]
日本(東京)

[サイズ]
13.5 × 8.2 cm

1929 – 瀧本時代堂の説明本 ~1920年代後半の説明集ブーム私見~

「阪東妻三郎関連」より

Benshi-narration-oriented Novelizations :
Ito Daisuke’s « Man-Slashing Horse-Piercing Sword » (Zan-jin Zan-ba Ken),
Aku Reinosuke’s « Cold Eyes » (Reigan) etc.

『斬人斬馬剣』(1929年 松竹京都 伊藤大輔)
『冷眼』(1929年 右太プロ 悪麗之助)
『此村大吉』(1929年 阪妻プロ 山口哲平)
『傳奇刀葉林』(1929年 帝キネ 渡辺新太郎)

表紙に独特な雰囲気があります。

いずれも昭和4年(1929年)の公開作品。伊藤監督の重要作の一つ『斬人斬馬剣』、悪麗之助の『冷眼』など剣戟愛好家に興味深いラインナップとなっています。14.3×10.6センチ、15ページ。紙質は荒く、表紙を開くと配役一覧があってすぐに物語が始まります。

危機一髪の眞つ最中へ馳せ付けて來たのが十時來三郎及び賴母等の正義の士であった。
『ヤアヤア臣下の身として、君家を乱し、暴擧を企て、世継の若君に危害を加へんとするなどとは言語道斷のくせ者である』

(『斬人斬馬剣』)

見る見るお千代は遂に九郎次の爲めに取られてしまつた。其日からしての甚十郎の胸中はモンモンとして悶えて居る。殊にお千代が残してある、着物などを見ると其面影が偲ばれて、悲嘆の涙が自らわき出して來る。

(『冷眼』)

4冊いずれも佐藤綠葉(綠葉山人)が文章を担当。同氏は1927年の明文館「説明集」に関わっていたことでも知られています。現物は所有していないため国立映画アーカイブ所蔵分の表紙をコピーさせていただきました。

明文館説明集
『西洋新映画説明集』『欧米特作映画説明集』『新派映畫説明集』
(明文館)国立映画アーカイブ蔵

「説明集」とは弁士の語り(説明)を念頭に置きながら映画をノベリゼーションしたものです。本来は映像を補足する存在だった弁士が次第に重要性を増し始め、時に映画以上に目立つこともあった日本無声映画期に特有の発想です。

無声映画の後期には弁士が一大人気職業となって各地で語りの才を披露していました。1910年代の『ジゴマ』二次小説ブームも同様で、日本では映画の背景や表現技法を理解して味わうより作品をネタとして楽しむ傾向が強く見られます。ツイッター全盛の現在でも本質的には変わっていないもので、日本の文化風土にあったシステムだというのは直感的に分かります。

ところがこの方向性は危険もはらんでいました。弁士の語りが前に出すぎると映像は挿絵の扱いになってしまいます。『斬人斬馬剣』を読んでいても伊藤監督の個性はかき消されていて、当時の剣戟映画界でなぜ本作が際立っていたのかが見えてきません。説明集は、視覚芸術としての映画の本質を説明していないのです。

『弁士の説明を聞くより面白い』
明文館の映画文庫の紹介ページより。仮想敵が弁士だった様子が伝わってきます。

« More exciting than benshi-narration! »

映画を作る側からすると歯痒さの残る状況でもありました。1929年は初のマキノトーキー作品(『戻橋』)が公開された年でもあります。マキノ監督は単に欧米のテクノロジーを追おうとしていた訳ではありません。観衆側の解釈や盛り上がりに依存しすぎる状況に危機感をいだき、弁士システムを終了させ業界をリセットする発想が含まれているのです。

ハリウッドでは1920年代半ば、東欧や南米でも1931~32年にトーキー移行が完了していたにも関わらず、技術力で負けていた訳ではない日本が出遅れたのには理由がありました。多くの国でトーキーへの変化はテクノロジーのアップデートに過ぎなかったのに対し、映画が魔改造されて根付いてしまった日本では変えなくてはならない前提が他にもあったのです。

ガラパゴス的な状況は1935年頃には解消されていましたし、そのおかげで後の邦画黄金時代が実現する運びとなりました。ただ、今更ではありますが、ガラパゴスのまま独自進化を遂げていたとしてもそれはそれで面白い邦画史になっていたのだろうな、と思うのです。

大河内 傳次郎 (1898 – 1962)

日本・男優 [Japanese actors]より

Okochi Denjiro Autographed Postcard
Okochi Denjiro Autographed Postcard

 本名大邊男。明治三十一年福岡で生れる。大阪商業學校の出身。澤田正二郎その一黨の第二新國劇に室町二郎の藝名で舞臺に立ち後、マキノに入つて『彌陀源京殺陣』に初女出演、同月高松映畫で『義憤の血煙』に主演する、大正十五年八月日活時代劇に入社し第一囘伊藤監督指揮の『長恨』に主演し後『大前田英五郎』に出演し好評を博し更に『尊王攘夷』中彼の扮装の『井伊大老』は素晴らし出来榮えで、いやが上にも人氣を高めた昭和二年の製作品に彼と櫻木梅子主演の『剣と戀』がある。昭和三年初頭雑誌映畫時代発表の人氣投票で二千五百餘票を以て第四位を獲ち得たところを見ても彼れの人氣が窺はれやう。

『玉麗佳集』(1928年)

『日本無声映画大全』 (DVD-R、2000年、マツダ映画社監修)

国内最大の無声映画アーカイヴ、マツダ映画社が監修したデジタルデータベース。英語にも対応していて国外を含めた研究施設での使用を前提にしたような感じ。

1)活動大写真館
2)作品データ館
3)無声映画資料館

の3部構成となっており、1)では2分ほどの抜粋動画、2)では作品詳細データ、3)では人物詳細データを閲覧できるようになっています。

インストールしようとしたところOSが対応していない(XPまでしか動かない模様)と発覚、古いPCを借りてきて内容を確認しました。

個人所有している方は少ないと思われますので、この機会に収録動画のリストをアップしておきます(タイトルの表記に揺れがありますが修正はせずそのまま転載)。

1) 剣聖荒木又右衛門 [極東 1935 仁科熊彦]
2) 伊豆の踊子 [松竹蒲田 1933 五所平之助]
3) 韋駄天数右衛門 [宝塚キネマ 1933 後藤岱山]
4) 一寸法師 ちび助物語 [旭物産 1935 瀬尾光世]
5) 海の水はなぜからい [横浜シネマ 1935]
6) 右門捕物帖六番手柄 [東亜 1930 仁科熊彦]
7) 御誂次郎吉格子 [日活太秦 1931 伊藤大輔]
8) 新編 己が罪作兵衛 [松竹蒲田 1930 佐々木恒次郎]
9) 折り鶴お千 [第一映画 1935 溝口健二]
10) 雄呂血 [阪妻プロ 1925 二川文太郎]
11) 木村長門守 [帝キネ 1928 石山稔]
12) 虚栄は地獄 [朝日キネマ 1925 内田吐夢]
13) 沓掛時次郎 [日活太秦 1929 辻吉郎]
14) 鞍馬天狗・第一篇 [嵐寛プロ 1928 山口哲平]
15) 国士無双 [千恵プロ 1932 伊丹万作]
16) 子宝騒動 [松竹蒲田 1935 斎藤寅次郎]
17) 坂本龍馬 [阪妻プロ 1927 枝正義郎]
18) 砂絵呪縛・第二篇 [マキノ御室 1927 金森万象]
19) 争闘阿修羅街 [大都 1938 八代毅/ハヤフサヒデト]
20) 続水戸黄門 [日活太秦 1928 池田富保]
21) 大学は出たけれど [松竹蒲田 1929 小津安二郎]
22) 磯の源太 抱寝の長脇差 [嵐寛プロ 1932 山中貞雄]
23) 瀧の白糸 [入江プロ 1933 溝口健二]
24) 段七千断れ雲 [大都 1938 中島宝三]
25) 忠次旅日記 [日活太秦 1927 伊藤大輔]
26) 忠臣蔵 [マキノ 1928 マキノ省三]
27) 月形半平太 [聯合 1925 衣笠貞之助]
28) 出来心 [松竹蒲田 1933 小津安二郎]
29) 東京行進曲 [日活太秦 1929 溝口健二]
30) 東京の合唱 [松竹蒲田 1931 小津安二郎]
31) 中山七里 [マキノ御室 1930 並木鏡太郎]
32) 野狐三次 [松竹下加茂 1930 小石栄一]
33) のらくろ二等兵 [横浜シネマ 1933 村田安司]
34) 旗本退屈男 [右太プロ 1930 古海卓二]
35) 二人静 [日活向島 1922 大洞元吾]
36) 弁天小僧 [衣笠 1928 衣笠貞之助]
37) ほととぎす [松竹蒲田 1932 池田義臣]
38) 刺青判官 [松竹下賀茂 1933 冬島泰三]
39) 番場の忠太郎 瞼の母 [千恵プロ 1931 稲垣浩]
40) 毬の行方 [サワタ 1930 沢田順介]
41) 三日月次郎吉 [東亜 1930 後藤岱山]
42) 森の鍛冶屋 [松竹蒲田 1929 清水宏]
43) 弥次喜多・岡崎の猫退治 [大都 1937 吉村操/大山デブ子]
44) 弥次喜多・尊王の巻 [日活太奏 1927 池田富保]
45) 浪人街・第二話 [マキノ 1929 マキノ正博]

2017年4月30日 伊藤大輔・熱眼熱手 [京都・蓮華寺]

仁和寺の東に位置する蓮華寺。木戸を抜けて墓地に入っていくと南側の一角に大正期から活躍した映画監督、伊藤大輔氏(1898 – 1981)のお墓があります。

五輪塔の墓碑は上から「空」「風」「火」「地」「水」の五大元素を表し、それぞれに「キャ」「カ」「ラ」「バ」「ア」の梵語が刻まれています。向かって手前右側に「伊藤家墓所」、左には「熱眼熱手」の碑が配されていました。

伊藤監督は1920年代以降、時代劇の新たな見せ方を次々と編み出していった人物です。銘である「熱眼熱手」も良いですね。「眼」はカメラの眼であり、「手」は刀を握る手であったのでしょう。

歌川 八重子 (1903 – 1943)

日本・女優 [Japanese actresses]より

歌川八重子 サイン入り絵葉書02
Utagawa Yaeko Autographed Postcard

Utagawa Yaeko Autographed Postcards

本名、深川政江。明治三十六年神戸市に生る。神戸市立商業學校を卒業。大正七年生地で初舞臺を踏み續いて大正十一年、松竹キネマに入り、翌年、帝キネに轉じ、以来主演映畫百數十本。主な近作は「三人の母」「赤い白鳥」「與へられた武器」身長四尺九寸。體重壱四貫4百目。趣味は舞踏、繪畫。

『芝居と映画 名流花形大寫眞帖』
(1931年1月、冨士新年號附録)

媚を湛へた眼、生貝のやうに濡れた唇 – 彼女自身は悲劇の主人公を嵌り役としているが、この妖味ある痩せた風貌は、妖婦型娼婦型の、ねばツこい役柄に適してゐるらしい。大正十一年『野に咲く花』に出演して以来、映畫界に於ける彼女の名もかなり舊い。含めば甘く苦い青葡萄の實を想像せしむる彼女 – どうしても彼女は日本のルルだ。藝風は老練と云ふに盡きる。令嬢もやれば奥様もやる。藝者、ダンサー、時として巧みな老け役さへ軽くこなす。(新興キネマ)

『東西映畫 人氣花形寫眞大鑑』
(1933年1月、『冨士』昭和8年新年號附録)


[JMDb]
歌川八重子

[IMDb]
Yaeko Utagawa

[出身地]
日本(兵庫・神戸)

[誕生日]
8月22日

1928 – Super8 『血煙り高田の馬場』(大河内伝次郎主演、伊藤大輔監督)

「8ミリ 劇映画」より

大河内伝次郎主演、1928年公開『血煙り高田の馬場』の8ミリ抜粋版。

「喧嘩安」の異名を取る浪人・中山安兵衛が村上一派と叔父との果し合いの話を聞き、高田馬場へと駆けつけ、すでにこと切れていた叔父の仇を討つため派手な立ち回りを繰り広げていきます。

小刻みな場面切り替えでリズムを作っていく伊藤大輔監督の才能の片鱗がうかがえる抜粋となります

 
[原題]
血煙高田の馬場

[公開]
1928年

[JMDb]
bd001280

[メーカー]
サングラフ

[フォーマット]
super8