1928 – 9.5mm 『城下町の決闘』(ジャン・ルノワール監督)

「9.5ミリ 劇映画」より

1928 -『城下町の決闘』00
画家オーギュスト・ルノワールの長男、ジャンはフランス映画史上最も重要な監督の一人として知られています。しかしその初期作『城下町の決闘』(1928年)は長らく幻の作品とされてきました。35ミリ、16ミリのオリジナルネガが見つかっておらず完全版が残っていないのです。30年代末に英パテスコープ社が編集した9.5ミリ短縮版が唯一の現存版とされています。

時は16世紀、 カトリーヌ・ド・メディシス(ブランシュ・ベルニ)が権力を握っていたフランスで、剣術の達人である大公フランソワ・ド・ベイン(アルド・ナディ)が宮廷の美女イザベル(ジャッキー・モニエ)に懸想し、カトリーヌの許可を受けイザベルを己の妻にしようとします。イザベルの兄が異議を唱えるのですが、フランソワは決闘の末彼を殺し邪魔者を片付けるのでした。イザベルと相思相愛の仲だったアンリ・ド・ロジエは結納の場に乗りこみイザベルの強奪を試みるも失敗、事件の経緯はカトリーヌ・ド・メディシスの耳に入り、フランソワとアンリの馬上槍試合で決着をつけることになります…

『城下町の決闘』は監督自身の発案で製作されたものではなく映画会社から委託された仕事でした。そのためルノワール監督の本領が発揮されていない、のネガティヴな評価を受けやすい一作です。

軽めの恋愛や派手な剣術を前面に出して大衆受けを狙う辺り確かにルノワールらしくない内容と言えます。とはいえ、よく見てみるとメディシス役のブランシュ・ベルニやフランソワの母親役のシュザンヌ・デプレのベテラン勢も存在感を放っています。『城下町の決闘』は若手(ナディ、モニエ)を中心に繰り広げられるロマンスやアクションを前面に出しつつ、他方でドロドロした政治・宗教の側面(ベルニ)や悩める母の物語(デプレ)を読みこんでいける重層構造になっているのです。正直、真の主演はベルニ、デプレだと言って良いくらいです。

ルノワールは決して大衆芸術としての映画を低く見ていた訳ではありませんし、エンタメ路線と監督のこだわりをきっちり両立させた点で『城下町の決闘』は優れていると言えます。またそう考えるとルノワール監督作で9.5ミリソフト化されたのが本作だけなのもしっくりきますよね。

二年前にこのフィルムを映写機で観た時、右側に白い点々のノイズが入っているのは気がついていました。今回スキャンしてみて予想以上に深い傷があちこちにあると判明。傷そのものよりも、映写機では気づけなかった自分に軽い衝撃を受けています。

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[タイトル]
The Tournament

[原題]
Le Tournoi dans la cité

[製作年]
1928年

[IMDB]
tt0019486

[メーカー]
英パテスコープ社

[フォーマット]
9.5mm

1929 – VHS 『ジャンヌ・ダルクの驚異の一生』 (マルコ・ド・ガスティーヌ、白黒リストア版)

「『ジャンヌ・ダルクの驚異の一生』[La Merveilleuse vie de Jeanne D’Arc, 1929]」より

2011~12年頃に入手した仏VHS版。

主演のシモーヌ・ジュヌヴォワは1930年代半ばには結婚して女優業を退いていましたが、戦後、晩年の1980年代になって夫であり元映画プロデューサーのコンティ氏と共に本作の修復プロジェクトを始動させました。実際に作業の中心となったのはルネ・リヒティグ女史で1985年には琥珀色に染色された125分のリストア版が完成。この修復版を白黒で収録したのがVHS版となります。

1990年代半ばのVHSからDVDに切り替わった時期に発売されたため自国フランスでもほとんど流通せず、中古市場でも見かけることが少ない一作。1929年の初公開時にはドライヤー版のインパクトとトーキーの到来にかすんでしまった上、VHSの発売ではDVDにかき消されてしまう辺りが「フランス無声映画史上最も不運な映画」の面目躍如でしょうか。

元々2010年頃、本作をデジタル化した動画が(ユーチューブではない、そして今ではもう存在していない)動画サイトに投稿されていました。そこで初めて見て完成度の高さに驚きVHSを探し始めました。海外発送不可のセラーさんの手元にあるのを見つけ、輸入代行業者に委託して送ってもらいます。VHSの規格が日仏では異なっており手持ちのデッキでは再生できずさらに別な業者に依頼してデジタル化してもらった覚えがあります。

[原題]
La Merveilleuse Vie de Jeanne D’Arc

[公開年]
1929年

[IMDB]
tt0020165

[メーカー]
仏ルネ・シャトー社

[発売年]
1995年頃

[フォーマット]
VHS

c1930 – 9.5mm 『雪掻車の活躍』(伴野商店/鉄道省)

「9.5ミリ 伴野商店」より

映画と列車は浅からぬ縁があります。リュミエール兄弟の『ラ・シオタ駅への列車の到着』(1895年)を皮切りとし、ハリウッドでも『大列車強盗』(1903)や »鉄道活劇 »『 ヘレンの冒険』(1915-17)、キートンの『大列車追跡』(1926)など枚挙に暇がありません。

日本でも戦後8ミリの時代には多くの蒸気機関車がフィルムに収められて市販されていました。そういった傾向のルーツの一つとして、戦前の鉄道省が監修・製作した本作品を含めても良いのではないかと思います。

雪国の厳しい自然を背景にロータリー車やラッセル車、広巾雪掻車の実動している様子そして働く人々が映し出されていきます。


[原題]
雪掻車の活躍

[メーカー]
伴野商店

[カタログ番号]

[仏パテ社版カタログ番号]

[フォーマット]
9.5mm、無声、ノッチ有、20メートル

1919 – 9.5mm 『百萬長者の娘ッ子』(ジョージ・アーチェインバウド監督、米)

「9.5ミリ動画 05a 劇映画」より

1919 - A Damsel in Distress 00

マルジヨリイは氣まぐれな不思議な而して可愛いゝはすつぱな小娘でありました。それでこの娘の理想する男は今様の火の神様で鍛冶屋場の烈しい爐の上にある晩彼女に現はれたのであります。所が或る日、兄の監視を逃れるため、彼女は自動車の中へ輕率にも飛び込みました。と、其處には彼女を喜んだ顔つきで眺めてゐる一人の若い男が居りました。。

『パテーベビーフヰルム 解説書 No. 1』
(大橋善次郎編集・出版、1926年)

1910年代の雑誌で時々姿を見かける女優さんにジューン・キャプリスがいます。彼女が仏パテ社と契約を結んで主演した作品が『百萬長者の娘ッ子(ダムゼル・イン・ディストレス)』でした。

お金持ちのお嬢様が偶然出会った美青年と繰り広げる軽めの恋愛劇は(当時パテ社のスタジオがあった)ニューヨークでのロケ撮影。乗用車、タクシー、街並み、ファッションや髪型など時代の雰囲気を満喫できる作品となっています。

[タイトル]
Mam’zelle Milliard

[原題]
A Damsel in Distress

[製作年]
1919年

[IMDB]
tt0010042

[メーカー]
仏パテ社

[仏パテ社カタログ番号]
739

[字幕]
仏語

[フォーマット]
9.5mm 10メートル×6本 仏語字幕 12476フレーム(約15分)

1923 – 9.5mm 『シンデレラ』(ルドウィッヒ・ベルガー監督)

「9.5ミリ 劇映画」より

1923 - Cinderella (UK Pathescope SB809)
ドイツ映画が存在感を増し始めた1920年代初頭に制作されたUFA社版のシンデレラ。プロデューサーはエリッヒ・ポマー。後に『ワルツの夢』(1925年)や『ワルツ合戦』など軽快な宮廷コメディを残すルドウィッヒ・ベルガー監督の手によるものです。

ヒロインに北欧出身の新進女優ヘルガ・トーマス、王子役に美男俳優パウル・ハルトマン、意地悪な義姉にロシア生まれのオルガ・チェーホワ等を配し、良く知られた物語に多少のアレンジを加えながら軽やかに展開していきます。

母国ドイツでも完全版は現存しておらずドイツ映画博物館には16ミリと9.5ミリの短縮版のみ保存、VHSやDVDなどソフト化もされてこないままでした。とても良い作品であるだけに途中一か所、人種差別的な描写が含まれているのが惜しまれます。

[タイトル]
Cinderella

[原題]
Der verlorene Schuh

[製作年]
1923年

[IMDB]
tt0014577

[メーカー]
英パテスコープ社

[カタログ番号]
809

[フォーマット]
9.5mm 300ft*2(無声、ノッチ無)

1913 – スタンダード8 パール・ホワイト主演 『紙人形(ペーパー・ドール)』

「パール・ホワイト関連 [Pearl White Related Items]」
& 「8ミリ 劇映画」より

1913 Pearl White in Paper Doll
Pearl White in The Paper Doll (1913) Standard 8 Blackhawk Print

『ポーリンの危難』公開の前年、1913年のパール・ホワイトはクリスタル映画社と契約を結んでいて、この年だけでも百作を超える短編に出演する人気を見せていました。

観衆から暖かく受け入れられているのは劇場に顔を出す度に響き渡る万雷の歓声からも伺える。ホワイト嬢を「我らがパール」と呼ぶのが多くの者の習わしとなっていた。

ヴィックスバーグ・イヴニング・ポスト紙
1913年5月10日付

The warm place she holds in the estimation of the public is forcibly illustrated in the applauses accorded to her personnal appearance in any theater. « Our Pearl » has become the popular characterization of Miss White.

Vicksburg Evening Post
May 10, 1913

クリスタル社作品で現存が確認されており、8ミリで市販されていた一本が『紙人形』でした。不幸な偶然の重なりで恋人に殺人の嫌疑をかけられてしまった女性主人公アリス(パール・ホワイト)が間一髪でその疑いを晴らす内容です。

冒頭はグラスハウスでの撮影で、登場人物が一通り紹介されると屋外撮影に切り替わりピクニックとなります。思惑のすれ違いから彼氏のクレメンツ(チェスター・バーネット)とアリスに想いを寄せるレイナー(ジョゼフ・ベルモント)との諍いが生じ、カップルは喧嘩別れしてしまいます。

その後レイナーは拳銃の暴発事故で亡くなってしまうのですが、直前にクレメンツがレイナー宅を訪れていた様子が目撃されていました。動機もあり、状況証拠も揃っていることからクレメンツが殺人犯として逮捕されてしまうのです。事件を知ったヒロインが悲しみに暮れていると幼い妹がやってきます。さて二人が如何にして無罪を証明していくか…が見どころとなっています。

物語のメリハリや伏線が上手く機能しており、1911~13年頃の脚本術や演出術の高い水準を伺わせる好編となっています。

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1910年代前半の映画流儀にならい、『紙人形』の大半は膝上ショット(ミディアム・フル・ショット)で撮影されています。手紙等を見せる場面では手元の接写が使われたりするのですが、本作では拳銃に寄った場面が含まれていました。単調な流れに視覚的アクセントが生まれてくる訳で、こういった経験が蓄積されていく中で数年後に表情や事物のクローズアップ法とそのヴァリエーションが確立されていくことになります。

[タイトル]
The Paper Doll

[製作年]
1913年

[IMDB]
tt0003252

[メーカー]
米ブラックホーク社

[メーカー記号]
810-424

[フォーマット]
Standard 8mm 400フィート

1930 – スーパー8 市川右太衛門主演 『旗本退屈男』 (古海卓二監督)

「8ミリ 劇映画」より


右太衛門終生の当たり役『旗本退屈男』の第一回作品。

完全版は現存していないとされ、マツダ映画社が前半15分程のプリントを所有。8ミリサイレント版はこのマツダ映画社ライブラリー版を元にしています。タイトル、クレジット、エンドロールは後年にカラーフィルムで撮影されたものです。

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物語は佐々木味津三『続旗本退屈男』を元にしたもので、右太衛門演じる主水之介が江戸で頻発している婦女子拉致事件を解決していきます。妹の菊路を小夜文子さん、その恋人である美男小姓の京弥を初代・大江美智子さんが演じていました。

冒頭の説明に「共演の大江美智子は宝塚からの映画界入り第一号で、彼女の霧島京弥役は後に同役をやった多くの女優達の誰よりも適役で殺陣のうまさは正に抜群であった」とあります。前半に籠に乗った主水之介が襲撃された際に下手人を手裏剣で仕留める場面、後半、女装姿で拉致グループをおびき寄せ乱闘になだれこんでいく場面と二度の殺陣を披露。下のスキャンはわずか5コマ(24fpsのため約0.2秒相当)での動きです。

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大江美智子の短刀使い
(Michiko Oe in her battle scene)

原作ではこの場面で主水之介らが登場、悪人の素性を暴いて一件落着となります。映画版はまだ物語が終わらず主人公が黒幕の屋敷に侵入、豪快な立ち回りを披露した後に地下秘密牢に辿りつきます。拘束されていた女性たちを解放しようとしたところ悪人がからくり仕掛けで部屋の天井を落とそうとして…この場面で映像が切れます。

右太衛門の殺陣は破天荒さや奇抜さはありませんが、スタイリッシュで流れの綺麗なものでした。敵を斃してから、スッと自然体に戻る動きも素敵です。

右太衛門の乱闘場面

冒頭で右太衛門と衝突しつつ後半の捕物で活躍する同心の杉浦にも疾走感があります。配役を確認すると武井龍三氏でした。

武井龍三
武井龍三
(Ryuzo Takei as Sugiura)

監督とカメラマンの連携が上手くいっており、対角線を上手く生かした動的な構図と水平線を活用した静的な構図をバランス良く組みあわせ飽きさせない流れを作っています。右太衛門自身が気に入った原作の第一回作品でもあり、製作陣全体が緊張感をもって仕上げていった完成度の高い一作です。

[Movie Walker]
旗本退屈男

[IMDb]
Hatamoto taikutsu otoko

[フォーマット]
スーパー8 無声 90m 24fps (約15分)

[参考リンク]
青空文庫版『旗本退屈男 第二話 続旗本退屈男』(佐々木味津三 作)