1920年代後半 – 9.5mm 『ペナンヒル・ケーブルカー登頂』 戦前・アジア旅行記 1/7(マレーシア編)

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Penang And Up The Peak (Malaysia late 1920s)
US Tourists in South and South East Asia 01

5年ほど以前に入手した7本組のフィルムからで、1920年代後半に東南~南アジアを訪れた米国人旅行者が記録した動画です。現在マレーシアの一部となっているペナン島周辺を撮影しています。

冒頭に宗教建築物の遺構が映し出され、手前に立っている旅行者の姿が見えます。次いで川下りとなり、ボートを操舵している男の後ろ姿。跳ねる水に迫力があります。

その後、ペナンヒルを登っていくケーブルカーが登場。上りと下り列車がすれ違う個所だけ複線になっています。現在は高速ケーブルカーとして人気を呼んでいますがその開通は1923年。初期の車両を捉えたものと思われます。

ケーブルカーから山麓を見下ろし、ペナンヒル周辺で働いている地元民を捉えた後に動画は船上視点に切り替わり、海岸に密集する集落、船を追走してくるボートを映し出していきます。

1929 – 瀧本時代堂の説明本 ~1920年代後半の説明集ブーム私見~

Benshi-narration-oriented Novelizations :
Ito Daisuke’s « Man-Slashing Horse-Piercing Sword » (Zan-jin Zan-ba Ken),
Aku Reinosuke’s « Cold Eyes » (Reigan) etc.

『斬人斬馬剣』(1929年 松竹京都 伊藤大輔)
『冷眼』(1929年 右太プロ 悪麗之助)
『此村大吉』(1929年 阪妻プロ 山口哲平)
『傳奇刀葉林』(1929年 帝キネ 渡辺新太郎)

表紙に独特な雰囲気があります。

いずれも昭和4年(1929年)の公開作品。伊藤監督の重要作の一つ『斬人斬馬剣』、悪麗之助の『冷眼』など剣戟愛好家に興味深いラインナップとなっています。14.3×10.6センチ、15ページ。紙質は荒く、表紙を開くと配役一覧があってすぐに物語が始まります。

危機一髪の眞つ最中へ馳せ付けて來たのが十時來三郎及び賴母等の正義の士であった。
『ヤアヤア臣下の身として、君家を乱し、暴擧を企て、世継の若君に危害を加へんとするなどとは言語道斷のくせ者である』

(『斬人斬馬剣』)

見る見るお千代は遂に九郎次の爲めに取られてしまつた。其日からしての甚十郎の胸中はモンモンとして悶えて居る。殊にお千代が残してある、着物などを見ると其面影が偲ばれて、悲嘆の涙が自らわき出して來る。

(『冷眼』)

4冊いずれも佐藤綠葉(綠葉山人)が文章を担当。同氏は1927年の明文館「説明集」に関わっていたことでも知られています。現物は所有していないため国立映画アーカイブ所蔵分の表紙をコピーさせていただきました。

明文館説明集

『西洋新映画説明集』『欧米特作映画説明集』『新派映畫説明集』
(明文館)国立映画アーカイブ蔵

「説明集」とは弁士の語り(説明)を念頭に置きながら映画をノベリゼーションしたものです。本来は映像を補足する存在だった弁士が次第に重要性を増し始め、時に映画以上に目立つこともあった日本無声映画期に特有の発想です。

無声映画の後期には弁士が一大人気職業となって各地で語りの才を披露していました。1910年代の『ジゴマ』二次小説ブームも同様で、日本では映画の背景や表現技法を理解して味わうより作品をネタとして楽しむ傾向が強く見られます。ツイッター全盛の現在でも本質的には変わっていないもので、日本の文化風土にあったシステムだというのは直感的に分かります。

ところがこの方向性は危険もはらんでいました。弁士の語りが前に出すぎると映像は挿絵の扱いになってしまいます。『斬人斬馬剣』を読んでいても伊藤監督の個性はかき消されていて、当時の剣戟映画界でなぜ本作が際立っていたのかが見えてきません。説明集は、視覚芸術としての映画の本質を説明していないのです。

『弁士の説明を聞くより面白い』

明文館の映画文庫の紹介ページより。仮想敵が弁士だった様子が伝わってきます。

« More exciting than benshi-narration! »

映画を作る側からすると歯痒さの残る状況でもありました。1929年は初のマキノトーキー作品(『戻橋』)が公開された年でもあります。マキノ監督は単に欧米のテクノロジーを追おうとしていた訳ではありません。観衆側の解釈や盛り上がりに依存しすぎる状況に危機感をいだき、弁士システムを終了させ業界をリセットする発想が含まれているのです。

ハリウッドでは1920年代半ば、東欧や南米でも1931~32年にトーキー移行が完了していたにも関わらず、技術力で負けていた訳ではない日本が出遅れたのには理由がありました。多くの国でトーキーへの変化はテクノロジーのアップデートに過ぎなかったのに対し、映画が魔改造されて根付いてしまった日本では変えなくてはならない前提が他にもあったのです。

ガラパゴス的な状況は1935年頃には解消されていましたし、そのおかげで後の邦画黄金時代が実現する運びとなりました。ただ、今更ではありますが、ガラパゴスのまま独自進化を遂げていたとしてもそれはそれで面白い邦画史になっていたのだろうな、と思うのです。

1917 – 9.5mm ベッシー・ラヴ主演 『ソウダスト・リング』(The Sawdust Ring)

ワードプレスの某映画サイトに英映画史家・フィルム蒐集家のケヴィン・ブラウンロー氏(Kevin Brownlow)のインタビューが掲載されていて、興味深い逸話が紹介されていました。

1954年、舞台巡業でベッシー・ラヴが英国を訪れた際、ケヴィン氏は女優宛に手紙を書いたそうです。同氏が初期作品の9.5mmフィルムを所有していると伝えると「観たい」とのこと。家にベッシー・ラヴが来るという話になって大騒ぎに。若い頃の作品を久しぶりにみたベッシーは大喜びだったとか。

件の映画は1916年公開ということで『シスター・オブ・シックス(Sister of Six)』ではないかと思われますが、彼女が主演した作品でもう一つサーカス物の『ソウダスト・リング』が9.5ミリ化されています。

現時点では両作とも16ミリ、35ミリプリントが見つかっておらず9.5ミリ形式でのみ現存。ハルポディオン社が9.5ミリ版を元にデジタル化を行っていて2ドルでストリーミング視聴可能です。

[タイトル]
The Sawdust Ring

[製作年]
1917年

[IMDB]
tt0008539

[メーカー]
米パテックス社

[カタログ番号]
D-2

[フォーマット]
9.5mm (ノッチ有) 20m*3リール(第3最終リールのみ)

1910年代末 – 尾上松之助 『今戸大八』&『平井権八』 幻灯用 齣ガラススライド 4枚

Late 1910s – 4 Magic Lantern Glass Slides
Onoe Matsunosuke in Imado Daihachi (1917) & Hirai Gonpachi (1916)

1910年代末と思われる幻灯用の齣ガラススライド4点。

フィルムを基にしたこの種のスライドについては神戸大学の福島可奈子氏が「大正期から昭和初期における齣フィルムの蒐集と文化」(『映像学』2018年99巻)で言及されており、1917年に活動写真興行取締規則が施行された際に映画館から締め出された子供をメインターゲットに発売された、との指摘がなされています。

今回入手したのは『今戸大八』(1917年9月公開)『平井権八』(1916年5月公開)の一場面をあしらったもの。コンディションは良くありませんが赤や緑?、水色や黄土色の彩色が一部残っています。

1934 -『處女作・出世作・代表作 映画花形大寫眞帖』 冨士新年號附録

『處女作・出世作・代表作 映画花形大寫眞帖』 表紙January 1934 Fuji Magazine Additional Issue
« Movie Stars : Film Debut and Breakthrough Performance »

1930年代前半に活躍した俳優の名鑑で1~2頁を使ってキャリア節目の作品を紹介していきます。要領を得た記事に「観たい!」が一度ならずありました。リアルタイムの評価も分かる内容で重宝しそうです。

[発行年]
昭和9年1月

[発行者]
大日本雄弁会講談社

[フォーマット]
128頁 26.2cm×18.9cm

[定価]
本誌と共に六十銭

[内容]

表紙:市川春代
口絵:入江たか子/飯塚敏子/伏見信子/夏川靜江

逢初夢子 『蝕める春』『昨日の女今日の女』『戀の勝敗』
青木富夫 『突貫小僧』『奢って頂戴』『二つ燈籠』
阿部正三郎磯野秋雄三井秀男『令嬢と輿太者』『戦争と輿太者』『輿太者と藝者』
嵐寛壽郎 『大忠臣蔵』『右門捕物帖』『磧の霧』『剣鬼三人旅』
淡路千夜子 『銭形平次捕物控』『涙の世渡り』『磧の霧』
飯田蝶子 『おかめ』『戀のままごと』『嵐の中の處女』
飯塚敏子 『淑女と髭』『白鷺往來』『二つ燈籠』『鯉名の銀平』
五十鈴圭子 『寛永豪傑總進軍』『戀慕吹雪』『半次月夜の唄』
市川右太衛門 『鳴門秘帖』『一殺多生剣』『天一坊と伊賀亮』『敵への道』
市川春代 『浅草悲歌』『受難華』『戯れに戀はすまじ』
入江たか子 『けちんぼ長者』『元祿十三年』『白蓮』『瀧の白糸』
歌川絹江 『一粒の麥』『團十郎の安』『敵への道』
江川宇禮雄 『七つの海』『暴風帯』『嬉しい頃』
及川道子 『不壊の白珠』『戀愛第一課』『頬を寄すれば』
大河内傳次郎 『續水戸黄門』『新版大岡政談』『月形半平太』
岡譲二 『上陸第一歩』『応援團長の戀』『いろはにほへど』『東京音頭』
岡田時彦 『紙人形春の囁き』『美人哀愁』『瀧の白糸』
岡田嘉子 『大地は微笑む』『日輪』『忠臣蔵』『泣き濡れた春の女よ』
尾上菊太郎 『踊子行状記』『流轉の雁』『左門戀日記』
大日向傳 『戀の長銃』『椿姫』『出來ごころ』
海江田譲二 『沓掛時次郎』『新藏兄弟』『關の佐太郎』
片岡千恵蔵 『萬華地獄』『源氏小僧』『逃げ行く小傳次』『元禄十三年』
桂珠子 『曙の歌』『ふらんす人形』『霧の夜の舗道』
川崎弘子 『女性の力』『壊けゆく珠』『不如帰』『嬉しい頃』
河津清三郎 『首の座』『益満休之助』『十二階下の少年達』
栗島すみ子 『虞美人草』『水藻の花』『嘆きの孔雀』『真珠夫人』『いろはにほへど』
小杉勇 『この太陽』『生ける人形』『警察官』
琴糸路 『青春散歩』『涙の渡り鳥』『新釋加賀見山』
小林十九二 『俄か馭者』『花嫁の寝言』『想ひ出の唄』
齊藤達雄 『珍客往来』『生れては見たけれど』『夜ごとの夢』
佐久間妙子 『嬢やの散歩街』『もだん聖書』『南地の女』
澤田清 『鬼鹿毛若衆』『龍造寺大助』
澤村國太郎 『影法師』『七人の花嫁』『平十郎小判』
杉山昌三九 『砂漠に陽が落ちて』『港の雨』『白浪れんじ格子』
鈴木澄子 『いろは假名四谷怪談』『旋風時代』『鏡山競艶録』
鈴木傳明 『塵境』『陸の王者』『熊の出る開墾地』『東京祭』
鈴村京子 『無憂華』『仇討二番ケ原』『仇討兄弟鑑』
高田浩吉 『街の勇士』『女性の切札』『鼻唄仁義』
高田稔 『快走戀を賭して』『大學は出たけれど』『アメリカ航路』『感激の人生』
高津慶子 『何が彼女をそうさせたか』『刺青奇偶』『彼女のイツト』
竹内良一 『兄さんの馬鹿』『天國に結ぶ戀』『琵琶歌』
伊達里子 『マダムと女房』『陽気な嬢さん』『三萬兩五十三次』
田中絹代 『戀と捕繩』『海國記』『絹代物語』『花嫁の寝言』
田村道美 『受難華』『彼女の道』『未來花』
千早晶子 『鬼あざみ』『十字路』『泣き濡れた春の女よ』
月田一郎 『街のルンペン』『榮冠涙あり』『結婚快走記』
坪内美子 『涙の渡り鳥』『島の娘』『女人哀樂』
中野英治 『大地は微笑む』『摩天樓』『間寛一』
中野かほる 『丸の内お洒落模様』『愉快な惡漢』『碁盤縞の女』
夏川靜江 『椿姫』『灰燼』『結婚二重奏』『東京祭』
南部章三 『愛の風景』『戀の踊子』『靑春よいずこ』
花井蘭子 『提灯』『新藏兄弟』『靑春よいずこ』
林長二郎 『稚児の剣法』『お嬢吉三』『不如帰』
原駒子 『鳴門秘帖』『嘆きの女間諜』『紅騎隊』
坂東好太郎 『生き残った新撰組』『兄貴』『蝙蝠の安さん』
阪東妻三郎 『鮮血の手形』『雄呂血』『神變麝香猫』『燃える富士』
伏見直江 『坂本龍馬』『一本刀土俵入』『女國定』
伏見信子 『春と娘』『十九の春』『東京音頭』
藤井貢 『白夜は明くる』『戀愛一刀流』『僕の丸髷』
水久保澄子 『蝕める春』『嵐の中の處女』『僕の丸髷』
水原玲子 『女給君代の巻』『モテルの女』『青島から来た女』
森静子 『異人娘と武士』『妻吉物語』『燃える富士』
八雲理惠子 『霧の中の灯』『多情佛心』『昨日の女今日の女』
山縣直代 『光・罪と共に』『ふらんす人形』
山田五十鈴 『孔雀姫』『白夜の饗宴』『月形半平太』
山路ふみ子 『満州娘』『己が罪・環』『港の雨』
羅門光三郎 『薩南大評定』『浪人の群』『紅騎隊』
若水絹子 『黒手組助六』『有憂華』『伊豆の踊子』

広告:冨士自轉車、ヘチマコロン、モダン・シャンプー、セイワ胃腸薬、アイデアル白粉、日淸生命、百万弗髪洗粉、小菅時計商店、報知新聞、ウテナクリーム

1917 – 16mm 『琥珀染色版 移民』(Aネガ 米コダスコープ版 1926年)

1917 - Immigrant [Nega A - Kodascope Print] 021917 - Immigrant [Nega A - Kodascope Print] 01

The Immigrant (US Kodascope 1920s 16mm Amber-tinted Print)

1926年に米コダスコープから発売された『移民』の初期16ミリプリント。1929年初めに発売された仏パテ社の9.5ミリ版、同年末に発売された英パテスコープ社9.5ミリ版を併せ、20年代に英米仏で発売された3つが手元に揃った形になります。

『移民』初期プリントアングル比較

コダスコープ版は「Aネガ」と呼ばれる米初公開時のネガを元にしています。1917年のオリジナルネガは現存しておらず、現在市販されているバージョンは様々な版をつぎはぎして「初公開版に近いと思われる」形に再構成したものです。まだ幾つもの紛れがあるという意味では当時の観衆が見ていたものと完全に同一ではありません。

コダスコープ版も家庭映写機用に編集がされていてやはり1917年のオリジナルとは異なっているのですが、無声映画期に実際に見られていて、なおかつ完備の状態で現存しているプリントとしては最も古い一つとなります。

このプリントには琥珀色の染色が施されており、実写すると繊細な金色の情景が幻想的に浮かび上がってきます。

カローラ・テーレ (Carola Toelle 1892 – 1958) 独

Carola Toelle Autographed Postcard

フリッツ・ラング監督初期作のひとつ『彼女をめぐる四人』(Vier um die Frau、1921年)で主演を務めたのがこちらのカローラ・テーレです。

第一次大戦終戦前後にドイツで数多デビューしてきた女優の一人で、当時はヘラ・モヤと並んで知名度が高かったようです。デビュー間もない時期の主演作『Das Lied der Colombine』でのリュートを手に歌う場面が印象的で、今回入手したサイン絵葉書はその場面をモチーフにしています。

本作のヒロインを演じているカローラ・テーレは品があって愛らしく、演技にも共感できる。

Carola Toelle, die hier die Hauptrolle inne hat, ist eine anmutige, liebreizende Erscheinung, deren Spiel sympathisch berührt.(Neue Kino-Rundschau vom 17. Oktober 1918. S. 59)

Carola Toelle in Das Lied der Colombine (1918)

『Das Lied der Colombine』(1918年)より

Carola Toelle in Vier um die Frau (1921, Fritz Lang)

『彼女をめぐる四人』より

[IMDB]
nm0865438

[Movie Walker]
カローラ・テーレ(Carola Toelle)

[誕生日]
4月2日

[出身]
ドイツ(ベルリン)

[サイズ]
8.6 × 13.4cm

[データ]
Verlag Herm. Leiser, Berlin Wilm. 5661 Phot. Deutsche Bioscop Ges.