1925 -『放浪の砂漠』 (ジョージ・B・サイツ監督) 米グレイプヴァイン社版DVD

情報館・DVD/DVD-R/ブルーレイ & サイン館・合衆国/カナダ/オーストラリア より

Wild Horse Mesa (1925, Paramaount, dir/George B. Seitz)
2009 US Grapevine DVD-R

ベストセラー作家ゼイン・グレイの小説をもとにした1925年公開の西部劇。

田舎町で店を営んでいるメルベルン氏が資金難に頭を悩ませていたところ、野生馬の捕獲に手を貸せば一攫千金になると勧められ家族と共に荒野への旅に向かいます。途上、怪我をしていた青年シェイン(ジャック・ホルト)を助けたのが縁で行動を共にするようになり、メルベルン氏の娘ス―(ビリー・ダヴ)とシェインに恋愛感情が育まれていきます。ところが肝心の儲け話に暗雲が。馬の捕獲は大量の鉄条網を使用したもので野生馬が傷つこうが構わない残虐なものでした。

メルベルン氏やシェインが止めようと試みるもならず者たちに拘束されてしまいます。手足を縛られ、銃で脅される中、馬追いが始まり、何千頭もの野生馬が鉄条網の待つ狭い渓谷に追いこまれていく。果たしてシェインたちはこの蛮行を阻止できるのか…

メインの物語は上述の形で、そこに娘を蹂躙されたナバホ族の部族長の復讐譚、野生馬の群れのリーダー的存在である白馬のエピソードがサイドストーリーで絡みあってきます。

まずは俳優陣を紹介していくと:

左がヒロインのビリー・ダヴ。誠実さを貫く無骨な主人公シェインにジャック・ホルト(右)が扮しています。

ビリー・ダヴの祖母を演じているエディス・ヨーク(左上)と父親役のジョージ・アーヴィング(右上)。「馬追い」の儲け話を持ってくる幼馴染の青年役にジョージ・マグリル(左下)、店を手伝う若者役にダグラス・フェアバンクス・ジュニア(右下)。

荒くれ者のボスにノーア・ビアリー、ナバホ族の部族長にバーナード・シーゲルが配され、とぼけた味わいで有名なユージン・パレットも一瞬姿を見せています。

これだけの人数が物語に出入りしているのですが、作品を見終えた後に脇役までしっかりと記憶に残っています。

例えば祖母役のエディス・ヨーク。始めの方でモップを持って登場しユージン・パレット演じる馴染み客を叱り飛ばします。この時の表情、動きはコミカルな要素が強調されていました。ところが作品中盤、主人公とヒロインの間に好意が育まれていく件では二人の関係を温かく見守っていて、優しい表情を浮かべています。

ジョージ・マグリルは逆のパターン。当初は経済難の一家に助け舟を出す好青年として登場。実際は金儲けのために一家を騙していたと判明、ヒロインの恋物語を邪魔し始め悪党側に合流していくのです。

いずれも出演場面は決して多くはありません。制約の多い中、○○に見せかけて実は△△であった…と登場人物の多面性を丁寧に描き出す脚本術が光ります。

質の高い脚本に支えられ演出~撮影も冴えも見せています。各俳優の見せ場では胸辺りから上を捉えたバストショットを多用。それぞれが自分の役割を理解し的確な表情や動きを作り、カメラ(後に『駅馬車』を撮るバート・グレノン)も演者の最良の瞬間を引き出していました。

同様の話が風景描写にも当てはまります。

『放浪の砂漠』のカメラワークは屹立する崖、傾斜の絡みあう稜線と地平、西部固有の植生をデザイン要素に見立て、スタイリッシュに画面内に構成していくものでした。撮影ポイントを丁寧に選び、角度や構図を綿密に計算した様子が伝わってきます。

演出やカメラだけではなく、衣装、メーキャップ、小道具、照明、さらに遡ってキャスティング、ロケ地選定に至るまで時間と予算をかけていくとこういった作品になるのだろうなと思います。製作費と質が単純に比例するわけではないものの、『放浪の砂漠』についてはA級西部劇の良さを凝縮した一作となっていました。

何はともあれ驚きと発見に満ちた作品で、見所が多々あるのですが前半部ではヒロイン役ビリー・ダヴが特筆に値します。ルイーズ・ブルックスや柏美枝さんを彷彿させる瞬間が幾つもあって印象が随分変わりました。

中盤以降で記憶に残ったのは祖母役のエディス・ヨーク。味のある演技を気に入って確認したところ後年の出演作に『都会の女』(1930年)が含まれていました。

『都会の女』(City Girl、1930)でのエディス・ヨーク(中央)

そうか、チャールズ・ファレルの母親役を演じていた女優さんですね。若夫婦が小麦畑を走り抜け、実家に辿りついて…あの一連の美しい流れ、ムルナウの魔法の一角を成していたと知って色々腑に落ちました。

[IMDb]
Wild Horse Mesa

[Movie Walker]