サイン館・フランスより



André Calmettes c1890 Dedicated Cabinet Photo




André Calmettes 1913 Handwritten Letter addressed to Ernst La Jeunesse
『ギーズ候の暗殺』(1908年)をシャルル・ル・バルジと共に共同監督したアンドレ・カルメットのサイン物2点。一点目は裏に手書きの献辞と署名を付した1890年頃のキャビネット写真。もうひとつは1913年、当時コメディア・イリュストレ誌に寄稿していた文筆家エルンスト・ラジュネス(Ernst La Jeunesse)氏に送った直筆書簡。
1885年にオデオン座でデビュー、その後ヴォードヴィル座やギムナーズ座などで活躍し地力を評価されていた役者でした。1900年、サラ・ベルナール座で『鷲の子』(L’Aiglon)が初演された際に演じたメッテルニヒ役が良く知られています。1908年、フィルム・ダール社が創設された際にル・バルジと並んでその中心となり、『ギーズ候の暗殺』を筆頭に歴史劇やシェークスピア劇の映像化を進めていきました。
フランスにおける最初の劇映画は、甚だ演劇的な「ギイズ候の暗殺」”L’Assassinat du duc de Guise”である。アカデミイの長老であるアンリイ・ラヴダンの書いた脚本によつて、舞台人であるル・バルジイが、アンドレ・カルメットと協力してつくつたものである。コメデイ・フランセエズの俳優を使い、ラヴダンの脚本といい、バルジイの演出といい、俳優の演技といい、ことごとく演劇模倣の色がきわめて濃い。一流の舞台人の協力ということによつて、映畫の社会的価値を高めたという功績はあつたが、あまりにも演劇臭が強く、映畫藝術の上からいえば邪道を行くものである。
『映画入門 (市民文庫 ; 第71)』 岡田真吉 (河出書房、1951年)
ちなみに『ジゴマ』や『プロテア』のジャッセ監督は1911年の映画論で『ギーズ候の暗殺』についてまとまった記述を残していて、それまでにない演技の「強度」に感銘を受けた旨を記しています。
演技はかっちりとしたもので、走り回ったりせず身じろぎ一つしません。すると強度が次第に増してくる効果が得られたのです。あれは驚きでした。
『活動写真監督術考 第4回』 イポリット・ヴィクトラン・ジャッセ
(1911年 シネ・ジュルナル誌11月11日付第168号掲載)
Ils jouaient posément, sans courir, restaient immobiles, et l’intensité grandissante d’effet fut obtenue. Ce fut une stupeur.
Etude sur la mise en scène en Cinématographie / Hippolyte-Victorin Jasset
(Ciné-Journal, n. 168, 1911)
映画産業が勃興して間もない1900年代中盤には映画をシリアスに捉えている者は極僅かしかおらず、俳優たちも日銭を稼ぐ程度の軽い感覚で出演しているのが常でした。そういう現場をコントロールしていたジャッセにとって、経験値の高い演劇人が落ち着いて全身全霊で演技をしている『ギーズ候の暗殺』はある種の衝撃だったのです。現場で要求できるレベルが上がった、変わったという話であって、大衆娯楽路線を得意としていたジャッセ作品にも少なからぬ影響を与えています。「映畫の社会的価値を高めた」だけとする歴史観はリアルタイムの連関が見落とされているものです。
[IMDb]
André Calmettes
[Movie Walker]
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