1921 – 『女ハムレット』 (スヴェント・ガーデ監督)2011年ドイツ映画博物館版DVD

映画史の館・デンマーク & 情報館・DVD/DVD-R/ブルーレイ より

Hamlet (1921, Svend Gade) & Die Filmprimadonna (1913, Urban Gad)
2011 Filmmuseum DVD

若き王子の弁舌はデーンの民の心を揺すぶり、貴族王侯の強い共感を集めた。またアムレトの心が明瞭快活なるを知り、或る者は憐みの涙を、別な者は喜びの涙を流すほどであつた。悲しみに区切りをつけ、全ての民は満場一致で王子をジュートとケルソネソスの國の王と宣言した。今はデンマルクと云ふ名で知られる國の話である。

「デンマルク王アムレト」
『悲話:第五の書』(フランソワ・ド・ベルフォレスト、1572年)

Ceste harângue du ieune Prince esmeut de telle sorte le coeur des Danois, & gaigna si bié les affections de la noblesse que les uns plouroient de pitié, les autres de grande ioye, voyans la sagesse & gaillardité d’esprit d’Amleth: & ayans mis fin à leur tristesse, tous d’un consentement le declairerent Roy d’Iutie & Chersonese, qui est à present le propre païs qu’on nomme Dannemarch.

“Amleth Roy de Dannemarch”
Le cinquiesme tome des Histoires tragiques (François de Belle-forest, 1572)


更に變つたものに、序篇及六巻から成る「女ハムレット」があります。これは獨逸アルト映畫で、米國の沙翁研究家、エドワード・ヴイニング教授は「ハムレットの秘密」なる書物で、ハムレットは女性であるが、國の爲めに男装してゐたの述べてゐるそうです。

この教授の説や、ヴォルテエル、ゲーテの沙翁のハムレットに對する批難を、映畫の「序篇」に扱ひ、「ハムレットは、實は女なり」といふ斷定を下し、その斷定の下に映畫を作ったものです。

「沙翁物の映畫化(上)」 森岩男
『新修シェークスピヤ全集 3』(中央公論社、1933年)

1921年公開の『女ハムレット』を中心に構成された2枚組DVDセット。

シェークスピアの『ハムレット』に大枠を借りつつ、当時流布していた「ハムレットは実は女性だった」の俗説を取り入れたオリジナルの物語。遠征中の王が亡くなった知らせが届き、後継ぎ問題を憂慮した王妃ガートルードは生まれたばかりの女児を男として育てることを決意。誤報であったと後日判明するのですが、ハムレットはそのまま王子として育てられ続け…の裏設定が下敷きになっています。

ハムレットは男の性別を受け入れつつ、原作では親友として登場するホレーショに秘かに恋心を抱いています。一方でオフィーリアからの思慕に応えることができぬ内に女が心を病み、水死を遂げ、怨みを抱いた兄のレアティーズがハムレットに決闘を挑む…の三角関係の恋愛模様が物語を動かす仕掛けになっていました。

アスタ・ニールセンはどこか両性具有的な要素を漂わせていた女優です。その意味でこの配役はハマり役。アイラインを広めにとった隈取風のメーキャップをほどこしていて、存在感のある両目が顔全体を食む効果をもたらしています。

オフィーリアを演じているのはリリー・ヤコブソン。サイン物の紹介で触れたように金髪碧眼の美人女優さんで、結婚を機に女優業を離れたところを旧知のアスタ・ニールセンのたつての頼みで限定復帰。思慕から狂気へと転落していくプロセスを見事に描き出していました。

1920年頃、ドイツではUFAを中心に大型撮影所の建設が続きスタジオ完結型の映画作りに向かっていました。『女ハムレット』はその流れに逆行するもので、屋外ロケを中心に植生や地形を構図に生かす発想を多用。豊かで繊細な自然描写に北欧映画の影響が強く残っています。それどころか実体はドイツ資本で製作され、ドイツ映画に擬態したデンマーク映画ではないのかな、と。

DVD2枚目にはドイツ自国版と合衆国版プリントの比較動画を収録。2台のカメラを用意して2種類のネガを作っていたとわかります。

[IMDb]
Hamlet

[Movie Walker]
女ハムレット