1974 – 「メルヴィルの選ぶ戦前ハリウッド監督63選」私見  (『サムライ – ジャン=ピエール・メルヴィルの映画人生』より)

映画史の館・合衆国 & 映画史の館・フランス より

63 cinéastes americains, selon Jean-Pierre Melville (1974)

2年半ほど前に仏映画監督ジャン=ピエール・メルヴィルのインタビュー集『サムライ – ジャン=ピエール・メルヴィルの映画人生』を紹介しました。「メルヴィルと9.5ミリ小型映画」に触れる形だったのですが、文中でも触れたように元々は同書に含まれている「ハリウッド監督63選」を目当てに購入した書籍でした。

メルヴィルは日本で言うところの「活キチ」の側面を備えていて、世の中で起こった出来事と、自分自身が観に行った映画の公開日が記憶でリンクしている話もしていました。戦中期のレジスタンスを扱った『影の軍隊』(1969年)で、『風と共に去りぬ』上映中の映画館が映し出されるのもそういった経験を反映しているんですよね。

「戦前ハリウッド監督63選」(63 cinéastes américains)はそんなメルヴィルが厳選した優秀監督の一覧。戦前期、特に1930年代の映画に興味ある方は目を通しておいて損はないだろうな、と。

  1. ロイド・ベーコン Lloyd Bacon [Movie Walker]
  2. バスビー・バークレー Busby Berkeley [Movie Walker]
  3. リチャード・ボレスラウスキー Richard Boleslawski [Movie Walker]
  4. フランク・ボーゼージ Frank Borzage [Movie Walker]
  5. クラレンス・ブラウン Clarence Brown [Movie Walker]
  6. ハロルド・S・バケット Harold S. Bucquet
  7. フランク・キャプラ Frank Capra [Movie Walker]
  8. ジャック・コンウェイ Jack Conway [Movie Walker]
  9. メリアン・C・クーパー Merian C. Cooper [Movie Walker]
  10. ジョン・クロムウェル John Cromwell [Movie Walker]
  11. ジェームズ・クルーズ James Cruze [Movie Walker]
  12. ジョージ・キューカー George Cukor [Movie Walker]
  13. マイケル・カーティズ Michael Curtiz [Movie Walker]
  14. ウィリアム・ディターレ William Dieterle [Movie Walker]
  15. アラン・ドワン Allan Dwan [Movie Walker]
  16. レイ・エンライト Ray Enright [Movie Walker]
  17. ジョージ・フィッツモーリス George Fitzmaurice [Movie Walker]
  18. ロバート・フラハティ Robert Flaherty [Movie Walker]
  19. ヴィクター・フレミング Victor Fleming [Movie Walker]
  20. ジョン・フォード John Ford [Movie Walker]
  21. シドニー・A・フランクリン Sidney Franklin [Movie Walker]
  22. ティー・ガーネット Tay Garnett [Movie Walker]
  23. エドモンド・グールディング Edmund Goulding [Movie Walker]
  24. アルフレッド・E・グリーン Alfred Green [Movie Walker]
  25. エドワード・H・グリフィス Edward Griffith [Movie Walker]
  26. ヘンリー・ハサウェイ Henry Hathaway [Movie Walker]
  27. ハワード・ホークス Howard Hawks [Movie Walker]
  28. ベン・ヘクト Ben Hecht [Movie Walker]
  29. ガーソン・カニン Garson Kanin [Movie Walker]
  30. ウィリアム・ケイリー William Keighley [Movie Walker]
  31. ヘンリー・キング Henry King [Movie Walker]
  32. ヘンリー・コスター Henry Koster [Movie Walker]
  33. グレゴリー・ラ・カヴァ Gregory LaCava [Movie Walker]
  34. フリッツ・ラング Fritz Lang [Movie Walker]
  35. シドニー・ランフィールド Sidney Lanfield [Movie Walker]
  36. ミッチェル・ライゼン Mitchel Leisen [Movie Walker]
  37. ロバート・Z・レオナード Robert Z. Leonard [Movie Walker]
  38. マーヴィン・ルロイ Mervyn LeRoy [Movie Walker]
  39. フランク・ロイド Frank Lloyd [Movie Walker]
  40. エルンスト・ルビッチ Ernst Lubitsch [Movie Walker]
  41. レオ・マッケリー Leo McCarey [Movie Walker]
  42. ノーマン・Z・マクロード Norman Z. McLeod [Movie Walker]
  43. ルーベン・マムーリアン Rouben Mamoulian [Movie Walker]
  44. アーチー・L・メイヨ Archie Mayo [Movie Walker]
  45. ルイス・マイルストーン Lewis Milestone [Movie Walker]
  46. エリオット・ニュージェント Elliott Nugent [Movie Walker]
  47. ヘンリー・C・ポッター Henry C. Potter [Movie Walker]
  48. グレゴリー・ラトフ Gregory Ratoff [Movie Walker]
  49. ロイ・デル・ルース Roy Del Ruth [Movie Walker]
  50. マーク・サンドリッチ Mark Sandrich [Movie Walker]
  51. アルフレッド・サンテル Alfred Santell [Movie Walker]
  52. アーネスト・B・シューザック Ernst Schoedsack [Movie Walker]
  53. ジョン・M・スタール John M. Stahl [Movie Walker]
  54. ジョセフ・フォン・スタンバーグ Josef von Sternberg [Movie Walker]
  55. ジョージ・スティーヴンス George Stevens [Movie Walker]
  56. ノーマン・タウログ Norman Taurog [Movie Walker]
  57. リチャード・ソープ Richard Thorpe [Movie Walker]
  58. W・S・ヴァン・ダイク W.S. Van Dyke [Movie Walker]
  59. キング・ヴィダー King Vidor [Movie Walker]
  60. ウィリアム・A・ウェルマン William Wellman [Movie Walker]
  61. ジェームズ・ホエール James Whale [Movie Walker]
  62. サム・ウッド Sam Wood [Movie Walker]
  63. ウィリアム・ワイラー William Wyler [Movie Walker]

完成度の高い、非常に洗練されたリストだと思います。

この手のリストを相手にしていく時、「誰が挙げられているか」だけではなく「誰が挙げられていないのか」が重要になってきます。それなりの理由があって一覧から外されている訳で、その「何故」を突き詰めていくとメルヴィルの映画観が見えるようになってくるからです。

インタビュアーのノゲイラ氏が着目したのは3つの名前(チャップリン、デミル、ウォルシュ)の欠落でした。

チャップリンの名前が含まれていないのは彼が映画の「”神様”で、どんな格付けにも入らない」から。これは妥当ですよね。

ウォルシュの落選は「戦前に撮った作品はどれも感心しなかった。どの作品も正統から外れていて上手く回っていない所があるから」。デミルを外したのは「デミル映畫で完璧に成功している作品はまだ一度も見たことがない。1950年の『サンセット大通り』(ワイルダー)を見て余計にそう思うようになったのですが、デミルは何をさておいてまずは俳優、しかも優れた俳優でした。真の意味の映画監督であったことは一度もないのが問題なのかな」とのこと。

ウォルシュは日本でも古くから熱心な愛好家のいる監督で異論があってもよさそうです。ただ、以前から同監督が過大評価されている(1930年の『ビッグ・トレイル』は好きな作品です)と感じていた筆者にとってこの発言はしっくりくるものでした。

デミルについても言わんとすることは伝わってきます。とりわけ「真の意味の映画監督であったことは一度もない」の指摘は重要です。私的な見立てとして、デミルはプロデューサー、プレゼンテーター、さらにはコメンテーターとして超一流だったとは思います。しかし彼の作品には純粋な映画監督が撮ったのとは違う「何か」が多分に含まれているように見えるのです。お気に入りの作品(『カルメン』『昨日への道』『破戒』)があるので映画監督としての力量を否定はしないものの、優秀監督一覧から外したメルヴィルに共感できる部分はあります。

一方でチャップリン、デミル、ウォルシュ以外にも選外となった監督がいます。自分が1920~30年代限定でリストを作るなら入れてみたい26名を追加招集してみました(姓アルファベット順)。

この中でフランク・タトルとフィル・ローゼン、ハリー・ボーモン辺りはメルヴィル好みの作品を作っていた気がするので意外ではあります。ムルナウとシェーストレムに関してはカーティス、ラング、ディターレ、ルビッチ等と異なり米国での活動が短期だった( ≒ ハリウッド型の映画製作システムに完璧には同化できなかった)ためハリウッド監督として認知されなかったのではないか、と。

トッド・ブラウニングとレックス・イングラムが優れた監督であるのは間違いないものの、両者とも当時の米国映画の王道からは外れた異端寄りの立ち位置を取っていました。メルヴィルがそういった作品を好まなかったのは何となく分かる気がします。

更にメルヴィルのリストにジョージ・B・サイツとルイ・ガスニエの名前がない事実は興味深いです。両監督とも1910年代の連続活劇で経験を積み、20年代に通常の長編映画に移行していった監督でした。メルヴィルは1920年代以降に映画にはまった後期無声映画の愛好家で、連続活劇(のみならずヴァイタグラフ社やバイオグラフ社短編等の1910年代作品全般)とその延長上にある作品・監督をあまり評価していなかったと分かるからです。

またメルヴィルの一覧には、戦前合衆国で黒人監督(オスカー・ミショー)や女性監督(ドロシー・アーズナー)が活躍していた視点が抜け落ちています。数合わせで無理やり入れる話でもなくそれはそれで構わないとは言え、メルヴィルの感性の根に白人男性至上主義があり、彼自身の監督作にも反映されている点で無視出来ない要素だと言えます。

モンタ・ベル、アーヴィング・カミングス、ジョン・フランシス・ディロン、マリオン・ゲーリング、ジャン・ド・リミュール、マルコム・セント・クレア、ミラード・ウェッブは他の大物監督と比べるとやや小粒ながら、見るべき作品を一つ二つ残しています。この辺はメルヴィルとは関係なく筆者個人の好みの問題です。