情報館・雑誌(和書) より
1921年9月に発売された活動画報後期の一冊。目次では「原色表紙:クレイヤー・ウィンスカーヤ」となっていました。初見だな…と調べてみても該当する女優が存在せず。なにせ綴りが分かりません。ロシア系?Winskaya?…散々悩んだあげく、クレア・ウィンザー(Claire Winsor)だと気がついてしばし悶絶。いやいや、普通そこにトラップを仕込まないでしょ。




巻頭のグラビアには古くからお馴染みのジェラルディン・ファーラー、新進女優オラ・ケリー、コンスタンス・ビニー、メアリー・サーマンらが登場していました。1919~20年ごろに登場していた女優たちと比べ髪が全体的に短めになっている一方、立体的で凝ったヘアデザインが好まれています。




チャップリンの『キッド』とクラレンス・ブラウン&モーリス・トゥールヌール『最後のモヒカン人』が公開されていて両作が写真入りで紹介されていました。それ以上に大きな扱いを受けていたのがロン・チェイニー出演の『ミラクルマン』。その他國活作品で井上正夫と林千歳が共演した『水彩畫家』や、歸山教正監督作『運命の船』などが目に留まりました。ちなみにアラ・ナジモヴァが出演した『戰時の花嫁』からのスチル(左下)がこの時代にしては珍しいバイセクシャル表現になっていました。


論考では活動画報の主幹・石井迷花氏による「映畫の製作權と興行權」が優れた内容でした。本サイトの投稿で言うと「フイルムの行衛」(森田 淸、『キネマ・レコード』大正4年6月 通巻第24号)や「盗まれたフィルム」に関わってくる話で「活動寫眞が著作權法に依つて保護さるべきもの」の考え方が業界に徹底されるよう提言しています。正規の製作会社のルート以外で入手したフィルムを上映していた(不正輸入)一件など、他ではなかなか聞けない裏話が含まれています。
続いて大活の常務取締役・志茂成保氏による寄稿文「キネマ界漫談 – 附大正活映の營業方針の一端」が掲載されています。おそらく営業畑から取締役に登り詰めた人物と思われ、前半では営業部の社員の質を高めていきたいとの抱負が語られる一方、後半に自身の経験から「ローカルカラー」(地方によって客に受けるジャンルが違うこと)に触れていました。この手の雑誌は作品や俳優の良し悪しに議論が集中しがちですが、映画産業を経営・経済視点で語っていく切り口はあってもいいな、と興味深く読み終えました。
また本号から古川綠波氏の「説明者の研究」の連載が掲載されています。当時18才、早稲田高校に入学したばかり。若書きの一作とはいえ怜悧な文章は際立っています。
ちなみに表紙をめくったページには國活の輸入作品の広告あり。以前にDVDを紹介したアスタ・ニールセン主演の『女ハムレット』、マリア・ヤコビニ主演の『さらば青春』が並んでいます。大正10年7~8月は米国作品の公開数が圧倒的に多く、活動画報もハリウッド特集号の様相を呈しているのですが、5月には『カリガリ博士』『アルゴール』が紹介されており、年末にかけて『蛇身の舞』(10月6日公開)、ルビッチの『ドール/花嫁人形』(11月9日公開)等が紹介されていきます。ハリウッド一強が崩れより多彩、複雑に展開していく1920年代の激動を前に一瞬水面が凪いだような一冊でした。
[出版者]
正光社
[発行]
大正10年(1921年)9月1日
[定価]
七十銭
[フォーマット]
四六倍判 25.4×18.8cm、114頁

