1927 – 9.5mm 『當世新世帯』第一巻(阪妻・立花・ユニヴァーサル聯合映画、小沢得二監督) 1920年代末 伴野商店プリント

フィルム館・9.5ミリ (伴野商店) より

Tousei Shin-Jotai (“Modern Family Life”, Bantsuma Tachibana Universal Rengo Eiga, dir/Ozawa Tokuji, 1927)
Late 1920s Japanese Banno Co. 9.5mm Print

「彌あさんが、あなたに代る新世帯」なるこの映畫のタイトルが、まさにその痛快な現代喜劇の内容を簡單に云ひ現してゐます。手にも足にもおへぬ遊蕩兒が、ふとした變手古な動機から美しい藝者を細君にしたが、この細君仲々立派な心がけで、良人のズボラを直す爲に一方ならぬ苦心をしたが、事件が意外な方面に展開して珍妙奇天烈の大騒ぎが持上がると云ふ筋。苦笑あり、爆笑あり、スピードある近來の快作、まさに監督小沢得二氏が最近に於ける大手柄と稱しても過言ではありません。

原作脚色は宮田十八、出演者は堀川浪之助、泉春子、安田善一郎、伊藤淳兆、嵐豊之助、巴蝶子等で、皆々春の浮かれ氣分で破目を外しての脱線ぶり、就中新婚ホヤホヤ夫婦の甘つたるいぬれ場には、當てられぬ樣に御用心。追つかけの移動撮影はハロルド・スミス氏が擔當して、絶對に他社映畫に求め得ぬエイクリ撮影機の有難さを見せてゐます。

「新映畫紹介 日本映画の部:『當世新世帯』五巻」
「大日本ユニヴァーサル」 1927年5月号(映畫世界社)


先日川浪之助、泉春子主演の『當世新世帯(たうせいしんじよたい)』が入庫した。二人の主演者の他、安田善一郎、伊藤淳兆、巴蝶子等の助演で出來上つた一篇のファース劇である。肩のこらぬ一服の清涼劑に比すべきユーモアとペイソス、スリルと奔放自在なキャメラ・ワークに終始されてゐる映畫である。私は之を會社の試寫室で二度、三度まで見てゐるが、幾度見ても飽き足らない。フレッシュな作品で、小澤氏にしてこのファ―スありしかと、更に一歩を彼に讓る次第である。

「小澤得二監督のこと」矢島二郎
同上

1927年4月に公開された阪妻・立花・ユニヴァーサル聯合による喜劇作品。短期間しか存続しなかった同社作品として唯一現存が確認されているものです。

伴野版はカタログ番号の333、335、337の3部構成(それぞれ20メートル×2本)に分けて市販されたダイジェスト版です。京都おもちゃ映画ミュージアムが完全版を所蔵、デジタル版が2020年度の京都国際映画祭で上映された記録が残っています。

今回入手したのはカタログ番号333に当たる第一巻。芸者遊びにうつつを抜かす主人公の渋川弥吉(堀川浪之助)が、高利貸(伊藤淳兆)に追い立てられながらも何とかして意中の芸妓・小春(泉春子)を妻にしようと悪戦苦闘する様子を描いた一幕です。キャラクターの導入部に当たるもので、単体ではそこまで「笑える」内容ではありません。それでも丁寧に解きほぐしていくと興味深い発見が色々ありました。

小春が勤める「おしどり」で、弥吉が芸者遊びをしている場面より。照明をふんだんに使い、また高価な撮影機材を使っているため画質がシャープです。同時期の邦画他作(1926年日活『新作膝栗毛』、1928年阪妻プロ 『坂本龍馬』、1928年千恵プロ『放浪三昧』)と比べてもその差は歴然。

大日本ユ社は金井謹之助主演の『笑殺』封切つた。原作脚本志波西果、川浪良太氏の監督、その物語のシユニツクな點、今迄の日本物には見られなかつたライトの贅澤な使ひ方 […]。

「昭和二年の日本映畫及び日本映画界」 足立忠
『日本映畫年鑑 昭和2・3年』(朝日新聞社、1928年)

1927年の邦画をリアタイ鑑賞していた足立忠氏の記述を見るとやはり阪妻・立花・ユ社作品の「ライトの贅沢な使い方」「カメラ・セツトのよさ」を高く評価していたと分かります。ユニヴァーサル社との業務提携により、同社のノウハウ・資本・機材・人材が邦画界に流入し底上げが行われた様子を見て取れるのです。

また本作は泉春子さんの数少ない現存する主演作でもあります。阪妻と縁の多い女優さんでもあり、『江戸怪賊伝 影法師』『坂本龍馬』には脇役として出演。1927年『砂絵呪縛』でお酉役を演じていたように、和製ヴァンプ女優として扱われる機会も多くありました。ただ、鈴木澄子さんや原駒子さんのように妖艶さで男心を惑わせていくタイプではないんですよね。

『當世新世帯』でいうと不機嫌だったり不安な場面ではやや険のある、ピリっとした空気感を漂わせています。一方で嬉しい時や楽しい時は柔和で可愛らしい表情に。読みにくい落差が女性として、あるいは人間としての魅力につながっている感じで、今であればツンデレ系として重宝される女優だろうなと。小春役はそんな持ち味と筋立てが上手く噛みあっている点で適役だったと思います。

小澤得二氏は1923~24年頃の松竹で監督業を本格始動、喜劇を扱う一方で梅村蓉子や柳さく子主演作を手がけています。20年代中盤に曾我廼家五九郎主演の『ノンキナトウサン 活動の巻』をスマッシュヒットさせ、その後阪妻・立花・ユ社に合流。『當世新世帯』 第一巻は割とユルい感じの喜劇ながら、後半に大掛かりな追跡場面も含まれているようで全体を見るとまた印象が変わると思います。残りの巻もいつか手に入れて自力でデジタル化したいところです。

[IMDb]


[JMDb]
当世新世帯