1907 – 『老将軍の想ひ出話』(ゴーモン社、ルイ・フイヤード監督) 1926年頃 ミクロ・シネ 9.5ミリプリント

ルイ・フイヤード [Louis Feuillade] より

Le Récit du Colonel
(The Colonel’s Account, 1907, Etablissement Gaumont, dir/Louis Feuillade)
c1926 “Micro-Ciné” 9.5mm Print

ポケットに映画館を。スイス・ベルヌの設計士が発明したのは僅か煙草ケースのサイズの映写機器、これを使えばいつでも動画を見ることが出来る。「ミクロ・シネ」と名付けられたこのデバイス(スイスの街アーラウとビールの会社が量産を開始)の驚くべき小ささもさることながら、この映写機の一番の売りは、これまで光源を確保するためにケーブルが必要だったのに対し、ミクロ・シネでは電池でランプを点けて動作させることが出来る点にある。しかも電池が切れてしまったり、内蔵の小型ランプが駄目になっていても機能する優れ物。ミクロ・シネで初めて日中でも外部の人工光を使用せずに動画閲覧が出来るようになった。将来、普通に写真を持ち歩くように動画をポケットに入れて持ち運び、いつでも人に見せることができるようになるだろう。

『ノイエステン・ナーハリヒテン紙:日曜版』 1926年12月12日付

Das Kino in der Westentasche. Ein Berner Architekt ist der Erfinder eines kinematographischen Projektionsapparates, der kaum so gross ist, wie ein Zigarettenetui, und mit dem man zu jeder Zeit richtige lebende Bilder vorführen kann. Neben der verblüffenden Kleinheit des «Micro-Cine» genannten Apparates, der jetzt von Instrumentenfirmen von Aarau und Biel in grossen Mengen hergestellt wird, ist ein Hauptmerkmal des Projektors, dass er, unabhängig von der bisher notwendig gewesenen Lichtleitung, schon mit einer ganz gewöhnliches Taschenlampenbatterie funktioniert. Der Clou der ganzen Erfindung aber ist, dass sie auch dann noch funktioniert, wenn die elektrischen Taschenbatterie schon längst er schöpft oder die kleine Lampe zerbrochen ist. Der Micro-Cine macht es zum erstenmal möglich, lebende Bilder bei ganz gewöhnlichen Tageslicht ohne jede künstliche Lichtquelle zu betrachten. Man wird also in Zukunft lebende Bilder wie gewöhnliche Photos in der Tasche mitnehmen und jederzeit vorzeigen können.

Sonntags-Blatt : gratis-Beilage zu den Neuesten Nachrichten
( [s.n.] , Strassburg, 1926-12-12)


ミクロ・シネ:フィルム中央にパーフォレーションのある9.5ミリフィルムを直接閲覧でき、映写もできる小型映画機器。取り扱いはパリ1区サン・ロック通57番ゴーモン社

『写真業界事典』(写真関連出版ポール・モンテル、1929年)

MICRO-CINÉ : petit appareil cinématographique permettant la vision directe et la projection des films de 9 m/m 5 à perforation centrale. Etablissements GAUMONT, 57, rue Saint-Roch, PARIS (1er).

L’Indicateur de l’industrie photographique. Annuaire général
(Publications photographiques, Paul Montel, Paris, 1929)


1920年中頃に市販されていたミクロ・シネ9.5ミリフィルムビューワー用に発売されていたフィルムより、ゴーモン社製の初期喜劇「老大佐の想ひ出話」の10メートル縮約版。

ミクロ・シネの本体は時々市場に出てきます。英9.5ミリ小型映画専門家グラハム・ニューナム氏が自身のホームページで同機の紹介を行っていますので実機に興味のある方はそちらをご参照下さい。

パテフィルム.ukでの紹介ページより(http://www.pathefilm.uk/95gearmicro.htm

ミクロ・シネはスイスで製造されていたのですが、同時期に仏ゴーモン社と接点を持ち業務提携の形でフランスでの展開を行っています。パテ社がパテ・ベビー映写機を通じて自社の映像アーカイブをコンテンツ化し成功を収めていた状況を前に、ゴーモン社が対抗策としてミクロ・シネ経由で自社作品の9.5ミリ版を売りに出そうとした流れです。しかしながら試みは成功せず短期で市場から撤退。

この「ミクロ・シネ」ブランドでビューワーのみでなくフィルムも市販されていたと初めて知りました(仏語圏でも紹介例は見当たらず)。『老大佐の想ひ出話』には59の番号が付されており、少なくとも60タイトル程度売りに出されていたと見られます。木製のコアに巻かれた10メートル仕様、パッケージは笑顔を模した白黒の洗練されたデザインになっています。

前後左右(特に左側)のトリミング幅が大きく、オリジナル版にあった字幕がミクロ・シネ版にはありません。他愛ないドタバタ喜劇ながら老大佐vsその他の会食者のやりとりが短時間でヒートアップしていく様子をリズム感良く構成しており後にゴーモン社のトップ監督となっていく才能の片鱗は見て取ることができます。

パテ社が売りに出していた9.5ミリフィルムは同社作品が中心でしたのでルイ・フイヤード監督作品は含まれていませんでした。短期間ながらフイヤード作品も9.5ミリ化されていたのが判明。同監督の愛好家としては非常に嬉しい発見となりました。

[IMDb]
Le récit du colonel

[Movie Walker]