情報館・DVD より
中国の国産アニメーション史は万兄弟(万籁鸣、 万古蟾&万超尘)による『アトリエ騒動』(大闹画室、1926年)を元年として起算されており、80年目に当たる2006年の5月に発売されたのが集大成的な性格を持つ10枚組DVDボックスセットでした。
上海では2006年の6月から「アニメ、我と共に飛ぶ(动画伴我飞翔)」と題された記念イベントが開かれ、各地で様々なイベントが開催されていました。
6月1日には上海有数のイベントスペース・少年宮を会場とし子供たちがゲームやクイズを通じ国産アニメの歴史に触れています。また同月中旬に開会した上海国際映画祭にあわせ6月20日には上海視覚芸術学院でフォーラムが開催、香港のツイ・ハーク監督などがスピーチと質疑応答に参加。週末になると地元の映画館でプログラムが組まれている等、上海のアニメ業界が総力を挙げてプロモーションを展開したものです。
『中国アニメーション80周年記念』 DVDボックスセットはこのイベントに先行する形でリリースされたもの。この時期に上海電影が「コレクターズ・エディション」として発売していた6種類のDVDをひとつにまとめた形になっています。
- 『大暴れ孫悟空』(1961年) コレターズ・エディション 2DVD
- 『中国経典動画 特偉編』コレターズ・エディション 2DVD
- 『ナーザの大暴れ』(1979年) コレターズ・エディション 1DVD
- 『天書奇譚』(1983年)コレターズ・エディション 2DVD
- 『西遊記 孫悟空対白骨婦人』(1985年)コレターズ・エディション 2DVD
- 『宝蓮灯』(1999年)コレターズ・エディション 1DVD
長編を中心に上海電影の代表作をある程度網羅しています。懐かしい作品を手元に保存しておきたい年配ユーザーをターゲットにしつつ、リアルタイムで作品を知らないデジタルネィティヴ世代を取りこんでいく発想を含んでいます。
「アニメ、我と共に飛ぶ(动画伴我飞翔)」は時間をかけて入念に準備し、行政や教育機関を巻きこんで展開したものでした。現地で参加した人たちにとっては楽しいイベントだったのだろうなと思います。ただ当時上海美術電影の副所長であった周峻氏のインタビューを読んでいくと、中華アニメの薔薇色の現在〜未来といった風景とかけ離れた危機の意識がイベント開催の動機となっていたと分かります。
「10才になる私の娘とその同級生たちは、日本製とアメリカ製のアニメ映画やドラマに夢中になっています。今こそ中国のアニメ産業が若返りを図り、私たちの子供たちの記憶に何か美しい思い出を残してあげるタイミングではないのかな、と。1960~70年代の古典作品『大暴れ孫悟空』と『ナーザの大暴れ』が今でもDVD/VCD市場で人気があるのとは裏腹に、中国の子供たちが慣れ親しんでいる自国アニメの新作を見つけようとしても難しかったりします。心躍らせるような国外アニメと比べて、現在の中国アニメの大半は扱っているテーマが重く退屈で、独自性も欠けているという批判にさらされています」
上海デイリー紙 2006年6月13日付
”[…] today my 10-year-old daughter and her classmates are so enchanted with the animation pictures and TV serials from Japan and the United States. It is time for the domestic cartoon industry to rejuvenate and leave something beautiful in the memories of our kids.”
Although the two classics in the 1960s and the 1970s – Monkey King and Nezha Conquers the Dragon King – are still popular in today’s VCD and DVD market, it’s difficult to find a new domestic production that’s familiar among today’s Chinese children. Compared with the light-hearted foreign cartoons, today’s Chinese productions are mostly criticized for their heavy and boring themes and lack of originality.
Shanghai Daily June 13, 2006
同じ記事では「自分や同級生の間では『ドラえもん』や『ちびまる子ちゃん』が一番人気。クラスではディズニーの『ネモ』や『シュレック』『ライオン・キング』のキャラも人気がある」の地元小学生のリアルな声が紹介されていました。まぁそうなるよな、と。今回同時に紹介している『上海美術電影作品集』を見ていても、子供を楽しませるためというより大人が子供に見てほしい作品を作っている印象が強く残ったからです。
「アニメ、我と共に飛ぶ(动画伴我飞翔)」は、中国アニメ業界が軌道修正を計り自国産アニメ市場を再ブーストさせようとした試みだったのかなと。このDVDボックスセットもその意味で模索のひとつ。2010年代以降の中華アニメ隆盛の流れで上海は置き去りにされた感があるものの、アニメ文化の豊かな蓄積を有した土壌だけに今後また何かの形で表舞台に出てくると見ています。







