フィルム館・8ミリ より
神話の残布がありふれた日常に魔法をかけ、陳腐な日常の躯体が新たな衝撃で神話を満たしていく。
「プラハにはまだゴーレムがいる」
エルンスト・ブロッホ
1936年1月
Das Restkleid aus Mythos verzaubert die Banalität, und der Leib der Banalität erfüllt, zu neuem Choc, den Mythos.
Es gibt noch Golems in Prag
Ernst Bloch, 1936
(Vom Hasard zur Katastrophe : Politische Aufsätze aus den Jahren 1934-1939, Suhrkamp Verlag, 1972)
1920年版『巨人ゴーレム』の8ミリが届きました。製作会社のクレジットはなくソースは不明。1200フィートの大型リールにマウントされていたもので、上映時間に換算すると60分を超え物語全体をほぼカバーしています。
パウル・ヴェゲナーの圧倒的な存在感は言うに及ばず、リダ・サルモノヴァが艶のあるヒロインを好演。皇帝ルホイスを演じているのは後にフリードリヒ大王役で名を上げるオットー・ゲビュールです。後に渋みのある性格俳優へと成長しドイツ映画を戦後まで支えていくエルンスト・ドイッチュが若きラビ役で登場。出演場面は短いものの、宮廷でゴーレムを迎える貴婦人の一人に『ノスフェラトゥ』のヒロイン、グレタ・シュレーダーの姿も見えます。
1910年代ドイツ映画とその近辺では人造人間に対する一定の関心が見られました。1915年版の『巨人ゴーレム』を皮切りとし、1916年にはオットー・リッペルト監督による連続劇『ホムンクルス』公開。またマンドラゴラ伝説を下敷きにした『妖花アルラウネ』の最初の映像化が1918年で(独ルナ映画社)、翌1919年にはハンガリー版も製作されています。
『ホムンクルス』にせよ『妖花アルラウネ』にせよ主人公の設定に人造人間〜アンドロイド要素があるというだけで、物語そのものは社会派ドラマだったり人間劇だったりします。怪異〜SF界隈の愛好家にアピールするまでの力はありませんが、他国には見られないこれらの傾向が20年代になってより研ぎ澄まされ、『メトロポリス』のマリア等につながっていく流れは押さえていて良いのかなという気がします。








フィルムの最初の1/3はコントラストが強め、屋内撮影場面ではセットデザインの細部などが殆ど黒く潰れてしまっています。中盤の1/3、呪文を通じゴーレムに魂が吹きこまれる流れの前後は逆に低コントラストで、被写体がグレーがかって背景の黒に紛れてしまう感じでした。最後の1/3は屋外撮影が多いのですが、この辺が一番判明に写っていました。
映写機に大光量のランプを使用すると中盤もそれなりに映りそうですが、今度は後半の屋外場面が白飛びしてしまいます。プリントの良し悪し以前に8ミリの解像度の限界で、実写するのであれば映写の途中で光量を変える必要がありそうです。
また1200フィート用リールは軸受けの部分(「ハブ」)が円形ではなく、16ミリ用リールと同サイズの四角になっていました。1970年代に米ラ・シーヌ社が流通させた「エクステンド・A・リール(Extend-A-Reel)」と呼ばれる規格だそうです。専用ユニットでの映写を念頭に置いていたそうで、そのままでは1200フィート対応8ミリ映写機では映写できないとのこと。
実写を考えていたわけではなかったものの、スキャンして内容を確認したかったためひと思案。最終的には16ミリ映写機用(ベル&ハウエルのフィルモサウンド7302)の外付けアームを流用してスキャンを終わらせました。エクステンド・A・リールは米国以外で市販された記録がなく、日本で目にする機会は中々ありませんので参考まで。
[IMDb]
Der Golem, wie er in die Welt kam
[Movie Walker]
巨人ゴーレム









