エラ・ホール Ella Hall (1897 – 1981) と連続活劇『マスター・キイ』(1914年)

サイン館・合衆国/カナダ/オーストラリアより

Ella Hall 1917 Inscribed Photo

數年間舞臺生活を續けて後、バイオグラフ會社に入り次でリライアンス社を経てユ社に入り多くの靑鳥映畫に出演し後エモリー・ジヨンソン氏と結婚し、バラルタ社を經て、アートクラフト會社に主腦女優となる。

「エラ・ホール孃(一八九七年紐育市生)」
『活動写真俳優名鑑』(1919年、森富太編、活動評論社)


恰度その頃、メリー・ピックフォード孃も舞臺に立つて居たので、エラ孃は「ヴァーヂニアの養畜場」といふ劇をメリー孃と共演した。これが兩者が相識つた最初である。その後、「豊かな娘」といふ劇を演ずる際に、メーベル・タリフェロー孃と顔を合はせる事になつたが、その時メーベル孃は、エラ孃に勸めて映畫劇に出演させようとした。

考へて見ると、その頃は活動寫眞が日増しに隆盛に赴いて行く頃であつたので、嬢もメーベル孃の勸告を入れて、遂ひに映畫界の人として立つ決心をした。それは一千九百十年の事で、孃は未だ十四歳の少女であつたが、多大の抱負と希望とを以つて、先ずバイオグラフ會社の門を潜る事となつた。同社ではダヴィッド・グリフィス氏の指揮の下に約二箇年の間働いたが、後レライアンス会社に移つて、ジャック・カークウッド氏の監督の下に、約一年間ほど勤めて居た。同社を去ると今度はユニヴァサル會社に這入つたが、是が嬢の幸運を迎へる因となつて、遂ひに隆々たる名聲を博するに至つたのである。

「エラ・ホール孃」
『活動名優写真帖』(野村久太郎 編、玄文社、1919年)


米國映畫には、亂暴なファ―ス・コメデイや、活劇本位のセリアルが生れた一方、ユ社から『ブルーバード映畫』の如き藝術的映畫が發賣されて、米國映畫界に空前の人氣を博したことは注目すべきである。『ブルーバード』は詩の映畫であり、美しい詩の連續である。[…]

俳優では『ブルーバード映畫』の四名花と云つて、その頃盛んにフアンの間に問題になつたのが、エラ・ホール、マアトル・ゴンザレス、ヴアイオレツト・マアセロウ、ルイズ・ラヴリイである。

「五、ブルーバード映畫」
『欧米及日本の映画史』(石巻良夫、プラトン社、1925年)


お寺 [妙淸寺] のお門の前に窪川といふ古本屋があつた。或朝僕はやつと持ち上げられるくらゐある雑誌の山を抱へて、窪川に買うて貰ふのであつた。そして何十銭かを得ると僕は素晴らしい景氣のよい電車のなかの人になり、五銭の活動をみにゆくのであつた。あのころの美しいグレス・カナードやエラホールの顏は、いつも僕の眼ににじむ涙のかげにほゝゑんでゐて、孤獨と格闘してゐた僕にどれくらゐ深いいたはりを與へてくれたか知れなかつた。

「いつを昔の記」
『文芸林泉 : 随筆集』(室生犀星、中央公論社、1934年)


1910年代中盤~後半にかけ、日本でユニヴァーサル社のブルーバード映画が流行した際にその中心女優として多くのフアンを獲得した金髪碧眼の女優さん。当時愛好家は「エラ・ホール黨」や「ルイズ・ラヴリイ一派」などに分かれて熱く語っていたそうです。10年代末頃になると新進女優に押され、結婚後に出演本数が減ったこともあって人気は長続きしなかったのですが、一時期の日本での人気はメアリー・ピックフォードを凌ぐものがあり、後年、愛活家の昔話で頻繁に名が出てくるほど強い印象を残しています。

『喇叭卒』(1916年)

当時ブルーバード作品として評価の高かった出演作が「催眼鬼(The Love Girl、1916年)」「喇叭卒(The Bugler of Algiers、1916年)」「質屋の娘(A Jewel in Pawn、1917年)」辺りになります。

また彼女は連続活劇『マスター・キイ』(1914年)の主人公ルース役も務めています。

仏語ノヴェリゼーション版『マスター・キイ』挿入写真より

『マスター・キイ』は1915年9月30日(電氣館)で封切られた15話構成の連続活劇で、『名金』(1915年10月横濱オデオン座)や『拳骨』(1916年3月帝國館)、『ヘレンの大冒険』(1916年千代田館)に先立ち、日本で初めて紹介された連続活劇として知られています。

『マスター・キイ』は、ゴールドラッシュで賑わった鉱山でガロン氏が大規模な金の鉱脈を発見したことで幕を開けます。採掘者たちの仲間割れに端を発し、ガロン氏は実際に金脈を掘り出すことなく鉱山を離れ、戻ってきたのは20年以上経過してからでした。同氏は「マスター・キー」という会社を立ち上げ採掘事業を進めようと試みるも志半ばにして病没、全てを一人娘のルース(エラ・ホール)に託します。しかしながらガロン氏のかつての採掘仲間がマスター・キー社の乗っ取りを企み、ルースの命を狙い、ガロン氏が描き残した金脈の地図を手に入れようとする…と続いていきます。

後続のパール・ホワイト活劇やヘレン・ギブソン活劇に見られる超人的アクション要素は希薄ながら、自動車にトラップを仕掛けられたり悪漢によって拉致されたりとヒロインが毎度命の危機にさらされていく基本パターンは既に完成されています。またガロン氏の残した金脈の地図はヒンドゥー神像に隠されていた…の設定になっていて、途中から舞台がインドへと移りエキゾチックな要素が多く入りこんできます。以前に紹介した『陸軍のパール』が『マスター・キイ』と合本で、今回スキャンがてら拾い読みしたのですが、登場人物の設定や物語の組み方がしっかりしていて日本の活劇ブームの突破口となったのも納得の内容でした。

[IMDb]
Ella Hall

[Movie Walker]
エラ・ホール