9.5ミリ (仏パテ社) & 映画史の館・フランス より


昭和5年、科学者のリシャールは雷の力をコントロールする技術開発に成功した。しかし学会は証明に多額の費用がかかるという理由で研究を受け入れようとはしなかった。


将来を誓いあった従妹のユゲットは実家の財政破産で苦境に陥っていた。リシャールは研究者として成功した暁に負債を立て替える目算であったが計画は頓挫する。


失意のリシャールが川岸でたたずんでいると初老の男に声をかけられた。川端に大きな工場を所有している謎めいた人物で、リシャールと契約を交わしたいというのである。金策にてこずっていたリシャールは男の提示を受け入れる。


工場で巨大な機械が稼働し始めた。資金援助を受けたリシャールは研究の実用に取りかかる。




首都には逃げ惑う人々の姿があった。各地で消防隊が出動し鎮火作業と人命救助にあたっている。市街地への落雷が甚大な被害をもたらしつつあった。




一連の出来事は「雷の主」による警告に過ぎなかった。市役所に脅迫状が届いており「24時間以内に五千万フランを用意しないと町全体を雷で焼き尽くす」というのである。最初の狙いはエッフェル塔。街にも同じ内容のビラがまかれ市民にパニックが広がり始める中、約束の時間が刻一刻と近づいてくる。
時計を見つめているリシャール。果たして彼は自身の幸せのため、社会への復讐のために首都を滅ぼしてしまうのか、工場に駆けつけたユゲットは男の暴走を止めることが出来るのか…二人の戀物語、そして首都パリの命運や如何に。
ルイツ・モラー監督による初期SF映画作品の9.5ミリダイジェスト版。公開翌年に当たる1925年に市販されたものでオリジナル版では72分の長編を20分程に短縮しています。
スペース・オペラからサイバーパンクに至るまで多岐に渡るSFジャンルで、本作は終末論的SFやパニック映画と呼ばれる下位ジャンルに接しています。黙示録のあるキリスト教文化圏ではなじみ深い世界観ではあるものの、無声映画での応用例は『世界の終わり』(Verdens Undergang、1916年、デンマーク、オーガスト・ブロム監督)が最初で、本作はその次に来る作品。天災ではなく、人為的そして科学的に破滅をもたらす物語設定は映画史上初となる試みでした。
とはいえ1920年代中盤に大都市の滅亡を描き切る技術はまだなく、ミニチュアを使用した原始的特撮と実際に発生した火事の映像を組みあわせています。また雷光がとどろく場面では何も映っていないコマを断続的に挟んで空が明滅している効果を出していました。
本編後半ではエッフェル塔(その先で煙に巻かれているのはトロカデロ宮殿です)とマドレーヌ教会、パリ北駅の破壊された様子が映し出されていきます。このうちエッフェル塔の倒壊は、終末論型SF映画(1998年『アルマゲドン』など)で多用される重要な紋切り型(クリシェ)となっていきます。
身近な例では『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』(2021年)の冒頭、真っ赤にコア化したパリ上空での戦闘場面で、マリ・イラストリアス操縦する8号機がエッフェル塔を振り回していたのが記憶に新しい所。映画史のDNAを色々遡っていくと1世紀前のこういった作品に辿りついたりします。
[IMDb]
La cité foudroyée
[Movie Walker]
巴里の破壊




