フィルム館・28 & 35ミリ より
音樂活劇「ロツパの大久保彦左衛門」のなかでロツパの彦左衛門が盥に乗つて登城するシーンがある。演出齋藤寅次郎さんの珍案によつて 彦左衛門以下旗本五十何人が全員盥に乗つて登城することゝなり、折から彦根ロケのこととて市内の盥屋さん大恐慌わけても肥つたロツパが乗つかる盥は特製と云ふので彦根城下姫路市開ビヤク以来の特製盥の記録が樹立された。
台湾芸術新報 1939年3月号
撮影「ロッパの大久保彦左衛門」完了。
今日こそはおしまひの日なのだ、十時に眼がさめると、うす曇りらしい、兎に角出かけてみる。撮影所の楽屋でのびて憂鬱になってゐると、晴れた、陽が照ってゐて雨が降ってゐる。その中で残りの城下町のシーン三カットを撮る、傘さして待ってゐる。陽は照ってゐる。珍景である。之が済み、殘りの声二つをセットで片付けてしまふと、アガリ、やれやれこれでチョンなり。試写室でラッシュを見、ついでに「エンタツ・アチャコの忍術道中記」を見る、ひどくつまらない、が、こっちのもかなりひどいと思った。
「昭和十三年十二月二十二日(木曜)」
古川ロッパ昭和日記 戦前篇 :昭和9年~昭和15年(晶文社、1987年)
1939年公開作品『ロッパの大久保彦左衛門』より、彦左衛門による大蛸退治(?)と盥(たらい)による登城の章段。
冒頭に登場する鉢巻姿の青年が魚屋の一心太助(藤原釜足)。城下町の大通り、別な魚屋と何かのきっかけで揉め事になり、体格の良い相手にボコボコに。鮮魚店の軒先で売られていた大きな蛸が触手を伸ばし、男の首筋から頭に絡みついてきます。
笹尾喜内(高勢実乗)を連れ、そこに通りかかったのが大久保彦左衛門(古川ロッパ)。喜内から槍を受け取り、化け物蛸をいざ退治…いや、勝手に男が倒れて戦うまでもありませんでした。物語は一回ここで切れているのですが、この後一心太助と彦左衛門の交流が深まる中で家光治世下の腐敗が次第に暴き出されていき、彦左衛門による粛清運動が進められ悪人・川勝丹波守(渡辺篤)が退治されます。しかしながら家光は厳格すぎる彦左衛門にも駕籠による登城禁止を命令。
彦左衛門は一計を案じ、駕籠ならぬ大盥に乗り、歌う旗本(アキレタボーイズ)を従え厳かに登城していきます。
ロッパ氏自身は完成した作品をあまり高く評価していなかったものの、実際に公開されると大入りとなり同時期に上映されていたエンタツ・アチャコやエノケン作品より人気が高かったそうです。1939年の日記には、前作『ロッパのおとうちゃん』より本作が受けているのはどうにも解せぬ、と訝しんでいるロッパ氏の姿を見て取れます。いやいや、ロッパ氏も高勢氏も大蛸も大盥も皆さんキュートですし、齋藤監督による演出もモダンでスマートです。
[IMDb]
Roppa no Ôkubo Hikozaemon
[JMDb]
ロッパの大久保彦左衛門




















