1923 – 9.5mm 『ファニー・ワード孃の初舞臺』(1920年『突風』断章) 1923年仏パテ社プリント

フィルム館・9.5ミリ (仏パテ社) より

Fannie Ward in Début au Music-Hall
(excerpt from the 1920 Movie La Rafale
directed by Jacques de Baroncelli)
1923 French Pathé 9.5mm Print

『ファニー・ワード孃の初舞臺』

将来有望の女優も初舞臺は心静かならざるなり


「口紅をもう少し濃くすれば舞台の成功間違いなしですよ」


亜米利加のミュージックホールでは演者も飲食も最高品が供される


「あたいはおしゃまなお嬢様
気立ては良いけど動きは読めぬ」


「人を安心させる微笑みと
巴里っ子の粋を兼ね備え」


「よこしまな眼差しと美貌とに
人はあたいをいたずらフェイスと呼ぶ」



犬と猫の両雄相並び立たず


ミュージック・ホールでデビューしたばかりのヒロインが歌と踊りで観衆を沸かせるも、たまたまドレスにあしらっていた猫のデザインが犬の目に留まり、追い駆けられて客席に逃げ込んだところを男性客に助けられる…

2020年にファニー・ワードサイン物を紹介した時に触れた9.5ミリ短編。当時「おそらく長編映画の一部ではなかろうか」の予測を立てていました。今回フランス語資料に当たってみたところ1920年に公開されたジャック・ド・バロンセリ監督作『突風』(La Rafale)の冒頭と判明しました。

『突風』はアンリ・ベルンスタンの3幕物戯曲を映像化した一作。ヒロインのエレーヌ(ファニー・ワード)は縁あって男爵家に嫁いだものの、かつての恋人ロベールへの想いを断ち切れずにいます。自暴自棄となったロベールがギャンブルで私財を失い、公金に手をつけたと知ったエレーヌは自らを犠牲にして金を工面し男を助けようとする…

『突風』の物語はエレーヌ(ファニー・ワード)、男爵(ジャン・ジョッフル)とロベール(ジャン・ダクス)の悲劇的な三角関係を描いていきます。9.5ミリ版はエレーヌと男爵が知りあう場面を切り取って独立したコミカルな寸劇に編集。原作戯曲には含まれていない独自場面のため、この断章だけを見ていても元作品は分かりません。そのため国外の研究者も出典を特定できないままになっていました。

決め手となったのはエレーヌを助ける観客の面々。中央にいる頬のふっくらした男性は男爵を演じたジャン・ジョッフルです。その右、やや額の広い面長な青年は公爵役で出演のジャン・ダヴィド・エヴルモン。左端にはイヴェット・アンドレヨールの姿があります。

『突風』はファニー・ワードの女優キャリアの末期に位置し、彼女がフランスに拠点を移して仏映画に主演した最初の作品でもありました(もう一作バロンセリの『孤星号の秘密』に主演した後に女優業を引退)。『チート』で十全に発揮された美魔女ぶり(1871年生まれ)は健在。また『ジユデツクス』『後のジユデツクス』で知られるイヴェット・アンドレヨールが9.5ミリ作品に登場しているのは本作が唯一です。

[IMDb]
La rafale

[Movie Walker]