] 映画の郷 [ 電子工作部 : 9.5ミリ動画カメラ 復権プロジェクト 1)フィルム加工機をデザインする

2022年から23年にかけ、戦前期の9.5ミリ動画カメラを実使用して動画が撮影できないか何度か挑戦してみました。国外で少なくとも2例、期限切れのフィルムを使用して撮影に成功した例があってそれに倣ったのですが、結果は上手くいきませんでした。

使用期限はあくまで目安であるとはいえ、数十年前のものは感光力は失われていて当然駄目だよね、という話です。数回、数十回と試行を重ねていけば稀に成功するのかもしれませんが再現性はなく、9.5ミリ動画カメラを普段使いしたい目的に届かない感じです。

ということで別アプローチで攻めてみます。イメージとしては以下の流れになります。

1) 35ミリフィルムを手に入れる
2) 35ミリ幅のフィルムから9.5ミリ幅のフィルムを2本切り出す
3) 9.5ミリフィルム用のセンターパーフォレーションを開ける
4) 動画カメラ用のカートリッジに装填、適正な露光で撮影する
5) 自家現像を行う

難易度が高いのは2)~3)。

8ミリ用カメラのダブル8規格では16ミリ用生フィルムをそのまま装填し、撮影・現像後に専用のカッターで二つに切っていました。フィルムそのものを目的に合せて加工する作業そのものは目新しくありません。

実際、大手各社が市場から手を引いた1970年代以降、特に英国を中心に有志が9.5ミリフィルムの販売を手掛けていくのですが、この際も長尺の16ミリや35ミリから9.5ミリを切り出す作業が行われていました。当サイトで何度か名を挙げている英グラハム・ニューナム氏も1990年代後半以降そういった作業に携わっており、同氏のサイトでは当時使用していた機械(以前に英ウォルトン社で実使用されていたもの)が紹介されていました。

16ミリフィルム1本から9.5ミリ1本を切り出し穴あけを行う専用機器 Pathefilm.uk より

また英9.5ミリシネクラブに所属していたビル・クランプリン氏が自作した切り出し機(穴を開ける機能はなし)の写真もみつかりました。

35ミリフィルム1本から9.5ミリ2本を切り出す専用機器 lichtspiel.ch より

フィルムを9.5ミリ幅に切り出し(Slitter)、パーフォレーションを開ける(Perforator)。これさえ手元にあれば問題は一気に解決。しかし日本国内で見つけることができる代物ではありません。3Dプリンターベースで作ってしまう方が良さそうです。ひとまず作業イメージをまとめるためTinker Cadで図面に落としこんだのが冒頭画像です。

1)フィルム・スリッター(切り出し機)

こちらがフィルムを9.5ミリ幅で切り出していくメカニズム。真ん中が完成形、右側がパーツごとに分けたもの。左には35ミリフィルムが9.5ミリに加工されていくイメージ図を付してあります。

ブローニーフィルム(120)を9.5ミリ用に加工していく自作ツールがオンラインにあったので基本設計を借用。土台にカッター刃を固定、緩衝用にスポンジを接着した蓋の部分を押しつけ、フィルムを手で引きながら狙った幅に切断していきます。3Dプリンタから出力されたパーツは表面に凹凸やバリが残りやすいため、フィルムを傷つけないよう本体部にチラシを撒いて保護しています。

4枚のカッター刃(手前灰色)を土台部(薄黄緑色)に固定、蓋を受ける部分(薄紫)は別に出力してビスで固定していきます。押さえつける蓋(赤色)に2ミリ厚のスポンジ(黒)を接着。9.5ミリ幅のフィルムが欲しいだけならこれ単独でも使うことができます。

2)パーフォレーター(穿孔機/パンチ)

問題はフィルム送り用の穴を開けていくシステムです。幾つか方法があって、当初はX軸、Y軸、Z軸の3方向にモーターを配しカッター刃先端の座標を指定して切り出していく方法も考えていました。精度を求めるならこの方法がベストかな、と。ただし全体が大きくなってしまいます。今回は縦15センチ×横6センチ×高さ4センチほどのコンパクトなシステムにまとめたいので金属製のパーツで穴をくり抜いていくことにしました。

以前に「パテベビー解体新書」の実践編でノッチを切り、エンドマークを穿つ専用装置を紹介しました。てこの原理でフィルムにパンチ穴を開けていく装置でした。昔、国鉄の駅員が紙切符にパンチャーで穴を開けていたのと同じで、対象が樹脂フィルムになったものです。

フィルムに等間隔で穴を開けていく。仮に組んだのが上のシステムです。

システムの中心となっているがこの3つのパーツ。灰色は3Dプリンターで出力した土台部。そこに真鍮(あるいはアルミ)製の金属パーツ(下)を接着します。下側のパーツには2.4×1.0ミリの四角い穴が二ヶ所開いています。

上のパーツには2.2×0.8ミリの突起を2ヶ所作っておきます。フィルムを挟んで状態で上パーツの凸部が下パーツの凹部にはまりこむとパチンと四角い穴が開いて、切り取られた切片が下に落ちていきます。

この作業を手動ではなく、連続自動化していきたいのです。とりあえず今考えているのがステッピングモーター(紫色の箱)で円運動を送り、オレンジ色のギア(軸が円中心からずれている)でこの円運動を上下運動に替えてパンチ(合間に黄色のスプリングを噛ませておく)を上下させていく方法です。同じ動きをタイミングベルト(左の長い方)経由でフィルムの受け側に伝えてフィルムを自動で巻き取っていく…

システム全体をアルミ板に固定、遮光性の高い覆いを付け、フィルムの端をセットした後に一旦スイッチをオンにすると35ミリフィルムが巻き取られ始め、連動して9.5ミリ幅の切断&穴あけ作業が行われていく。

オレンジ色のギアのサイズと薄紫の軸の位置で移動距離を調整していくので精度を出すのが難しいのですが不可能ではなさそうです。

システムの複雑さで言うなら以前に組んだ綺乃九五式スキャナーほどではありません。但し今回はある程度の精度が要求されます。それらしく加工できていても、フィルム幅が9.5ミリを超えていたり、穴の大きさが小さかったり等間隔(7.3ミリ間隔)に並んでいなければ撮影機、映写機で詰まってしまう可能性が高いです。上手くいかないようであれば pathefilm.uk で紹介されていたような歯車タイプで穴を開ける手法に切り替える予定。

2024年GWにテスト撮影ができるよう、2か月時間をかけてシステムづくりを試していくことにします。